ショーファードリブン・カーは、とにかく心地がいい。扱いも神経質ではない。外乱があってもびくともしない。だから本当によいものを知っている人ならば、たとえショーファードリブンであろうとステアリングを握ってみたくなる。その代表例がロールス・ロイスだ。伝統的な水平基調のデザインを洗練させたボリュームたっぷりの車体は、意外にもステアリングを握ると見切りがよくて乗りやすい。調度品も嫌味がなく、クルマに使われるマテリアルとしては最高のレザーが使われていて、体にしっとりと吸い付く。
『センチュリー』を知らずしてクルマ道楽は終われない!
そんな英国の高級車にも劣らないメイド・イン・ジャパンの逸品トヨタ『センチュリー』。大量生産が得意な日本車としては異例の、フルハンドメイドに近いプロダクトの価値は、初代モデル以来50年にわたって築き上げた、伝統の賜物である。日本人の心の琴線に触れる、繊細ながら威風堂々としたスタイルは、細部に至る職人の手仕事によって表現されている。たとえばドア下部のクロムメッキ類の加飾は、下地のメッキ層を厚くしてから研磨し、深みを出している。ボディパネル類もつなぎ目を極力少なくして一体感を出し、下部に重厚感をもたせて伸びやかに見せる手法がとられている。そして美しい塗装は7層から成り、何度も研ぎ出すことによって、漆器の如く硬質で、やわらかな雰囲気を醸し出す。このようにして仕立てられた『センチュリー』のエクステリアは、20年着ても魅力あるスーツのように、長年乗っても変わらない味がある。
外の喧騒を忘れさせる絶品のインテリア!
インテリアは装飾的なデザインを抑え、水平基調の王道的手法で設計されている。たとえば、ヘアライン仕上げのアルミ製ドアトリムは、ひとつひとつが職人の手によるもので、控えめな輝きが実に上品だ。このように、木材と金属を組み合わせたインテリアは押し付けがましくなく、上質な腕時計や万年筆の如き、温かみのある感触が心地いい。そのうえ、ウールベースのシートファブリックは腰と背中を落ち着かせて体の動きを少なくさせ、洋服もシワになりにくい。ジェントルマンには大切なホスピタリティーだろう。
『センチュリー』の真髄は、エクステリアから想像する心地よさを、リアシート以上にドライバーが感じる部分にある。そもそもショーファードリブンであれば、リアシートを最高に仕立てればいい。ところがその部分に特化してしまうと、クルマとしてのバランスが崩れてしまう。どんなに素晴しいクルマでも、ドライバーが気持ちよく操作ができなければ、同乗者は快適さを感じることはできないからだ。
その点、『センチュリー』は、ドライバーの意志を確実にクルマへと伝えるという、高級車で最も大切な部分も優れている。これには新たに採用された、極低速から淀みなく加速するハイブリッドシステムの恩恵も大きい。『センチュリー』を操るとき、良質なものを自然体で受け入れられる悦びを知るだろう。日本の感性でつくられた、オーセンティックの極みを知らずして、クルマ道楽は終われないのである。
トヨタ『センチュリー』
●ボディサイズ:全長5,335×全幅1,930×全高1,505mm
●車両重量:2,370kg
●エンジン:V型8気筒DOHC+モーター
●総排気量:4,968cc
●最高出力:381PS/6,200rpm
●モーター最高出力:224PS
●最大トルク:510Nm/4,000rpm
●モーター最大トルク:300Nm
●トランスミッション:電気式無段変速機
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MENS'Precious2018年秋号より
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- WRITING :
- 松本英雄(モータージャーナリスト)