ハリウッドを代表するイギリス出身の名優ケーリー・グラント(1904~1986年)。空気を含んだようなボリュームあるグレースーツは、ネックやウエストなどのポイントを押さえて綺麗なドレープを生む。ケーリー・グラントの着こなしは、簡単そうに見えるが実はかなり難しいが、最も参考にすべき点を含めてテーラー・ケイド」オーナー、山本祐平さんに解説してもらったので紹介する。

グレースーツは、階調を幅広く楽しむ感覚で着る!

グレーの階調を熟知したからこそできた、ケーリー・グラントの洒脱なグレースーツスタイル

フォーマル感の強いネイビーや、スポーティでカントリーサイドの色合いのブラウンに対して、グレーは“シティマナー”として、最も幅のある色調です。チャコールグレー、オックスフォードグレー、ミディアムソフト、ライトグレーまでそろい、さらに生地の素材感によって表情が異なるのがグレーの魅力です。幅の広いグラデーションのなかで、人それぞれのパーソナリティを演出できるのが、グレーだと考えています。

ケーリー・グラントは、そのグレーの階調を熟知してスーツを着こなしています。若い頃からの実体験で、それぞれの年齢に合うグレーのトーンを選んでいます。スーツは、右の写真のようなミディアムグレーが代表的です。シャツは一貫して白で通しています。彼が出演した『北北西に進路を取れ』や『シャレード』などの映画を観ていると、髪の色がロマンスグレーに変化するとともに、スーツのグレーが少しずつ濃くなっているのがわかります。スーツのグレーに対し、若干明るいトーンのタイを締める。Vゾーンのつくり方も含めて、グレーのグラデーションが本当にうまい。

ケーリー・グラントのようなグレーだけで構成するコーディネートは、容易そうに見えますが、実はかなり難しい。彼は戦前のゴールデンエイジの華やかな色の世界から、どんどん無彩色へと研ぎ澄ましていったのです。いわゆる、“引き算の美学”から導き出されたクリーンなスタイルが、ケーリー・グラントの真骨頂。彼の着こなしで最も参考にすべきは、やはり清潔感です。スーツをクシャクシャに着て味を出すキャラクターとは対照的に、彼はどんなに年齢を重ねても、綺麗なドレープでクリーンにグレースーツを着こなしているのです。

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PHOTO :
Getty Images
談 :
山本祐平(「テーラー・ケイド」オーナー)