著述家・田中誠司の「モーターサイクル・ハイライフ」
ここ半年ほどホンダのさまざまなモーターサイクルに触れさせてもらった中で、個人的に最も所有欲を刺激されたのがこの「CB1100 EX」である。
「CB」はモーターサイクルの世界で最も偉大な名跡のひとつと言える。その名を冠するバイクの中でも、「空冷」、「4気筒」、「ネイキッド」という、CBの流れを最も色濃く受け継いでいる。
一流の建築のごとき美しい造形
まず目を奪われるのは銀色に輝くエンジンだ。可能な限り効率的に冷却するためフィンを伸ばしたアルミ製シリンダーと、デュアル・オーバーヘッド・カムシャフト(DOHC)のカバーが作り出す建築物的な美しさに目を奪われる。それぞれの部品の機能を象徴したカタチであるだけなのだが、とても物欲をかきたてる。
クロームメッキが輝くスポーク式ホイールもとても美しい。リアフェンダーやリアショックアブソーバーなど、シルバー系カラーで統一されたディテールは、3種のグレードからなるCB1100シリーズの中でも、レトロテイストの「EX」(136万2900円)にのみ用意される。
荒ぶる魂を内包する1,100ccエンジン
セルフスターターで簡単に目覚めるエンジンは、ボリューム控えめながら骨太な低い響きを放ち、クラッチミートした直後の低回転域から力強いトルクを生み出す。ホンダの4気筒エンジンに期待するとおり、優等生的なスムーズネスを基調とし、スパイスを加えるがごとく、少しの荒々しさを内包している。
最高出力は90psと際立った値ではないが、ライダーの意図に的確に応えるスロットル・レスポンスにより、数字から想像するよりずっとパワーに余裕があるような気にさせるのが面白いし、それが実際のところ公道上で持て余さない範囲の上限でもある。
「CB1100 EX」に用意されたシートは前後ともクッションが厚めで、やや高めに設定されたハンドルバーとの組み合わせからなるライディングポジションにより、ゆったりと周囲を見下ろすことができる。クラシカルな機械的構成と、1,100ccという排気量相応のサイズから、255kgと車体が重いことは事実だが、ハンドル位置や燃料タンク、シートカウルのボリュームなどが、筆者にはピッタリきて心地よく感じられた。
ゆったりした走り方を楽しむのが合う
サスペンションは左右独立式リアダンパーに古典的なタイヤの組み合わせだから、どこか懐かしい動きをする。つまり、極端にペースを速めるような走りに挑もうとは思わないが、そうした走り方を望むなら同じCB1100でも上級のリアサスペンションを備える「CB1100 RS」(140万3600円)を選ぶか、もしくは水冷エンジンでより高性能な「CB1300スーパーフォア」にするのが定石だろう。CB1100 EXは、あくまでその外観相応の、ゆったりした走り方を楽しむのがいい。
装備の面では現代的で、ABSやグリップヒーター、ETC2.0、盗難抑止機構が標準で備わるなど不足はなく、購入のその日からどこへでも向かうことが可能だ。
目立たないことに誇りをもって走る!
現代的でありつつ、きわめて味わい深くもある空冷4気筒ユニットを操りながら、モーターサイクル・メーカーとしてのホンダの着実な歩みを体感することができるCB1100は、世界の大型ネイキッド・スポーツバイクの中核にある。
決して街中を走らせて目立つモデルではない。メジャーなメーカーが昔から作っているから、同じ車種に路上ですれ違う可能性も低くない。しかしホンダというトップメーカーが、自らの歴史を投影したバイクに相応しいクオリティが、全身に行き渡っている。
ネイキッドバイクの王道をゆく「CB」を選ぶこと。それはオーナーにとって、自らが真正面を向いて、過去と現在、そして未来に立ち向かって生きていくという意思表示と言い換えてもいい。
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- 田中誠司 著述家
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