国内旅行をするときに、低価格の移動手段として真っ先に思い浮かぶのは「バスツアー」ではないでしょうか。

長距離バスの発着地となっているバスタ新宿は、週末になると大阪や名古屋といった各都市からの長距離バスが、絶え間なく行きかっています。しかし、バスツアーのイメージと言えば、せま苦しい座席で身体が動かせず、辛かった記憶がよみがえる人も多いのでは?

旅行会社などが提供している予約サイトなどで、バスツアーの価格帯を調べてみると、都内発の関東圏への日帰りの場合は、最安値は3,500円台からと非常にリーズナブル。宿泊代込みでも、都内から関西圏へのバスツアーは格安のものなら2万円台から探すことができます。

そんな低価格が売りのバスツアー業界において、日帰りプランが2万円台からという、富裕層向けの価格設定にも関わらず、ツアー内容によってはキャンセル待ちも発生するほどの人気を博しているバスツアーがあります。

その名も『真結(ゆい)』。

水戸岡鋭治氏デザインのバス『ゆいPRIMA』

JR九州などで車両デザインを手がけているインダストリアルデザイナー・水戸岡鋭治さんによるデザインのバス車両『ゆいPRIMA』に乗車できるバスツアー名です。このツアー提供しているのは、兵庫県にある旅行会社の神姫バスツアーズ。

バスツアーの発着地は、神戸や大阪からが主ですが、関東圏からもわざわざこのバスツアー目当てで乗車する利用客もいるといいます。今回は、「苦しい」「狭い」というマイナスのイメージとは真逆の、ワンランク上のサービスを提供している神姫バスツアーズ株式会社・営業部の小森亮介さんにお話を伺いました。

■高級バスツアー『真結』の大ヒットはデザイナーのおかげ

実は、いきなり『真結』を始めたわけではないとのこと。誕生前、2008年に“ワンランク上のバス旅”と題したバスツアープラン『ゆとり』が組まれていたのだそうです。

「当時はまだ格安バスツアーが全盛期で6,000円を切るような日帰りツアーもあるなか、『ゆとり』は日帰りで20,000円を超えるものもあり、今の高級バスツアーの先駆けともなりました。

『ゆとり』専用車両である『PREMIUM』の内装を手がけたのが、『真結』で乗車できる『ゆいPRIMA』と同じ水戸岡鋭治氏であり、水戸岡氏と弊社とは、これ以来のお付き合いとなっています」(小森さん)

落ち着いた木目調のラウンジ。軽食やドリンクのサービスも

しかし、格安を謳っていたバスツアー業界も、2016年に入ると「貸切バス新運賃制度」の施行により、ツアー価格の実質的な値上げを余儀なくされたのだとか。

「格安バスツアーが実施できなくなってくると、お客様のバスツアー離れが顕著になってきました。そこで、格安バスツアーの『安かろう、悪かろう』の払拭や、バスツアーに付加価値を付けて、高額でも魅力ある商品づくりを目指す方向で取り組んだのが今回の『真結』であり、『ゆいPRIMA』なんです」(小森さん)

漆のような黒さが高級感のある外観

格安ツアーからの、高級化へのシフトは自然な流れ。とはいえ、高額ともいえるバスツアーにも関わらず、ここまでの人気は珍しいこと。疑問をぶつけたところ、利用客が殺到しているのは存在感と「水戸岡さんデザインのバス車両」というブランド力が大きいそうです。

「『ゆいPRIMA』というインパクトあるバスの存在が大きいと思います。観光列車で人気のある水戸岡鋭治氏のデザインとあって、ファンの方も多く、遠くは北海道からのお客様が『ゆいPRIMA』に乗るために、発着地である神戸までわざわざお越しいただいたくらいです」(小森さん)

■1室33万円のプランでも予約が殺到するほどの人気ぶり!

ゆったりとした3列個別となったシート

ただ、バスの内装だけだとリピート層も獲得できません。やはりツアー自体の差別化が大きいのではないでしょうか?

「もちろん、ツアー内容にもこだわっています。特に、通常のバスツアーではあまり企画されない3泊から4泊のツアーに人気が集中します。最長では、7泊8日というツアーも企画しました。

これは日本三景である宮城県の松島、京都府の天橋立、広島県の厳島(宮島)といった観光地を、『ゆいPRIMA』で回るツアーです。宿泊先は4名1室で33万からと高額ツアーだったにも関わらず、予想を上回るお申し込みをいただきました。でも『真結』の一番の魅力は、なんと言ってもアテンダントの存在です」(小森さん)

ゆったりとしたピロー

『真結』のバスツアーでアテンダントは、秘書のようなきめ細やかなサービスで定評があるそうです。

「“ガイド”でもない“添乗員”でもない、お客様ひとりひとりにおもてなしの心でもって接する、ソフト面のサービスが支持を得ています。ツアー当日までに、アテンダントは出発日の1か月前・1週間前・前日付近という3回、お客様あてにお電話をしています。

内容は、申込いただいたお礼はもちろん、結婚記念日や還暦といった今回のツアー参加の動機をお伺いすることや、個別のアレルギー対応など、ツアーへの不安を取り除くこともアテンダントの役目です。事前にいろいろとお話させていただくことで、ツアーの出発日には、“やっと、会えたねえ!”という、まるでお友達のような感覚で接していただけるお客様もいらっしゃいます」(小森さん)

■高級バスツアー『真結』はテーマを取り入れることで差別化

テーブルも使いやすい

今では予約も殺到していて大人気の『真結』ですが、ユーザーから認知されるようになったのは高級バスツアーというブランド認知度が高まった辺りなのだとか。

「弊社では、先行して提供していた『ゆとり』のお客様の下支えが大きかったと思います。また、水戸岡氏のデザインの車両や、30,000円を超える日帰りバスツアーを企画する中で、いわゆる『高級バスツアー』という一個のブランドとしてメディアへの露出が増えたことが、世間への認知につながったと考えています」(小森さん)

テーブル部分も広々としている

高級バスツアーといえども、ただ豪華なだけではないところも大きな特徴なのだそうです。

「この『真結』は、ただ単に絢爛豪華な宿泊施設や、食事内容を盛り込んだバスツアーではありません。ツアーコンセプトを“本物を追求したこだわりの旅”とし、例えば冬ならば“熊鍋”というような、旬を取り入れた“本物”の食事を提供する施設の利用や、葛飾北斎の“富嶽三十六景”に描かれた実際の場所に行く…というような、“テーマ”を取り入れたツアーも好評でした」(小森さん)

そのため、利用者は兵庫県在住者だけではないとのこと。

「参加年齢は、60歳代後半以上が大半となり、最高齢では、ツアーご参加当時93歳というお客様もいらっしゃいました。男女比で言うと女性が多いですが、60歳代以上のお母様と30~40歳代の娘様という親子連れも見受けられます。弊社の主力エリアが兵庫県ですので、お客様の居住地でいうと、圧倒的に兵庫県のお客様です。ただ、通常のバスツアーから比較すると、兵庫圏外からご参加のお客様も、非常に多いです。

もちろん、普通にバスツアーとして旅行したいという目的が多いと思いますが、水戸岡デザインのバスに乗ってみたいという動機が強いと思います。それに、誕生日や結婚記念日というようなアニバーサリーにご利用いただいていることも多いです」(小森さん)

さらに小森さんは、サービス開始直後と比べて3泊以上のツアーの人気が高まっていると言います。

「開始直後では、日帰りであろうと、宿泊であろうと、“水戸岡デザインのバスに乗りたい”という方が多く、ツアー参加理由の第1位でした。しかし、最近では3泊以上のツアーでキャンセル待ちが発生しています。せっかく『ゆいPRIMA』に乗るので、長い日程を楽しみたいということの表れではないでしょうか」(小森さん)

実際に『真結』の利用者からは、ツアー内容の良し悪しよりも、サービスに対してアテンダントや運転士に対しての感謝の言葉が多いのだとか。お客様に安心・安全にツアーを楽しんでいただきたいというスタッフの姿勢が、いちばん評価をいただいているとのこと。

低額が主流だったバスツアーにおいて、付加価値を付けることでユーザーの満足を高め、リピーター層も生まれるなど成功したと言える高級バスツアー。少し前から話題となっていたJR東日本の「四季島」や、R九州の「或る列車」「ななつ星in九州」のような、観光列車の流れを汲んでいるのかもしれません。あなたも高級バスツアー、体験してみませんか?

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この記事の執筆者
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WRITING :
池守りぜね