2018年夏、第7代国連事務総長として活躍した、コフィー・アナン氏が逝去した。2001年にノーベル平和賞を受賞したことで知られる彼だが、クラシックな装いを愛する紳士の間では、彼は世界屈指のウェルドレッサーとして畏敬の念を集めていた。ブリオーニのスーツを完璧なフィット感で着こなす彼の姿は、1990年代後半に隆盛を極めた「クラシコイタリア」的なる装いに、大きな影響を与えたものだ。そんな世界屈指のウェルドレッサーは、装いにまつわるひとつの逸話を残している。
チーフは単なる装飾ではなくマナーのひとつ
1999年3月24日、コソボ紛争の和平を目ざしていた彼の尽力を無にするような形で、アメリカをはじめとするNATO軍は、国連安保理決議なしにユーゴスラビアを空爆。それ以来、彼が胸ポケットにチーフを挿したことはなかった─というものだ。果たしてこれは超大国アメリカへの「抗議」だったのか、無力な自分への「戒め」だったのか、今となっては真意はだれもわからない。しかし彼ほど完璧に装いの教養を身につけた紳士が、そのマナーを自ら捨て去ったことには、間違いなく大きな意味があるはずだ。
コフィー・アナンの美学
今やG7をはじめとする先進国の首脳たちの間で、日常的にポケットチーフを挿しているリーダーは皆無となった。チーフが単なる装飾ではなくマナーだということすら知らぬ彼らには、コフィー・アナンの美学を理解することなどできないだろう。
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- MEN'S Precious編集部
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