ダブルのスーツ、ボウタイ、そしてセルフレームのアイウエア。その建築作品のみならず、建築家のたたずまいまでも規定してしまったかのような、ル・コルビュジエ。その装いは時が経ってもわれわれに大きな影響を与えてくれる。今もなお個性派ダンディとして注目を集めているル・コルビュジエのスタイルについて紹介する。
前例となる男の特異なスタイルとは
コートなどのアウターウエアのブランド「コヒーレンス」のクリエイティブディレクターを務める中込憲太郎氏。往年のレジェンドたちから着想する服づくりを行っている「コヒーレンス」には、2015年のブランドスタート時から、ル・コルビュジエのスタイルから着想されたコート『CORB』がラインナップされている。そこでメンズウエアブランド「コヒーレンス」「オルビウム」クリエイティブディレクターを務める中込憲太郎さんに、ル・コルビュジエの装い、そして彼のスタイルの魅力について話を聞いた。
「幼少の頃から映画や音楽、文学などに自然に触れてきた中で、特に強いプレゼンスを発する人物たちに興味を持ち、影響を受けてきました。それは「コヒーレンス」のモデル名の元となっている、アルベール・カミュや藤田嗣治、そしてル・コルビュジエに繫がっています。ル・コルビュジエの魅力は、独特な審美眼による服装はもとより、彼の存在自体の強さにあると思っています」
「コヒーレンス」において中込氏が追求しているもののベースにあるのは、風に揺れ、たっぷりとボリューム感のある、ロマンティックなコートのイメージ。それは1920年代の紳士たちのスタイル、または1950年代のフレンチシネマの着こなしなどから導かれているという。そして『CORB』に関しては、マン・レイが撮影した、まだ若きル・コルビュジエのコート姿のポートレートがイメージソースになっている。その写真のコートは、バルマカーンでもテーラーカラーでもない、それらの中間といえるような襟が印象的。
このディテールは『CORB』にも採用された。さらに、ル・コルビュジエのトレードマークとなる丸型のアイウエア&ボウタイの装いがこの写真にも見ることができる。「もともと目がよくなかったル・コルビュジエは、それを逆手にとって、ラウンド・セルフレームのアイウエアとボウタイの組み合わせを、セルフプロデュースのアイコンに使ったのだと思います。彼の弟子やフォロワーたちが同じようなアイウエアを選んでいることからも、そのカリスマ性、影響力がよくわかります。建築家というのは才能はもちろん、プロジェクトの成功のためには職業的な政治力なども求められます。そのためにはイメージも重要で、ル・コルビュジエはその点において戦略的に成功した例といえるのではないでしょうか」
また、ル・コルビュジエの写真をいくつか確認すると、ジャカード素材や紡毛系のスーツ、ドビー柄のシャツなど、柄と柄を組み合わせた着こなしが多く見られるという。
「ミニマルな建築で知られた人が、自身の装いでは柄物を愛好していたというのは、なかなか面白い事実ですよね。今見ても十分ユニークですが、当時にしてみるとかなりアヴァンギャルドな装いだったのではないでしょうか」
時代を変革する、エポックメイキングな建築作品を数多く手がけた巨匠だが、中込氏がル・コルビュジエという存在に感じる面白さは、少し違った視点からのものだ。
「ル・コルビュジエ自身の爆発的な大きさ、ということに興味があります。20世紀前半という時期に、自分が新しく考えたコンセプトを人に納得させる、そのプレゼンテーション能力。なおかつセルフプロデュースができて、その上政治力も備わっている。ピカソなどとも似ていますね。それはつまり、前例となる人、ということかもしれません。たとえばセザンヌが山を描いた後、セザンヌのように山を描くか、またはそう描かないかしかなくなったと表現されたように、モダン建築家像の雛型をつくり上げた人だと思います」
もしル・コルビュジエという前例がなかったとしたら、現代社会における建築家の位置付けや行動様式、さらにはそのパブリックイメージはまったく違っていたのではないか。ゆえに彼のスタイルが、私たち現代人の関心を惹きつけてやまないのだ。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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