列車旅の新しいスタイルとして、注目を浴びている「クルーズトレイン」。

列車自体がまるでホテルのような快適な空間に設計され、さらに移動することで車窓の眺めや行く先々の変化も楽しめる。リラックスとさまざまな刺激を一度に味わえる、まさに贅沢な旅に人気が殺到しています。このクルーズトレインの始まりから現在の動きについて、鉄道ジャーナリスト・渡部史絵さんに執筆いただきました。

『ななつ星 in 九州』1号車のラウンジカーは、ホテルのスイートルームのような内装。大きな車窓から流れゆく九州の自然が、最高の仕上げに。©JR九州
『ななつ星 in 九州』1号車のラウンジカーは、ホテルのスイートルームのような内装。大きな車窓から流れゆく九州の自然が、最高の仕上げに。©JR九州

クルーズトレインが注目を浴びるきっかけになったのは、JR九州の『ななつ星 in 九州』だと思います。その後、JR東日本で『カシオペアクルーズ』、JR西日本は『特別なトワイライトエクスプレス』等、同様の企画列車が多く登場しました。

近ごろは『ななつ星 in 九州』の安定した集客数を鑑みて、大きなところではJR東日本が『TRAIN SUITE 四季島』、JR西日本が『TWILIGHT EXPRESS 瑞風』など、専用車両を発表しています。ターゲットは同じく富裕層向けなのですが、『ななつ星 in 九州』とは、また違った魅力を演出するために、施設の充実を図っています。例えば、最高級の部屋にバスタブの設置などです。ただ、コースによっては、かなり高額のものも設定されており、実際の乗車は富裕層の中でも限られた人向けのようにも思えます。また、これら富裕層の利用が一巡してしまった時のリピーター対応などをしっかりしておかないと、運行継続に支障をきたしてしまうでしょう。反面、高額な運賃料金も、これらの列車にプレミアム感を持たせているので、安易なディスカウントは、富裕層離れを引き起こす可能性があります。現在では、もてはやされているクルーズトレインですが、これから先が、本当の勝負時ではないでしょうか?


代表的なクルーズトレイン3つをご紹介!

2017年には、いよいよ後発の大型クルーズトレインが運行開始。ついにそろう、JR3社を代表するクルーズトレインの特徴をチェックしてみましょう。

クルーズトレインの先駆者にして無二の存在 「ななつ星 in 九州」

クルーズトレイン。「ななつ星 in 九州」の内観 ©JR九州
クルーズトレイン。「ななつ星 in 九州」の内観 ©JR九州

クルーズトレインの先駆けとなった「ななつ星 in 九州」。木やファブリックを使った上質な空間を楽しみながら、九州を周遊することができる、今なお予約困難の人気列車。

■「ななつ星 in 九州」の詳細はこちら

上野駅から始まる四季のうつろいを味わう旅 「TRAIN SUITE 四季島」

TRAIN SUITE 四季島のラウンジカー ©JR東日本
TRAIN SUITE 四季島のラウンジカー ©JR東日本

JR東日本より2017年5月1日に運行開始予定。上野駅から北陸や東北、遠くは北海道の登別まで、名前通り四季のうつろいを五感で堪能できます。スイートには檜風呂も!

■「TRAIN SUITE 四季島」の詳細はこちら

片道利用もOKの手軽さに期待 「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」

クルーズトレイン、TWILIGHT EXPRESS 瑞風の内観。 ©JR西日本
クルーズトレイン、TWILIGHT EXPRESS 瑞風の内観。 ©JR西日本

JR西日本から2017年春に運行開始予定のクルーズトレイン。京都・大阪と下関の間を、山陰・山陽地方を楽しみながら巡ります。片道利用も可能で、旅のオプションとしても手軽に利用できそう。

■「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」の詳細はこちら

渡部さんは、今後のクルーズトレインの展開についてこう予想しています。


現在のクルーズトレインは、列車の編成や車両重量、保安装置の種類により、入線できる路線が決まっています。そのため今後は、途中のローカル線ではプチクルーズトレインに乗り換えるという方式のツアーが、登場するのではないかと予測しています。宿泊を伴う豪華なクルーズトレインは、JRなど限られた鉄道会社でしか実現は難しいです。路線距離の短いローカル線などでは、豪華なクルーズトレインは、夢のまた夢です。

しかし近年では、しなの鉄道の『ろくもん』や、いすみ鉄道の『レストラン列車』、五能線の『リゾートしらかみ』など、お得な料金で楽しめる「観光列車」が流行しています。車内でその地元ならではの食事がとれたり、沿線の郷土芸能を楽しめたりもするので非常にお勧めです。

これらの観光列車は、ローカル線の救世主となり得る存在です。沿線の宿泊施設などと組んで「ミニクルーズトレイン」などと称して誘客するのも面白い企画でしょう。

人はなぜ、旅をしたくなるのか?それは、五感に刺激が欲しいという、人の摂理からではないでしょうか。高価なクルーズトレイン、プチ贅沢な観光列車、いずれの列車であっても、きっとあなたの五感を満足させ、次の旅へいざなってくれる筈です。


一生に一度は乗ってみたい夢のような豪華なクルーズトレインから、手軽に楽しめる観光列車まで、さまざまな旅の選択肢が増えるのはうれしいもの。今までなかなか旅の目的に挙がりにくかった「列車旅」の良さを、今一度発見できる、素敵なきっかけになりそうです。

この記事の執筆者
2006年より公式に鉄道関係の活動を開始。鉄道の有用性や魅力を発信するため、鉄道に関する書籍の執筆や監修に日々励む。月刊誌や新聞等の連載や寄稿など執筆活動を主体に、国土交通省をはじめ、行政や大学、鉄道事業者にて、講演活動等も多く行っている。著書に、『首都東京 地下鉄の秘密を探る』 (交通新聞社新書)、『鉄道なぜなにブック』(交通新聞社児童書)、 『譲渡された鉄道車両』、『路面電車の謎と不思議』(東京堂出版)、『鉄道のナゾ謎100』、『鉄道のナゾ謎99』(ネコ・パブリッシング )、『進化する路面電車』(交通新聞社) など多数。 好きなもの:鉄道(特に路面電車やローカル線)、取材活動、読書、メモ、散歩、落語鑑賞、LRT、観光列車、サンフランシスコ、温泉、ティファニー、ハート、宮脇俊三、花上嘉成、駅弁、チョコレート、チーズ、ベーグル、ワイン、白米、シナモン、レーズン、コーヒー、チャイ、ミニチュアダックスフンド
公式サイト:鉄道ジャーナリスト史絵.の鉄道旅
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クレジット :
文/渡部史絵 構成/安念美和子