「ヴァレクストラ」のトリックトラックは、いつの時代も持つ人の個性を際立たせる傑作である

「ヴァレクストラ」と聞けば、正統派のブリーフケースを思い浮かべる読者も多いだろうが、コレクションにはメンズ、ウィメンズ問わず自由な発想から生み出されたデザイン性の高いアイテムが豊富に揃っている。本稿で紹介する、トリックトラックもまた、50年以上前に生み出されたとは思えない、今日性を帯びた永遠のマスターピースである。

ボックス型のユニークなプロポーションが印象的な「ヴァレクストラ」のトリックトラックは、ロンドンのタクシーの運転手たちがコインやレシートを収納する小箱に着想を得てデザインされた1968年生まれのバッグだ。ファッションをはじめとする様々なカルチャーが一気に花開いた60年代後半から70年代にかけて男性の間で大ヒットし、以降、「ヴァレクストラ」が打ち出す最先端でありながらアバンギャルドなスタイルの象徴として現在でもマテリアルやカラー、サイズを変え、様々なバリエーションが登場している。

細部の仕上げに宿るイタリアの伝統的なアルチザン

【W17×H13×D9cm】バッグ￥228,800（ヴァレクストラジャパン）※税込価格

素材には柔らかで手触りの良いソフトカーフスキンを採用。ボックス型でありながらエッジ部分の優美なラインからは、上質な素材使いと卓越した縫製技術が伺える。コバと呼ばれるレザーをカットした端の部分には、ブランド独自の染料“コスタ”を使い、熟練職人が手作業で何層にも塗り重ねて磨き上げるなど、微に入り細に入り崇高なクラフトマンシップが息衝いている。

性差を問わないデザインは、持つ人によって、小粋な印象や凛とした佇まいなど、それぞれの個性を際立たせる多面的なイメージを演出してくれる。男性らしさや女性らしさといった呪縛や従来のジェンダー規範では括れない、手元を彩る自由なムードは、多様性を尊ぶ現代に相応しいアイテムと言えるだろう。