『こうもり』は、一般的な認知度は低いかもしれないが、オペラ好きにはよく知られた、楽しく、小粋で、とにかく肩の力を抜いて楽しめるコメディ。 ドイツ語上演だが(字幕あり)、ストーリーを予習しておけば、演技に集中できる。

夜会で出会った謎の貴婦人を熱烈に口説いたら実は妻だった!?

 物語をかいつまんで言うと……、倦怠期を迎えた夫婦を軸に、その夫に対する意趣返しを企む友人、その妻に言い寄る元恋人といった人々が、豪勢な貴族の邸宅や華やかな仮装舞踏会の場で虚々実々の駆け引きを繰り広げる、というお話。 

 無条件に笑えるオペラ初心者におすすめの演目で、ドイツやオーストリアの劇場では年末年始に恒例のように上演されている。 

 ワルツ王、ヨハン・シュトラウスII世によるオペレッタの最高傑作と言われる『こうもり』。「小さなオペラ」という意味のオペレッタは、日本では喜歌劇、軽歌劇とも呼ばれる。16世紀末に始まったオペラの歴史の上では、芸術性が高まる一方であった19世紀半ばから20世紀初頭にかけて、パリやウィーンで一世を風靡した風刺の利いた軽妙な喜劇がオペレッタだ。1874年が初演の『こうもり』にも、とにかく観客に笑って喜んでもらおうという思いがたっぷり詰まっている。と同時に、客席を沸かせる対話や台詞の多いオペレッタの歌い手は、十分な経験と高い演技力とが要求される。 

 新国立劇場オペラ2018年の幕開けを飾る『こうもり』で、主人公のアイゼンシュタインを演じるのは、ウィーン生まれのバリトン、アドリアン・エレート。ウィーン国立歌劇場で大人気の彼は、歌だけでなく、演技に対しても高い評価を得ている。新国立劇場では、2011年、2015年の『こうもり』でアイゼンシュタインを演じて、観客の心をがっちりと掴んでいるエレート。すでに日本のオペラ・ファンの多くが贔屓にしている歌手のひとりなのだ。 

 もうひとり注目すべきなのが、オルロフスキー公爵を演じるステファニー・アタナソフ。役名と歌手名を比べて「あれっ?」と思ったオペラ初心者に少々解説を。オルロフスキー公爵とは裕福なロシア貴族で男性。ステファニー・アタナソフは、もちろん女性。つまり、アタナソフは男装をして舞台に立つのである。

注目したい『こうもり』のふたりの歌い手

写真左/主人公のアイゼンシュタインを演じるアドリアン・エレート。写真右/オルロフスキー公爵を演じるステファニー・アタナソフ。
写真左/主人公のアイゼンシュタインを演じるアドリアン・エレート。写真右/オルロフスキー公爵を演じるステファニー・アタナソフ。

 オペラには、このように女性が男性を演じる役柄があり、これをズボン役という。多くはメゾソプラノが演じるが、ウィーン生まれのアタナソフはヨーロッパ各地の劇場での出演を重ねる注目のメゾソプラノ。実は、今回の『こうもり』の前の公演、2017年最後の12月公演の『ばらの騎士』にもアタナソフは出演しており、こちらでもズボン役を披露。演じた青年貴族、オクタヴィアンの惚れ惚れする容姿に魅了された観客も多い。男装の麗人だけでなく、女性の役柄のアタナソフの舞台も観てみたいものである。 

男装の麗人、アタナソフ

新国立劇場「ばらの騎士」2017年公演より 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場
新国立劇場「ばらの騎士」2017年公演より 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

 全3幕からなる『こうもり』はドイツ語上演。幕が上がり、劇が始まると、舞台両脇の字幕につい目がいってしまいがちだが、ストーリーは予習しておいて、当日は、芸達者なエレートと、凛々しいアタナソフの演技に目を向けるようにしたい。美しいワルツやポルカにのせて繰り広げられる喜劇。新国立劇場2018年の幕開けはオペレッタ『こうもり』で大いに笑って、幸せな時間を過ごしたい。

新国立劇場「こうもり」2015年公演より 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場
新国立劇場「こうもり」2015年公演より 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

新国立劇場 2017/2018シーズンオペラ
ヨハン・シュトラウスII世『こうもり』【全3幕/ドイツ語上演 日本語字幕付】
公演日:2018年1月18日(木)~28日(日)
会場:新国立劇場 オペラパレス/東京都渋谷区本町1-1-1 

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この記事の執筆者
音楽情報誌や新聞の記事・編集を手がけるプロダクションを経てフリーに。アウトドア雑誌、週刊誌、婦人雑誌、ライフスタイル誌などの記者・インタビュアー・ライター、単行本の編集サポートなどにたずさわる。近年ではレストラン取材やエンターテイメントの情報発信の記事なども担当し、ジャンルを問わないマルチなライターを実践する。
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