スペクタクルな舞台装置と、感情を揺さぶるような演出で、人々を魅了してやまないオペラやバレエの世界。興味はあるし、行ってみたいとは思うけれど、敷居が高そうなイメージもありますよね。
そんな「劇場でオペラやバレエを観るのは初めて!」という方のために、Precious.jp編集部が、チケットの購入から鑑賞までの流れ、気をつけておきたいマナーなどを一挙手一投足、実際に体験してきました。
舞台となるのは、東京・初台にある「新国立劇場」。
スタートは、新国立劇場のメインエントランスから。今回、私たちを案内してくれるのは、新国立劇場バレエ団のプリンシパル(トップダンサー)、米沢 唯さんです。
■1:それぞれの席の見え方・価格帯を知る
オペラやバレエの席種は“見え方”を基準に細かく設定されていて、S席は1階から2階、A席は2階、B席は2階と3階、C席は3階と4階、D席は3階と4階にまたがります。
舞台の“美しさ”を完璧に味わうためには、やはり1階の中心寄りの席がベスト。しかし、前の席に大柄な方が来てしまうと見えづらくなってしまうリスクもあるため、女性には「2階以上の左右にあるバルコニー席」や「3・4階の前方の席」もおすすめです。
バレエの場合、前方のS席やバルコニー席は舞台に近いため、ダンサーひとりひとりの迫力ある表情や、繊細な表現をはっきりと目にすることができます。一方、3・4階席は舞台全体を把握できるので、フォーメーション(ダンサー達の描く形)の美しさを楽しむことができる、といった特徴があります。
また、当日販売のみのZ席は1,620円と安価ですが、舞台が少し見えづらい位置にあるといった難点があります。しかし、「音楽をじっくり聴きたい」という方や、何度も繰り返し見たい方など、“通”の方にZ席は人気なのだそう。
S席からD席まで5種類のお席の価格は…
オペラの場合、最高額のS席が20,000円前後~27,000円程度、比較的手ごろなD席は3,000円~5,000円程度で、価格は作品の規模などによって異なります。
バレエの場合、最高額のS席が15,000円~10,000円程度、比較的手ごろなD席は3,000円程度となっています。
■2:チケットを手に入れる
新国立劇場のチケットは、劇場ボックスオフィスの窓口か電話予約、WEBボックスオフィスで購入可能。チケットぴあ、イープラス、ローソンチケットなどの各種プレイガイドでも購入することができます。
初めての方には、新国立劇場が運営するボックスオフィスでの電話予約がおすすめ。劇場や公演の内容を熟知したオペレーターが対応し、予算などに応じて購入をサポートしてくれます。目当ての公演などが特に決まっていない場合は、希望する時期やイメージに合わせた公演をおすすめしてもらうことも!
電話予約の際にクレジットカードを利用する場合は、公演当日までチケットを預かってもらうことができます。来場する際に、ボックスオフィス窓口で確実に受け取ることができるため、チケットをなくす心配もありません。
何度か公演に足を運び、ある程度慣れてきた方には、WEB上のボックスオフィスやプレイガイドでの予約もおすすめです。
さて、チケットを受け取ったらいよいよ入場です。
■3:服装の選び方とクロークの使い方
オペラやバレエの鑑賞をするうえで、気になることのひとつは『服装』ではないでしょうか?
オペラの場合、公演時間や休憩時間が比較的長いため、“周囲から見られる”ことも意識した服装でいたいもの。特に、周りに不快感を与えるような服装や、強すぎる香水には注意が必要です。また、ガサガサと音をたてるナイロンのコートや袋などは、自分自身も気になって窮屈な思いをしてしまうため、持ち込みを避けた方が無難です。
ロングドレスなどを着ている人は多くありませんが、結婚式の二次会で着るような、華やかなワンピースなどでも浮くことはありません。また、『プルミエ』と呼ばれる初日公演は、通常よりも格式が高い公演となるため、自分を高めるつもりで、ワンランク上の服をまとって劇場を訪れてみてもよいでしょう。
とはいえ、品よく着ることを意識すれば、デニムやざっくりしたニットなどのカジュアルな服装でも、まったく問題はありません!
バレエの場合は、オペラよりも比較的カジュアルな服装でOK。社交界の舞踏会に参加するようなドレス姿の人はめったにいませんが、劇場という非日常の空間を楽しむためにも、いつもよりちょっぴりオシャレする程度がよさそうです。
大きな荷物がある場合や、冬場でコートを着用しているときなどは、『クローク』と呼ばれる荷物預かりサービスを利用しましょう。引き取りの際に必要な番号札を渡されるので、なくしてしまわないようにしっかりと保管しておいて。
開演時間が迫るとクロークには長蛇の列ができるため、少なくとも15分前には劇場に着いていたいところ。お手洗いに行く、席を探す、プログラムに目を通すなど、ほかにも何かと時間がかかるので、余裕をもった到着を心がけましょう。
30分ほど前に着いて同行者と合流し、軽くお茶でも飲みながら開演を待てば、さらに贅沢な心の準備ができるはずです。
開演ギリギリに着いてしまうと、劇場の入口から席まで走り過ぎ、コートも預けられず、開演直後には汗を拭くのに大わらわ…なんてことにも。不慣れな方は、臆せず係員に質問するのがスマートです。なお、開演後はほかのお客さまの迷惑になるため、自分の席までたどり着けない場合もあります。
■4:オペラグラスを借りる
『オペラグラス』とは、舞台上の出演者を眺めるための双眼鏡のようなもの。新国立劇場の場合、劇場入り口付近にオペラグラスの貸し出しをしているコーナーがあり、使用料は500円となっています。
オペラの場合、3~4階席からは、出演者の顔や表情はさすがにはっきりとは見えないため、オペラグラスはおおいに役立ちます。これまでのオペラ歌手というと、小太りの体型をイメージする方も多いと思いますが、現代のスター歌手の方々はイケメン・美女ぞろい、かつ演技も一流! オペラグラスでじっくりと観るだけの価値があります。衣裳も上質な素材を使用した素晴らしいものなので、オペラグラスで細部まで観察する、というファンもいるそう。とはいえ、オペラグラスを使用しているときは、舞台左右にある字幕が見えなくなってしまうため、あらすじを事前にある程度、頭に入れておく必要があります。
バレエの場合は「ダンサーの表現や動きをよりじっくり観たい!」という人が、オペラグラスを使われることが多いそう。ただし、オペラグラスで見ると舞台全体が見えなくなってしまうため、要所要所でかけるのが望ましいでしょう。
クロークに荷物を預け、オペラグラスを借りたら、ついに劇場内へ!
■5:プログラムを手に入れる
劇場内に入ったら、ホワイエ(劇場内のロビー)でプログラムを手に入れましょう。オペラの場合、プログラムはホワイエのショップにて購入可能。
作品の予習はマストというわけではありませんが、主な登場人物の名前と人間関係を理解できていなければ、舞台両脇に出る字幕を読んでも、「あれ?」ということになりかねません。オペラは進行が早く情報量も多いので、物語に取り残されてしまうと、とてももったいないことになります。事前に予習できなかった場合は、席に着いてからでも遅くはないので、プログラムに軽く目を通しましょう。
バレエの場合は、プログラムはホワイエで無料配布されているので、受け取るのを忘れずに。
特に、バレエは身体表現がセリフに代わるものなので、プログラムに目を通しておくと、より一層舞台に集中して鑑賞することができます。物語のあらすじのない作品の場合は、ダンサー達の身体が描き出す美しい動きを堪能しましょう。バレエは身体表現の芸術のため、自分の中の想像力を膨らませて観ると、幾通りにも楽しむことができます。
■6:シャンパンや軽食を楽しみながら、ホワイエで優雅なひとときを
オペラの公演は2幕~3幕仕立てで、全体で3時間程度。2幕の作品ならば休憩は1回、3幕ならば休憩2回が標準で、休憩時間は1回につき25分前後と長めです。バレエもオペラ同様の構成となっていますが、休憩時間は1回につき20分前後と若干短め。
「幕」というのは場面のことで、幕が替わると通常はいったん緞帳(どんちょう)と呼ばれる幕が降り、舞台転換が入ります。休憩の前後で、すっかり違うシーンが展開されるという訳です。幕数や休憩のタイミング、終演時間などは、劇場の入口に掲示されるほか、WEBサイトでも最新の情報が掲載されます。
休憩に入ると全員が一斉に席を立ち、ホワイエでシャンパンや軽食を楽しみながら、周りの人との歓談などで気分転換をします。休憩時間の過ごし方は海外の劇場でも共通のため、ぜひマスターしてほしい観劇習慣です。
新国立劇場では、劇場内のレストラン直営のブッフェが出店しているので、小腹を満たせる軽食やおつまみ、スイーツなど、フードメニューも充実しています。公演にちなんだ特別メニューがある場合も!
日本でも少しずつ定着してきましたが、休憩後に席に戻った際は、奥の席の人が入ってくる時にはいったん立ち上がり、「どうぞ」と声をかけて前を通ってもらう、というのも世界共通のマナー。ヨーロッパでは、奥の人が来るのを待ち全員が立ったままだった場合、「あら、お待たせしちゃってゴメンナサイ!」なんて、冗談交じりにあいさつを交わすこともしばしば。
大切なのは、一緒に鑑賞している人は、同じ目的で集まった仲間だ、という意識を持つこと。周りが見えず、自分たちのおしゃべりだけに夢中になってしまうのはマナー違反です。
7.有名作品や、見どころを知る
オペラでは、作曲家によって多くの有名作品があります。たとえば、ビゼーの『カルメン』や、ヴェルディの『リゴレット』などは、聞いたことのある曲も多い人気作品。また、プッチーニの『ラ・ボエーム』は、映画のようにドラマティックなストーリーで感情が移入しやすい作品です。
オペラらしい、豪華絢爛なスペクタクルさに度肝を抜かれるのは、同じくヴェルディの『アイーダ』ですが、大掛かりな舞台演出のため本格的な上演の機会が少なく、チャンスがあれば観ておいて損はない作品です。ピアノや弦楽器など器楽がお好きな方には、モーツァルトの『魔笛』や『フィガロの結婚』などもおすすめです。
有名なアリアや前奏曲など、“聴きどころ”と言われる曲が、オペラには必ずあります。
『椿姫』の「乾杯の歌」や、『トスカ』の「歌に生き、恋に生き」、『蝶々夫人』の「ある晴れた日に」など、どこかで耳にしたことのある曲がきっとあるでしょう。動画検索サイトなどでも簡単に見つけることができるので、あらすじとともにチェックしておくと、本番でも聞き逃さずに済みますよ。
バレエの代名詞とも言われる作品は、ご存じ、『白鳥の湖』。ロシアの巨匠、チャイコフスキーが作曲した、『白鳥の湖』、『くるみ割り人形』、『眠れる森の美女』は、“チャイコフスキー三大バレエ”として世界中で愛されている名作です。誰でも一度は耳にしたことのある曲が数多く使用されているため、初めての方にも親しみやすい作品となっています。
また、『ロメオとジュリエット』は、シェイクスピアの物語を原作にバレエ化した演劇的な作品。プロコフィエフ作曲の音楽も劇的で美しく、バレエファンのみならず、演劇ファンや音楽ファンにもオススメの作品です。
バレエでは、ダンサーたちの技を活かした回転や跳躍が“見どころ”。『白鳥の湖』や『ドン・キホーテ』で女性ダンサーが見せる32回転や、男性ダンサーの迫力ある跳躍もそのひとつ。また、バレエダンサーの鍛え上げられた美しい姿は、それ自体が“見どころ”といえるでしょう。主役はもちろんのこと、群舞を踊るコール・ド・バレエが創り出す美しいラインやフォーメーションも、ぜひ楽しんでいただきたいです。バレエには、CMなどのBGMとして使用されている曲も多いので、お気に入りの作品をオーケストラの生演奏で聴きたい、という方もきっと満足できるはずです。
以上、米沢 唯さんとともにお送りしてきた『オペラ・バレエ鑑賞』入門ガイド、いかがでしたか? 非日常を感じる空間で感動を味わい、教養も深まるオペラやバレエの鑑賞は、ちょっと大人な自分磨きにもぴったり。オペラ歌手やバレエダンサー、舞台装置や衣裳、そして音楽が一体となった、至極の世界がそこにはあります。これを機に“オペラ・バレエ鑑賞デビュー”をして、一度ならず二度、三度と、劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
- TEXT :
- 米沢 唯さん バレリーナ
- クレジット :
- 撮影/五十嵐美弥(小学館写真室) 取材・構成/難波寛彦