オールド世代は、シガーやレザーやウイスキーや、それにガソリンエンジンの匂いに弱い。クルマでいえば、たとえば最近のトヨタなんか、男心をくすぐるモデルを送り出してくれている。GRヤリス、ランドクルーザー、GR86といったぐあいに。
ところが、というか、そのトヨタ自動車が、2021年12月14日に記者会見を開き、バッテリーEVの台数を大きく増やすという。トヨタ自動車をおさめる豊田章男プレジデント&CEOは、「2030年にバッテリーEVのグローバル販売台数で年間350万台を目指します」と発表したのだ。
多様化した世界に対応する生産計画
「私たちは、できる限り多く、できる限りすぐに、CO2を減らさなければなりません」。豊田CEOは、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)への取り組みの重要性を説く。
たとえば、トヨタ自動車は、2021年10月29日に、SUBARUと共同開発のピュアEV「bZ4X」を発表ずみ。22年夏の発売とする。今回の記者発表会の会場でも、豊田CEOの背後には、なんと14台のEVコンセプトモデルが置かれ、コンパクト、セダン、SUV、スポーツと多彩な陣容を感じさせてくれた。
ここから、さまざまなモデルが量産化に向けて開発が継続されるだろう。“あれはひょっとしてクラウンのSUV? あっちはMR2のEV版?”なんて声が会場から上がったのが、私にはとくにおもしろかった。みんなクルマが好きなんだあという思いを強くしたからだ。
トヨタ自動車が、めったに見ることの出来ないEVのコンセプトモデルを一堂に集めて大きな記者会見を行った背景には、トヨタはEVに熱心でないのでは、という一部の声(とくに欧米のメディア)に対するデモストレーションの意味もあっただろう。
トヨタは、2022年から2030年までにEVの研究開発や設備投資として、バッテリー駆動EVのために4兆円(うち電池投資が2兆円)、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、燃料電池(水素)のために、さらに4兆円を投じる、という発表もこのときなされた。
しかし、というかんじで、豊田CEOは言葉を続けた。
「私たちは、多様化した世界で、何が正解か分からない時代を生きております。その中では、ひとつの選択肢だけですべての人を幸せにすることは難しいと思います」
トヨタ自動車の主張は、ここまで巨額の投資をしつつ、350万台という生産計画を発表しながらも、完全にEVへは舵は切れない、というものだ。
「350万台という数字は、だいたいメルセデス・ベンツの年産台数と同じ。そうみればかなりのものだとわかっていただけるはず。それでもトヨタ全体のなかでは65パーセントが、非EVです。なぜかというと、北米や南米をはじめ、ピュアEVが使えない市場もあるからです」
新しい技術への期待に胸躍る
やはり記者会見に同席した、トヨタ自動車で執行役員を務める前田昌彦チーフテクノロジーオフィサーも、豊田CEOの発言を受け、ブラジル市場向きに開発した低公害のバイオエタノール燃料(フレックスフュエル)ハイブリッド車の存在を指摘。
「現在のカーボンニュートラルを考えるとき、課題は炭素の排出をなくすことだとしたら、バッテリーEVいがいの選択があってもいいかもしれません。ものを燃やしてエネルギーを取り出すのは、人類がつくった芸術的技術だと思うんです。いま私どもが取り組んでいるひとつが、水素を燃料にしたエンジン。内燃機関の開発も、あきらめずにやっていくつもりです」
前田CTOの発言は、自動車好きとしては、新しい技術への期待に胸躍るものがある。じっさいにトヨタでは「スーパー耐久」シリーズにモリゾウのドライブで、水素エンジンのカローラを投入。完走している。
1000万台の生産規模の大メーカーが、すべての車種をBEV化するのはなみたいていのことではない。エンジンを載せていながら、脱炭素の目標を達成できたら、すばらしいことではないか。
バッテリー駆動のEVに、トヨタ自動車を含めた世界中の自動車メーカーが向かわざるをえないのは、欧米のトレンドが、そちらを向いてしまっているからだろう。株主対策という点からしても、この流れに棹さすようなことは賢明でないという判断も。
将来のスポーツEVへの期待
この記者会見において、私にとって興味ぶかかったのは、レクサスだ。会場には、輝くシルバーの車体をもった大型2シーター(と思われる)のEVスポーツモデルも置かれた。このときの会見に臨んだレクサスインターナショナルの佐藤恒治プレジデントは、「レクサスは2035年をめどにピュアEV専門ブランドになる」と公言したのである。
「世界のラグジュアリーセグメントではピュアEVに対する期待が高まっています。レクサスも35年にはピュアEVのブランドになります」
佐藤プレジントの頭のなかにあるのは、ポルシェ、アウディ、メルセデス、BMWといったドイツ製や、急速にプラグインハイブリッドへと向かっているフェラーリ、ランボルギーニ、アストンマーティン、マクラーレンといったスポーツカーブランドだったはず。
たとえば、私は先日、アウディe-tron GTを富士スピードウェイで走らせるチャンスをもらった。このときは、ガソリン車もかくやという鋭い加速と、スポーツカーなみのコーナリング能力に感嘆した。これがピュアEVの近未来形の好個の例だとしたら、レクサスだって、かなりのところに行くんじゃないだろうか、と期待が高まる。
「(レクサスが2010年に発表して500台限定生産したスーパースポーツ)LFAの開発を通じて作りこんだ“走りの味”。いわば、“秘伝のタレ”。それを継承する次世代のスポーツカーをバッテリーEVで開発いたします」
いままでのEVには興味なかった、これからのEVには興味ある、と記者会見で答えて、会場の笑いを誘った豊田章男CEOだが、その本気はここなのかも、と私は思った。
「Lexus Elecrified」を謳い、これからBEV開発をリードしていくとする佐藤恒治プレジデントの言葉が示唆する、将来のスポーツEV。それに対する期待が大きくふくらんだのが、今回の記者会見における、私の収穫だった。
- TEXT :
- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト