キャリアを重ねていくと、仕事でさまざまな立場の人とコミュニケーションをはかる必要がありますよね。やりとりしているとき、自分の言いたいことがうまく伝わらなかったり、相手から自分が必要とする情報を引き出せなかったりして、もどかしい思いをしたこと、ありませんか?

自分では努力しているつもりでも、会話は相手のいる行為。ただ会話技術を高めるだけでは、なかなかうまくコミュニケーションがはかれないもの。一体どうすれば、どんな人ともうまくやりとりできるようになるのでしょうか?

実は、どんな人ともスムーズに会話するためには、何をどう話すかよりも、重要なコツがあるのです。それは、間(ま)をうまく使いこなすこと! 『たった一言で人を動かす 最高の話し方』の著者・矢野 香さんから、身近によくいる困った人との会話が「間を使うこと」で、どのようにうまくいくのか教えていただきました。

■1:話が長い人に対しては「YESかNOかで答えられる」質問をする

息切れしたらクローズド・クエスチョンを
息切れしたらクローズド・クエスチョンを

まず、話が長い人との会話で主導権を握るにはどうすればいいのか? 矢野さんは、このタイプと話すときは「息切れを待つこと」を推奨しています。

「相手が息継ぎをした瞬間を見はからって、相槌を入れたり、質問したりする。そうすると会話をコントロールできます。話が長い人は、ようやく話の区切りがつくと思ったら、『そうそう、そういえばこんなこともあって』と次の話が始まってしまい、こちらが口をはさむタイミングを逃してしまうこともあるでしょう。ですから、話の切れ目、意味の切れ目を待つのはやめて、相手の息が切れるのを待つのです」(矢野さん)

たとえば、あなたは部下の研修の結果を端的に知りたいのに、おしゃべりな部下が延々話し出して止まらないケースを想定しましょう。

「今日、本社へ行って研修を受けてきたんですけど、新人のとき以来久しぶりに会った同期もいて、懐かしい気分になって、それに、講師役をしてくれた人事の担当は大阪支社の方で、この方も私が前の研修に参加した時に……」

ここで相手が息継ぎをしたとします。内容的には話の途中ですが「あぁ、前の研修もとてもためになったと、あなたは言ってたよね。今回の研修はどうだった? 勉強になった?」というように、口をはさんでかまいません。ポイントはYESかNOかで答えられるクローズド・クエスチョンを投げかけること。

「今回の研修はどうだった? 勉強になった?」に対し部下は「はい」または「いいえ」で答えるでしょう。それにより、調子づいて続いている長い話を一度せき止めるのです。そのうえで、答えが「はい」ならば「それはよかった。具体的には何が勉強になった?」など、こちらが聞きたいことをオープン・クエスチョンで聞いていきましょう。

■2:早口の人に対しては「息継ぎのタイミング」を狙って質問する

声が消えかかる一瞬を狙ってみよう
声が消えかかる一瞬を狙ってみよう

次は、早口の人。相手のペースに押し切られて困る場合は、息を読むようにするといいとのこと。

「どんなに早口の人でも、必ずどこかで息継ぎをします。そのタイミングでこちらが話に割って入っていきましょう。そうすると相手もそこで呼吸を整えることができ、話すペースが落ちます。結果として互いの会話がスムーズに進みます。

相手の息を読んで、ちょうど息が切れるところで相槌を打ったり、言葉をはさんだりする。これがうまくいくと相手に『話を途中で遮られた』という感覚を与えず、こちらが会話の主導権を取ることができます」(矢野さん)

前項でもお伝えしたように、息継ぎのタイミングは必ずしも話の切れ目、意味の切れ目とは限りません。相手が話しているときに語尾が「~だなぁ」とか「~だねぇ」のように、声が消えかかる一瞬を狙って、相槌や言葉をはさみましょう。

ただその際、自分のペースに持ち込みたいあまり、話の軌道を大きく変えるようなセリフをはさむのはNG。たとえば「ところで」「話を戻しますと」というようなあいづちです。これだと「まだ話の途中だったのに」と相手に不満が残ってしまいます。そこで、次に紹介するステップで会話の主導権を握るとよいでしょう。

(1)相手の息継ぎのタイミングで「その点について具体的にはどのようにお考えですか?」など、軌道からはずれず、話題が深まる質問を投げかける。

(2)相手が答えている最中は、相槌を打ちながら聴く。

(3)一通りの回答が得られたなら、「とてもよくわかりました。ありがとうございます」と相手が他の話を始める前にまとめの言葉で止める。

(4)間をおかずに「当社の考えでは~」など、自分の話したい本題に移す。

立て板に水のごとく話す相手でも、必ずどこかで1秒は息継ぎのタイミングが訪れます。その間合いにほんの一言、二言でもいいので、自分の言葉をはさむと会話の主導権を握ることができます。言葉の“数”ではなく、“間”で会話を制することができるのです。

■3:話がずれる人に対しては「タイトルに戻す」

話をまとめようとしてはダメ
話をまとめようとしてはダメ

話が横道にそれて論点がどんどんズレてしまう人に対しても、間を使うとうまく軌道修正できるのだとか。

「話がすぐに脱線して迷走する人への対処法は、まず『タイトルに戻す』というのが鉄則です。タイトルというのは、そのときの話で一番伝えたい内容、メインテーマのことです。

相手の息継ぎのタイミングを見計らって、タイトルを入れた言葉を伝えましょう。話し手の息に合わせさえすれば、話を遮った感じになりません。逆にしっかり確認しながら話を聞いてくれる、信頼できる人だという印象になります」(矢野さん)

たとえば、社長から年頭所感としての1年の抱負を聞く会議。社長の話が長々と続き、ライバル会社の話になったり、過去の自分の成功談になったり……。

このとき、「そうですか、社長はそのとき中国での事業で成功されたのですね」などと、社長の話している内容をまとめようとすると、今度は「そうそう、中国は当時ね」と、ますます1年の抱負というテーマから離れてしまうおそれがあります。

こういうときは、社長の息継ぎのタイミングで「ここまで今年の抱負ということでお話を伺っておりますが」と言葉をはさんで、軌道修正しましょう。そうすると相手に「ああ、そうだ今年度の話だった」と思い出してもらえます。

■4:無口な人に対しては5秒以上、長めの間をとる

ひたすら待つことが正解
ひたすら待つことが正解

なかには上記3つのタイプとは正反対に、あまりにも口数が少なすぎる人もいますよね。その場合は、先回りして話さない方がいいとのこと。

「無口な人に質問を投げかけたら、5秒以上の長めの『間』をとって、待つようにしてください。可能なら30秒くらい待ってもいいかもしれません。相手が無口だと、聞く側はどうしても焦ってしまいます。そして、言葉を重ね『どうお考えになりますか?』『やはりこの方法には反対ですよね』などと、相手から引き出したい答えをつい自分で言ってしまったりします。

しかし、無口な人はしゃべらないのではなく、次に何を伝えようか考えているのかもしれません。こちらが待ちきれなくて、相手が答えようとしたときに、先に話してしまっているのかもしれません。

このとき、相手は『自分ばかり一方的にしゃべる人だなあ』と思っている可能性も。相手の考えている時間を無視して話を進めようとすると、無口な人はますます何も話さなくなるおそれがあります。5秒以上、30秒くらいというと、とてつもなく長い時間のように感じるかもしれませんが、我慢くらべのつもりで、相手の言葉をひたすら待ちましょう」(矢野さん)

ただ、間をとっているときに真面目な表情で相手の顔を凝視していたら、相手にプレッシャーをかけてしまうおそれがあります。次の3ステップで笑顔をつくって、相手の言葉を待ちましょう。

(1)まず笑うことを忘れる。

(2)上下の奥歯を噛みあわせる。

(3)そのまま唇を横に引く。

自然な微笑みを浮かべて、自分が思っているよりも3倍長く待つくらいの気持ちでいたら、相手も話し始める可能性が高くなります。

■5:口が重い人に対しては「言葉を被せずひたすら待つ」

話し始めるのを待つようにしよう
話し始めるのを待つようにしよう

最後に、口が重い人とやりとりする場合。このタイプから必要な情報をしっかりヒアリングするには、相槌が重要なのだとか。

「重い口を開かせるコツは、無口な人とほぼ同じです。言葉を被せないようにしてひたすら待つことです。そのうえで無口な人との違いは、相槌のセリフです。

口が重い人は表面上は口をつぐんでいても、おそらく頭の中はフル回転しています。言おうかどうか迷っている状況だと想像して、まずは時間をかけて待つことが肝心です。そして、相手が話し始めたら、相手が息を吐き終わるタイミングに会わせて、『はあ』『へぇ』という息で相槌を打ちましょう」(矢野さん)

たとえば、ミスの原因を問いかける場面。相手が黙ったまま何も言わないのがじれったくて「注意が足りなかったんじゃないの?」などと決めつけてしまうと、相手は萎縮してますます話したくなくなります。もしかすると、別の重大な原因があるのに、「はい、注意が足りませんでした。すみません」で話を終わらせてしまうかもしれません。

のちのち「なんでちゃんと話してくれなかったの!?」という事態を招かないためには、相手が話し始めるまでじっと待ちましょう。こういう場合は相槌のセリフは「はい」「ええ」「うん」「なるほど」など、はっきりと言葉を発音するよりも、「はぁ」「ふぅん」「へぇ」など、息に近い音で受けるほうが、相手は話しやすく感じるとのことです。

また、口の重い部下や後輩は、自分が話し終わったときに、相手が怒り出すのか、「問題ないよ」と言ってくれるのか、そのあとの評価をおそれています。そこで、部下や後輩が心の準備ができるように、相槌の音の高さで今の自分の感情を表現しながら話を聞くといいでしょう。

たとえば、「たいしたことない」だったら相槌の声を高く、「結構深刻なケースだな」と思ったら、声をだんだん低くするという具合です。

「間を使いこなす」だけで、こんなふうに会話が運べるなんて、目から鱗ですよね。身近にいる困った人との会話でぜひ実践してみましょう!

PROFILE
矢野香(やの かおり)さん
スピーチコンサルタント。国立大学法人長崎大学准教授。NHKでのキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し番組視聴率20%超えを記録。NHK在局中から心理学を根幹とした「他者からの評価を高めるスピーチ」を研究し、博士号取得。政治家、経営者、エグゼクティブからビジネスパーソン、学生まで幅広い層に「信頼を勝ち取る正統派スピーチ」の指導を続けている。多くのクライアントが成功を達成し、講演・研修依頼が相次いでいる。
『たった一言で人を動かす 最高の話し方』矢野香・著 KADOKAWA刊
この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
2017.12.21 更新
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
中田綾美