「茅の輪くぐり」という名称はピンとこなくても、細長い葉っぱを束ねてつくった、人が通れるほどの大きな輪を神社で見たことがある人は多いのではないでしょうか。それが茅の輪。「茅の輪くぐり」は、この輪をくぐることにより心身を清め、無病息災や厄除け、家内安全を願う行事です。この記事では、その由来や具体的なやり方、「茅の輪くぐり」を行う神社などをご紹介します。

【目次】

茅の輪くぐりとは心身を清め、無病息災や厄除け、家内安全を願う行事です。
茅の輪くぐりとは心身を清め、無病息災や厄除け、家内安全を願う行事です。

【茅の輪くぐり」とは?「読み方」と「意味」、「由来」を解説】

「読み方」

「茅の輪くぐり」の「茅」は「ち」と読みます。「かや」という読みの認知のほうが高いですし、「茅の輪」は、「茅(かや/屋根にふくイネ科植物の総称)」で作られていますが、「ちのわ」なのです。

「意味」

上でふれた通り、「茅の輪」とは、チガヤというイネ科の多年草や藁(わら)などで作られた大きな輪のことを言います。この「茅の輪」をくぐると疫病を免れるとされ、日本では古くから6月の晦日 (みそか) の「夏越 (なごし) の節句」に「茅の輪」を神社の鳥居などにかけ、参詣者にくぐらせました。これを「茅の輪くぐり」と言います。「茅の輪くぐり」を行うことで心身を清め、災いを避けることができるといわれており、「茅の輪くぐり」は無病息災や厄除け、家内安全を願う行事なのです。

これが茅の輪。
これが茅の輪。

「由来」

「茅の輪くぐり」で使われるチガヤは、しめ縄としても用いられますが、古来から「身に付いてしまった厄を払うもの」「神聖なもの」として重要な役割を果たしてきました。「茅の輪くぐり」が神事として行われるようになった由来については諸説ありますが、蘇民将来(そみんしょうらい)という人物にまつわる神話にちなむという説が有力です。その神話では、備後国(現在の広島県東部)で暮らしていた蘇民将来が、旅の途中に宿を求めて訪れたスサノオノミコトを、貧しいながらも喜んでもてなし、その恩返しとして「疫病を逃れるために、茅の輪を腰に付けなさい」との教えを授かり、難を逃れたとされています。現在の「茅の輪くぐり」は、蘇民将来が腰に付けていた茅の輪が長い歴史を経て大きくなり、人がくぐり抜けるものになった、といわれています。


【2024年の「茅の輪くぐり」はいつ?】

■「夏越の祓(はらえ)」はいつ?

「茅の輪くぐり」は、多くの神社で、6月の晦日、つまり6月30日に行われる「夏越の祓」という神事のなかで行われます。昔の人は食物が傷みやすく疫病も流行りやすいこの時期に、酒や肉を断って身を清め、酷暑の夏を乗り切れるよう神さまに祈ったのですね。「夏越の祓」で行われる「茅の輪くぐり」は、1年の前半の穢れを清めて災厄を払い、1年の後半もまた無事に過ごせるようにと祈る行事です。「茅の輪」は6月30日以前に設置され、以降もしばらくの間は、参拝客がいつでもくぐることができるようにしている神社もあるようです。

■12月31日の「年越の祓」に行われることも

半年間の罪や穢れを祓い清めるための神事は、毎年6月と12月の末日に行われ、「大祓(おおはらえ)」と呼ばれています。そして、6月に行われるのが「夏越の祓」、12月に行われるのが「年越の祓」です。神社のなかには、「年越しの祓」のときにも「茅の輪くぐり」を行うところがあります。「夏越の祓」以降、半年の間に付いてしまった穢れを落とし、心身共に清らかな状態で新年を迎えるための神事です。


【「茅の輪くぐり」の方法】

茅の輪くぐりの作法について見ていきましょう。

■「茅の輪くぐり」のくぐり方

・身を清める
神社に入り、手水舎で手と口を清めます。 茅の輪の前に立ち、ご本殿に向かって一礼をします。

・茅の輪をくぐる
まず、「唱え詞」を唱えながら左足で茅の輪をまたいでくぐり、左回りに茅の輪の左側を回ってから正面に戻って一礼します。次に、唱え詞を唱えながら茅の輪を右足でまたいでくぐり、茅の輪の右側を回ってから正面に戻って一礼します。最後にもう一度、唱え詞を唱えながら左足で茅の輪をまたいで左側へ回り、茅の輪の正面に立って一礼します。 最後は茅の輪をくぐり抜けて拝殿し、お参りを行います。

神社によっては、ひと回りごとの礼を省略し、八の字を書くように3度続けてくぐり抜けるところもあります。このように、作法については神社によって違いますので、参拝した神社の作法にしたがって参拝してくださいね。

■「茅の輪くぐり」の「唱え詞」とは

「茅の輪くぐり」には、唱え詞があり、それを唱えたり、心で念じながらくぐるという作法があります。 これも神社によって異なりますが、代表的な唱え詞を紹介しましょう。

「祓へ給ひ 清め給へ 守り給ひ 幸へ給へ」
茅の輪くぐりの唱え詞で代表的なのは、「祓へ給ひ 清め給へ 守り給ひ 幸へ給へ(はらえたまい きよめたまえ まもりたまい さきわえたまえ)」というものです。神さまにお祓いとお力添えをお願いする意味があります。


【「茅の輪くぐり」が行われている場所は?】

記事の最後に、「茅の輪くぐり」が行われている神社をいくつかご紹介しましょう。

■東京「神田明神」(千代田区外神田2丁目)

東京都千代田区外神田にある「神田明神」の正式名称は「神田神社」。商売繁盛を祈願するうえで外せない神社といわれています。730年に大手町近くに建立され、江戸時代に現在の場所に移りました。徳川家康も参拝したと伝えられ、パワースポットとしても人気の神社です。恒例の「夏越大祓式」は、2024年の6月30日に行われます。神田明神の「茅の輪くぐり」は、「水無月の夏越しの祓する人はちとせの命のぶというなり」と古歌を唱えながら、左まわり・右まわり・左まわりと、八の字を書くように3度くぐり抜けます。神職と供に参拝者が茅の輪をくぐることによって穢れや災いが祓われるといわれています。

■東京「東京大神宮」(千代田区富士見2丁目)

神前結婚式創始の神社でもある「東京大神宮」。飯田橋駅から徒歩約5分のところにあり、「東京のお伊勢さま」と呼ばれる、縁結びの神さまとして人気の神社です。 東京大神宮の「大祓式(おおはらえしき)」は、半年間の厄や穢れを祓い清めるための神事。6月30日には午後2時と4時に「茅の輪くぐり」の儀式が執り行われます。

■京都「北野天満宮」(京都市上京区馬喰町)

菅原道真公を祀った全国の天満宮の総本宮「北野天満宮」は、「北野の天神さん」「北野さん」と呼ばれ親しまれています。こちらの「茅の輪くぐり」は毎年6月25日と6月30日。道真公が誕生された6月25日を祝う御誕辰祭、別名「夏越天神」において、真夏を迎える前に無病息災を願う「大茅の輪くぐり」が行われます。楼門に掲げられた「大茅の輪」は、直径約5メートル! 京都最大といわれていますよ。また、6月30日には、「夏越の大祓」として、本殿正面に設けた茅の輪の前で午後4時より神事が執り行われます。神職と供に「茅の輪くぐり」を行って、日常無意識のうちに心身に付着した罪や穢れを祓い浄め、無病息災を祈願します。「御誕辰祭」「夏越の大祓」ともに、直径7~8センチメートルの茅の輪の授与もあります。

■福岡「太宰府天満宮」(福岡県太宰府市宰府)

「大宰府天満宮」は、天神さま(菅原道真公)を祀る全国約1万2000社の総本宮。「学問・至誠(しせい(・厄除けの神さま」として崇敬を集めています。同宮では、御祭神の菅原道真公の誕生日(旧暦6月25日)をお祝いする夏まつりが7月24・25日の両日にわたり行われます。楼門前には茅の輪が立てられ、文芸灯籠が飾られます。24日午後からは、子供みこしが町内を練り歩きます。25日夜、心字池の約1000本のローソクに御神火がともされ、千灯明の明かりが水面に揺れ猛暑を忘れさせてくれます。

■長崎「諫早神社(いさはやじんじゃ)」(長崎県諫早市宇都町)

奈良時代の728(神亀5)年に、九州総守護の神々を祀る四面宮として建立されたとされる「諫早神社」。地元の人々からは、「おしめんさん(お四面さん)」の愛称で親しまれています。こちらの「夏越の大祓式」では、2023年を例にとると6月17日から7月3日まで茅の輪が設置され、「茅の輪くぐり」をすることができした。

■北海道「虻田神社(あぶたじんじゃ)」(虻田郡洞爺湖町)

1804(文化元)年、京都伏見稲荷大社の分霊により稲荷神社として創建された「虻田神社」。風水でいう龍脈(地中を流れる気のルート)の上に位置しており、海外や全国からも参拝客が訪れるパワースポットとして注目されています。「夏越大祓式」は例年6月30日に執り行われ、「茅の輪くぐり」も行われます。

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「茅の輪くぐり」は全国の神社で執り行われている神事です。あなたの近くの神社でも行われているかもしれませんよ。今年の6月30日は「茅の輪くぐり」に参加して汚れを祓い、無病息災や厄除け、家内安全を願ってみてはいかがでしょう。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) :