ウール、シルク、モヘア、カシミヤ……。動物繊維由来の糸を巧みに編み込んだニットは、男の寛いだスタイルに欠かせない。それぞれの素材の特徴を生かし、デザインや編み方に工夫を凝らしたニットに、私たちはさまざまなシーンで親しんでいる。とりわけ注目すべきは、カシミヤニットの存在感。心地のいい肌触りや温もりがあるうえ、ファッションのコーディネートから見ても、カシミヤのニットを1枚着れば、品格のある上質感がさりげなく醸し出される。
カシミヤニット、その柔らかさの秘密とは?
カシミヤの風合いを物性面から紐解くと、カシミヤの毛は非常に細い。紡績専門会社「東洋紡糸」によれば、ウールは、平均19~24ミクロン。一方、カシミヤは14~16ミクロン。カシミヤは、表面のキューティクルが小さく、油分がなめらかに繊維表面を覆う。つまり、繊維が細くキューティクルが小さいため、撚りをかけた糸がふくらみ、肌に優しい感触と光沢が生まれる。糸そのものに、ウール以上に柔らかな肌触りと輝きを備えるのだ。
ニットを作る際は、編み機を通して製品にする。ここでポイントは、編み機のゲージ幅の違いでニットの仕上がりが異なることだ。いわゆる、針の幅の狭いハイゲージで編んだニットは、すべすべとした薄手の生地感となり、なめらかで柔らかい。反対に、ローゲージでは糸の太さが強調され、ふっくらとした表情となる。本稿では、その真ん中あたりのミドルゲージのニットを中心に選んだ。ツヤのある質感を残しながら、とろけるような柔らかさが実感できるだろう。
製造工程をさらにいえば、製品を仕上げるフィニッシングの段階で、よりソフトに加工されるものも多い。
最後に、ニットの柔らかさを漏れなく味わうための方法がある。Tシャツやシャツを着ることなく、ニットを直接素肌に着る。いかにカシミヤのニットが柔らかく、肌に心地よいかが感じられる。カシミヤニットの柔らかさは、実に奥深いのである。
ベビーカシミヤ素材で至福の肌触りを満喫
カシミヤの頂点といえる、軽く、とろけるように柔らかい肌触りのベビーカシミヤを素材にした「ロロ・ピアーナ」のニット。ベビーカシミヤとは、生後1年未満に、内側の特別に柔らかい繊維を採取。山羊1頭につき、ごくわずかな30gほどしか採れず、繊維は13.5ミクロンと極細だ。それゆえ、ニットの感触は別格。肌に触れているだけで極上の心地よさ。自然な色合いもまた最高である。クルーネックとジップアップが紳士的だ。
洗練された風合いとデザインで伊達男を虜にする、際立つイタリアブランドの技
写真左は、すでにトータルコレクション・ブランドとして知られる「ブルネロ クチネリ」だが、発祥はカシミヤニットだった。ゆえに吟味されたカシミヤ素材による、エレガントなニットはブランドの真骨頂である。ふんわりとした風合いを堪能できるだけではなく、Vネックは、シャツとの組み合わせが楽しくなる粋なデザインだ。
写真右はメンズファッションの世界を素材から製品まで、トータルで展開する最強ブランド「エルメネジルド ゼニア」。見逃せないのが、上質なカシミヤを使ったニットコレクション。繊細な天竺編みの優しい風合いで、ニット1 枚の着用でも、ジャケットの下に合わせても似合う。程よいフィット感で正統的な佇まいにも注目を。
質実剛健な作りと佇まいが真の服好きを唸らせる英国ニットの実力派
写真左は、スコットランド・ホイックで創業した老舗のカシミヤブランド「ホイコ」。日本ではまだまだ馴染みが薄いが、英国王室でも愛用された名門である。ニット全体はケーブル編みをベースに、ゆるく編み込まれた変わり柄がモダンな表情を作り出している。優雅な紳士の休日スタイルにふさわしい、寛いだ雰囲気が絶妙だ。
写真右は、カシミヤのストールにおける名門ブランドとして知られる「ベグ アンド コー」。2020年秋冬、ニットコレクションが誕生した。手応えのある無染色のカシミヤ素材から、ほのぼのとした雰囲気が漂う。たっぷりとしたシルエットは、まさに今の気分を表現する。両側の裾にスリットを入れた小技にも、親しみが湧く。
豊かなグレートーンを鮮やかに編み込む多彩なカシミヤの顔立ち
メランジュのカシミヤ糸によって、鮮やかなライトグレーを表現するイタリアのブランド「マロ」。カシミヤニットを得意とする写真左上の「マロ」は、襟元がアクセントになるモックネック仕様とワッフル状の編み柄で、スポーティなスタイルに仕上げる。ゆったりとしたシルエットが全盛のなか、体に沿ったフィット感が楽しめる一枚だ。
イタリア・トスカーナ州のカルチナイアという小さな町に工房を構える写真左下の「ダルモ」。手仕事を駆使したニット作りを今も続けている。両脇にポケットをデザインした5つボタンのオーソドックスなカーディガンだが、男心をくすぐるノスタルジックな風合いが魅力。体のラインを綺麗に見せる、ノーマルなフィッティングだ。
紳士がオフのスタイルやスポーツを楽しむためのワードローブを揃えたのが、写真右上のサヴィル・ロウ名門の「ハバダッシャリー」。ミディアムグレーのクルーネックニットは、リブ編みベースのシンプルなデザイン。ラグランスリーブがポイントだ。
写真右下は、映画『007』のオフィシャル・パートナーを務めるブランド「N.ピール」。歴代のボンドやボンドガールが着用した復刻アイテムを手掛け、ふわふわと毛羽立った温かみのある表情が個性的だ。幅の細いケーブル編みでモダンなスタイルを演出。コートの下に合わせるなど、男らしいタートルネックに注目したい。
バリエーション豊富なデザインも、カシミヤニット選びの贅沢な楽しみ
写真右は、アランニット風の伝統的な柄を編み込んだ「フェデリ」のカウチンカーディガン。へちま型の襟が持ち味のカーディガンは、多くのモデルがゆったりとしたシルエットだが、このニットは、袖幅も細くタイトな着心地が絶妙。部屋で寛ぐときに着るというよりも、街着として楽しめるモダンなスタイルを作り出している。
写真中は、フランス人女性デザイナーがディレクションする新鋭のブランド「レンコントラント」。「上質な普段着」のコンセプトは、ベーシックなアイテムにエスプリを加えた色や素材使いが魅力だ。肉厚カシミヤの本モデルは、たっぷりとしたシルエットで袖口や裾のリブ部分もゆるく仕上げている。今の空気感が漂うスタイルだ。
写真左は、イタリアを代表するニット専門のメーカー「グランサッソ」。多彩なデザイン、豊富な素材を駆使してベーシックなニットを、より上質かつ新鮮な製品へ展開。ダブルジップ仕様や大きなサイドポケットのデザインなど、アウター感覚で楽しめるディテールが満載。シャープなラインで、洒落た大人に似合うカシミヤパーカーだ。
持続可能な生活が問われる今、再生カシミヤニットに着目
ファッション・アパレル業界で今、重要なキーワードは“サステイナブル”である。持続可能な社会をファッションの分野で、いかに支えられるのかが問われている。
今日では1980年代にエコロジーなスタイルが再認識され、今日の課題となっている。
そこで広範囲に展開するファッションのアイテムのなかにあって、カシミヤニットについても、再生素材のカシミヤを使った製品が登場しているのだ。
再生カシミヤニットは2種類ある。まず、カシミヤを紡績する際に生じる、細かい毛を糸にして編み上げた製品。もうひとつが、在庫となったデッドストックのカシミヤニットの糸をほどき、紡績し直したあと、製品化したもの。
どちらも、新たな再生カシミヤニットとして注目され、革新的なブランドは、すでに製品を手掛けている。気になる風合いは、加工技術の向上もあり、カシミヤ100%のニットに匹敵するレベルまで来ている。
※掲載商品の価格は、すべて税込み参考価格です。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2021年秋冬号
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- PHOTO :
- 小池紀行(パイルドライバー)
- STYLIST :
- 四方章敬
- EDIT&WRITING :
- 矢部克已(UFFIZI MEDIA)