福岡にも近い佐賀県の嬉野といえば、まずは温泉。とろりとした泉質は「日本三大美肌の湯」と呼ばれ、女性たちにも人気の温泉です。また独特の丸みを帯びた茶葉の玉緑茶(グリ茶)で知られる嬉野茶も有名。加えて、有田焼とともに美しい磁器を生み出した「日本磁器のふるさと」でもあります。

2016年、嬉野市を含む肥前の8市町が文化庁の日本遺産に認定され、改めてその歴史やストーリーを知られることになりました。そんな嬉野が誇る美しい磁器・肥前吉田焼やモダンな有田焼を器とするのが、今回ご紹介する「鮨 木島」。もちろん、旬のおいしさを堪能する素敵な時間が待っています。

鮨 木島の外観

美しい器と鮨にときめく

肥前吉田焼は約400年の長い間、有田焼を支えるように静かに継承されてきた嬉野の磁器。その個性を開花させようと自由な発想で新しいアプローチを見せているひとつに「224 porcelain」というブランドがあり、私がたまたま好きになったダイヤ彫の器がありました。「鮨 木島」は、そのダイヤ彫の白磁皿で鮨を提供するのに加えて、酒器や皿、小鉢などの器類と店内の装飾、さらに店の風格を表す陶板は「ARITA PORCELAIN LAB」の七代目弥佐エ門による作品で居心地よくもてなしてくれます。

ある日、昼の利用で飛び込むように予約を入れて席に着き、皿を見た瞬間に「出合ってしまった!」と、ひとりときめいてしまいました。好きな器で料理をいただけるのは幸せです。その意味で勝手に期待を高めてしまう怖さもあったかもしれません。でも皿の上にスッと差し出された一貫はとても美しく、姿からおいしさを伝えてくれました。そして最初のひと口で、この店に来た喜びに「料理もまた出合いだ」と思わせてくれたのです。

木島流 すし割烹のもてなし

店主である木島英太朗さんはやはり嬉野の出身。福岡における名店「やま中」で20年の修業をされた職人です。厳しい指導と激励を受けての独立は2年前のこと。市内中心部を横切るけやき通りから一筋奥へ、見つけにくい路地に店を構えたのもその力の証でしょう。夜の帳が降りるころ、路地に灯りが点されて「鮨 木島」のひとときが始まります。

「夜のおまかせ」は、酒と共に楽しむ充実のコース。日本酒は地元・佐賀の「鍋島」や八女の「喜多屋」のほか、全国の銘酒をお好みで。余談ですが2011年は「鍋島」が、2013年は「喜多屋」がIWC(インターナショナルワインチャレンジ)日本酒部門の最優秀賞として「チャンピオン・サケ」に輝き、九州の酒造りの実力を世界に知らせることになりました。そんな酒を七代目弥佐エ門による酒器で楽しみながら、“博多前”すし割烹の世界を味わい尽くすことにしましょう。

鮨 木島の先付・湯豆腐

まず先付は嬉野自慢の湯豆腐から。嬉野の温泉水で湯豆腐にすると豆腐もトロトロに。嬉野のおいしさを最初に楽しんでもらうのは木島さんの地元愛。福岡と佐賀との架け橋も担う想いです。そして盛り板に出されたのは玄界灘のアラ。脂がのった23キロの上物を5日ほど寝かせているとのこと。きらりと輝くような白身の旨さを噛みしめます。続いて鮮やかな腕で現れたのは筑前海の天然フグ、あんこうの肝をポン酢で合わせて。フグのことを福岡では幸せを呼び込む意味で「ふく」と呼び、まさに今から旬のもの。ペーストのようなあんこうの肝との相性も面白いです。

次はカツオをタタキならぬ自家製の薫製に。香りがふわりと鼻をくすぐって力強くカツオの旨みがやってきます。続いて食感をがらりと変えて北海道の本シシャモ。肉厚の身がぷりっと弾ける、見事な焼き加減で旨さが凝縮。この味わいは九州では貴重な経験です。さらにタラの白子の茶碗蒸し、もちもちな身がうれしい天然フグの唐揚げ、そして職人焼きたての玉を。旬の幸と職人魂のメリハリを利かせたもてなしの数々をいただくと、目の前に白磁の皿が。いよいよ大将の握りです。

“博多前”のおいしさを探求

一貫ずつ、白磁皿に盛られていく鮨は小ぶりで品がよく、ネタのうまさを的確に伝える程よい大きさ。客との会話も楽しみながら、サっと握っては皿の上の彩りが移りゆく、そんな小気味よさも素敵です。

まずは筑前海の甘鯛から。黒酢で仕上げたしゃりに、ほんのりピンクの装い。仕上げに醤油をひと塗り。包丁を入れたヤリイカは、橙を振ってそのままいただけば甘みが抜群。有明海のコハダもクセがなく地物のおいしさに改めて気付きます。ここで鮮やかな巻物が二貫、筋子の醤油漬けと北海道の馬糞ウニが並びます。するりと口の中を駆け出すような筋子は新鮮そのもの、ウニの甘さは申し分ありません。ひと口で味わう巻物は、焼き海苔、しゃり、ネタのバランスも女性好みです。

こちらのペースでいただけるので、酒を変えながらゆっくりと。温めた酒とも合わせたら、さらにうまいはずと思ったのがヅケ、そして続く鰆でした。ヅケの加減、炙った鰆の濃厚な脂がまた素晴らしく、日本酒も進みます。肉厚な天然の車海老は、頭や殻を香ばしい唐揚げに添えて。高まったテンションを緩やかに落ち着かせる温ものは松茸の土瓶蒸し。香り豊かな贅沢な箸休めです。この充分な満足感の「夜のおまかせ」を忘れない、さらにおいしさのトリオが〆を飾ります。新鮮さが命のシメ鯖は最もおいしいとされる済州島近海のもの。また最高の状態の穴子をやわらかく煮穴子に。そして、穴子の甘さに負けないうまさバツグンで最後に登場したのは熟成された築地仕入れの天然本まぐろ。ふぅ、本当に満足の夜なのです。

福岡近海の魚を使う“博多前”を基本に、一品ごとに見えないところから丁寧な仕込みをする心遣い。木島流の探究心こそ、私たちを笑顔に変えるヒミツだと感じさせてくれました。

デザートに用意されたのは京都名産の代白柿(だいしろがき)。果物とスイーツ、どちらとも思わせる熟した和のデザートが登場するのもこの店らしい気遣い。あがりは大将の地元の嬉野茶を、ゆるりと堪能します。全国の旬のおいしさを知りながら福岡の良さを活かし、さらに地元・嬉野の魅力を華開かせる「鮨 木島」。器、温泉、茶という嬉野の持ち味を紡ぐ発信者として、ますます九州を面白くしてくれる一軒となるでしょう。

 器だけでなく、大将の心遣いと清潔感ある木のぬくもりの雰囲気もゆっくりと楽しみたい。
日本酒は黒とプラチナで描かれた吉祥文様の徳利で。
この日、おまかせ最初に盛られたアラの刺身。
フグとアンコウの肝は鮮やかな腕の中に。
カツオの燻製は色のコントラストも鮮やか。
うまさたっぷり、北海道産の本ししゃも。
福岡近郊の豊かな恵み。筑前海の甘鯛にヤリイカ。
心躍る巻物は筋子とウニ。
燗酒と合わせたいヅケと鰆。
温ものは香りも見事な松茸の土瓶蒸し。
鮮度はバツグン、済州島近海のシメ鯖
甘すぎずふわりと柔らかい煮穴子。
旨さとろける天然本まぐろ。
代白柿はまさに和のデザート。ゼリーのようにまろやか。

問い合わせ先

  • 鮨 木島(すし きじま) 
  • 営業時間/11:30~L.O.13:30、18:00~L.O.21:00
  • 定休日/水、木(昼のみ)
    席数/カウンター8席・個室6~10名
    メニュー/昼:¥2,160、¥3,240、¥5,400 夜:カウンター¥10,800~、テーブル¥8,640~
    TEL:092-753-9666
    住所/福岡県福岡市中央区赤坂3-12-9

この記事の執筆者
熊本で情報誌の編集・制作に携わり、1990年に福岡へ。発展する街で人気タウン誌の編集・営業ディレクターなどを経て、2010年よりグルメマガジン「ソワニエ」制作チームとして福岡の「食」の魅力を発信中。2014年、『ふくおか手みやげ自慢』を発行。好きなもの:九州旅、路地散策、古民家、隠れ家、コーヒー、ウイスキー、日本酒、陶磁器、短距離走
WRITING :
鳥越 毅
EDIT :
安念美和子