コロナ禍で世の中のイベントごとが制約を受けて久しいが、ドゥカティジャパンは昨年から、「ドゥカティ ライディング エクスペリエンス(DRE)」を運営している。ライダーの志向に合わせてプログラムは2種類用意されている。
一つめは「DREロード アカデミー」。安全意識を高めつつライディング・テクニックを向上させたいビギナー向けのプログラムだ。丸一日の講習ではドゥカティの新車を貸してくれるから、試乗がてらの参加も良いだろう。受講料は3万円(税別)で、万一の際の修理費の負担もない。
インストラクターは本社の認定を受けたプロのレーシング・ライダー!
もう一つの「DRE レーストラック アカデミー」は、ドゥカティをすでに所有するオーナーに向けた、自分のマシンをサーキットで走らせるプログラムである。袖ヶ浦フォレスト・レースウェイのフルコースを使ったセッション20分×4本の走行料を含み、受講料は7万円(同)だ。
いずれも、ドゥカティ本社の認定を受けたプロのレーシング・ライダーたちがインストラクターを務め、ドゥカティ本社が2003年から運営している歴史のあるプログラムを実施する。日本のレーストラック アカデミーのチーフインストラクターは、ロードレース世界選手権通算17勝、1993年GP250クラス・チャンピオンの原田哲也さんが務めるというから、実に本格的である。
日常の運転ではなかなか体験できないシーンでの学び
今回、ロード アカデミーの舞台となったのは「バイカーズパラダイス南箱根」。モーターサイクリストの交流の場となっている当施設の駐車場には専用コースが設置され、参加者に貸与される最新のドゥカティ「ストリートファイター」「モンスター」「スクランブラー」が並んでいた。筆者には、昨年夏にデビューした新型モンスターが割り当てられた。
メニューは、ライディング・ポジション、ブレーキング、定常円旋回、パイロンスラローム、コーナリングなどの基礎的技術である。この日のインストラクターは、ともにレース経験豊富なベテラン・ライダーである友野龍二さんと豊田浩史さん。いくつかのチームに分かれて、ドゥカティ流のセオリーに従ったライディングの基本を教わった。
ライディング・ポジションは、ハンドルに手を添えながらバイクにまっすぐ立って、そのまま腰を下ろしたところが正しいヒップポイント。シートのかなり後ろだ。
ブレーキングではフロント、リヤそれぞれでの全制動を経験できる。路面状況はあいにくのセミウェットだったが、リヤブレーキはかなり深く踏み込まないと止まらないし、ロックすらしない。ABSが効いて急制動に成功しても、止まった瞬間にハンドルを切っていると、その方向に身体を持って行かれる。日常の運転ではなかなか体験できないシーンなので、非常にいい経験になる。
定常円旋回は、スロットル一定のまま、ときに半クラッチを使い、リヤブレーキで速度を調整する訓練だ。視線の送り方によって安定性が変わってくるし、顔だけでなく胸も内側に向けるほうがバイクは自然に傾いてくれる。円旋回の延長である8の字では、バイクは左右で操作系統が違うこともあって、右回りと左回りで同じことをするのが難しい。筆者は胸の閉じ方が左右でアンバランスであること、素直にクラッチに手が伸びないことなどを教えられた。
続いてパイロンスラロームに挑む。ドゥカティの流儀では、スロットル開度は一定のまま、上半身と下半身の連動だけで操作する。目線をできるだけ遠くに置いて、上体から力を抜いて下半身をしっかりホールドしておくことが大事だ。
最後は、ヘアピンカーブを模したJターン。クリッピングポイントをコーナー出口の直前に取り、そこに至るまでできるだけ大回りしつつ、速いペースを保つのが大事。理屈ではわかっていても実践するのは難しく、挑戦しがいのある課題だった。
ドゥカティは基礎練習を身につける上で最適なバイク
レーストラック アカデミーは、基本的にはオーナー自身のドゥカティと自前のレーシングスーツを持ち込んで受講する。筆者の場合は報道対応として、特別にドゥカティジャパンからレンタルさせてもらった。前半は「ハイパーモタード」、後半は「モンスター」を走らせた。
サーキットの走行経験値による振り分けがあり、筆者は初心者向けのコースを受講した。インストラクターは、マン島TTレースや鈴鹿8耐に参戦経験がある伊丹孝裕さんである。
ロード アカデミーと同様、教習はライディング・ポジションから始まる。サーキットでは、リヤのトラクションをより敏感に理解するためにヒップポイントはさらに後方になる。両足のステップは、より細やかな動きを得るべく土踏まずではなく拇指球で踏む。正しいポジションを採り、曲がりたい方向に身体を向ければ、自然に内側のひざが開き、外側の膝がしっかりニーグリップする。
こうした基礎練習に、ドゥカティはとても向いていると伊丹インストラクターは話す。「低速トルクが豊かなので、ギアやエンジン回転数にとらわれず、ライン取りと正しい乗車姿勢に集中することができます」。
DREのふたつのプログラムを通じて、現代のモーターサイクルの性能に即した、正しい走らせ方をとても要領よく学ぶことができた。東京へ戻って自分のバイクと向き合っていても、以前よりずっと落ち着いて、安心していられることに気づく。バイク人口がふたたび上向き始めた現在、より多くの人がこうしたプログラムの恩恵を受けられることを願いたい。なお、2022年のスケジュールは未定。まずはオフィシャルサイトでニュースレターにご登録を!
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- TEXT :
- 田中誠司 著述家