漆芸には、素地をつくる、漆を塗る、そして、その上に装飾を施す「加飾」という3つの工程がある。加飾の技法ひとつである「螺鈿(らでん)」は、夜光貝や鮑貝の内側の光沢をもった真珠層の部分を削って薄い板状にしたものを文様の形に切り、漆面に貼ったり埋め込んだりしていく。漆黒の中に彩と輝きを加える伝統技法なのだ。
一般に螺鈿と総称されているが、正しくは、厚貝を用いたものを「螺鈿」、薄貝を用いたものは「青貝(あおがい)」と区別されている。日本には奈良時代に唐から伝承し、平安時代になって蒔絵と共に急速に技法が発達。日本全国にある漆の産地で発展をしていったが、京漆器においては、京都ならではのわびさびの心を受け継ぎつつも優雅さを放つ、独特の螺鈿文化を育んできた。
気の遠くなるような繊細な手作業がかなえる美しさ
そんな京都で唯一の螺鈿・青貝専門店として百余年の歴史を刻んできたのが『嵯峩螺鈿 野村』。嵯峨釈迦堂の名で知られる清凉寺から程近いところに、その看板を掲げ、店の奥にある工房では、三代目当主である伝統工芸士 野村守さん、職人の野村拓也さん、まりさんの3人が作品づくりを行っている。
作品が完成するまでには、60から100にも及ぶ工程があるという。そのひとつに、文様の形に切り取った貝を漆の上に乗せていく作業があるが、貝の輝きは光の当たり方や見る角度によって表情が異なるため、置く方向を一片一片確認して貝を並べていくという。その一片の長さは、例えばカフリンクスに加飾されたさくらの花びらの場合、3~5mm。そう、螺鈿の美しさは、気の遠くなるような“繊細な手作業”によって実現されるのだ。
『嵯峩螺鈿 野村』の歴史は、香炉や燭台などの和室に合うインテリア制作から始まっているが、1970年代ごろからアクセサリーの展開をスタート。ここで紹介しているカフリンクスなどのメンズアクセサリーに用いられているのは、主に鮑貝と夜光貝。それも色味が良く輝きが美しいものだけが厳選されている。
「鮑貝と夜光貝は、角度が変わると色味が変化したり輝きを増す妖艶な美しさが特徴です。その華麗な美しさを生かしながらも、控えめで上品な雰囲気を纏うようなものになれば、と思いながら制作しています」と野村守さん。
貝自身がもつ輝きが人々を魅了する螺鈿だか、そのベースとなる漆の艶やかさも奥深い美しさを放つ。双方の美しさを長く保つためには、皮脂汚れに気づいたらティッシュで軽く拭き取り、保管は紫外線を避けて暗所ですることが大切、とアドバイスしてくれた。
スーツもシャツもネクタイも、ひと目で上質と分かる、ほんのりとした艶を放つ天然素材の生地。そんな上品な装いに合わせたい『嵯峩螺鈿 野村』のアクセサリー。もちろん、自分愛用のためだけでなく、上質なものを見極める目を持った人へのプレゼントにも相応しい。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
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- TEXT :
- 堀 けいこ ライター