ジョージ・レーゼンビーの後を受けて、3代目ボンドを襲名したロジャー・ムーアは、『007 死ぬのは奴らだ』(1973年)から始まり、『007 美しき獲物たち』まで、シリーズ7作品に出演。これは、現在のダニエル・クレイグを含めて6人いるボンド役の中でも最多の出演本数となる。他の5人と比べて、ムーア版ボンドの個性を挙げるとすれば、その洗練されたテーラードスタイルと言えるだろう。
英国秘密情報部のエージェントであるボンドにとってスーツは不可欠なものだが、ムーアは自身が私生活でも懇意にしていたブランドやテーラーを起用することで、彼にしかできないボンド像を演じたのだった。当時ロンドンのセレブリティ向けテーラーとして知られていた『シリル・キャッスル』や『ダグラス・ヘイワード』、そしてシャツメーカー『フランク・フォスター』などとのコラボレーションによって、その唯一無比なスタイルが作られたのである。
劇中に必ずと言っていいほど出てくるディナーシーンにおけるタキシードとブラックタイというフォーマルな装いを始め、ブレザーやスーツの着こなしが抜群だったムーアだが、今回はあえてカジュアルなスタイルをサンプルに、その着こなしのテクニックを紐解いていきたい。
【STYLE SAMPLE】ワーク風のセットアップに見る“こなし”の上級テクニック
1973年公開の大ヒット作『007 死ぬのは奴らだ』(写真左)から、カジュアルなスタイルに注目。やや起毛感のある素材のトラッカージャケットと5ポケットパンツのセットアップを着用しているが、インナーにはTシャツやカットソーではなく、ロングポイントのドレスシャツを合わせるあたりに“らしさ”が伺える。サイズバランスやパンツのディテールなど、いかにも70年代的なのは否めないが、襟元のニュアンスや袖口のあしらい、シューズ選びも含めた柔和なグラデーション調の色合わせなど、現代の感覚に置き換えても見るべき点も多い。
ジェームズ・ボンドの多面性を表現するワークとドレスの邂逅
スタイルサンプルにおける共地のセットアップを「サイ」のジャンプスーツに変更して、本家のワークテイストをあくまでエッセンスとして取り入れた。ジャケットはイタリアのブランド「ラトーレ」のもので、ややワイドなピークドラペルとダブルブレスト仕様でクラシカルなムードを付与。ただ、甘く編んだニットのようなテクスチャーとピュアホワイトカラーで軽快さも忘れない。ジャンプスーツやオーバーオールに羽織りのアウターを重ねるのは現代でも珍しくないが、あえてダブルのジャケットを合わせることで、ムーア版ボンドのジェントルマンな顔、野生的な側面を表現した。ジャケットとジャンプスーツのパキッとしたコントラストカラーを繋ぐインナーの白Tシャツもポイントに。足元にスエードブーツを合わせたサンプルに対し、2022年度版は「オールデン」のプレーントウを持ってきた。上質なレザーの光沢感が、ジャケットのドレス感とバランスを保ちつつ、ボリュームのあるシルエットはジャンプスーツとも好相性。残念ながら既にロジャー・ムーアは鬼籍に入っているが、もし彼が存命であればこんなハイブリッドな装いも華麗に着こなしてくれたに違いない。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
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- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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- PHOTO :
- 島本一男(BAARL)
- STYLIST :
- 河又雅俊
- WRITING :
- 佐藤哲也