「クリアランス」という言葉から、即座に「クリアランスセール」を連想する人は多いのではないでしょうか。「クリアランス」は「一掃」の意味をもつ言葉で、英語圏でも[clearance sale(在庫一掃セール)]とそのまま通じます。ただし、「クリアランス」は業界独特の専門用語として、さまざまな場面で使われる言葉なので、意味を知らずに見聞きすると、理解が難しいかもしれません。今回はそんな「クリアランス」についてのレッスンです。

【目次】

「クリアランス」
「セール」だけじゃない!「クリアランス」の多様な意味。

【まずは「クリアランス」の「基礎知識」から】

■「クリアランス」を簡単にいうと…

「クリアランス」はさまざまな意味をもった言葉ですが、主に「一掃すること」「片付けること」や「隙間」「ゆとり」といった意味で使われることの多い言葉です。また、ビジネスのシーンでは、機密の取り扱い許可や出港許可、航空機の着陸許可など、何かを許可するときに「クリアランス」が使われます。

由来となる英語の[clearance]は非常に多くの意味をもった単語です。以下、『ランダムハウス英和大辞典』から、主だった意味を列挙します。
1.除去、一掃、整理 2.(車両とトンネルの壁などの)隙間、ゆとり 3.機密情報の取り扱い許可、人物証明 4.蔵払い、残品見切り売り 5.空き地、開拓地 6.(金融)精算、決済、手形交換 7.(機械)隙間 8.通関手続き、出入港手続き、許可証 9.腎の浄化値 10.純益 11.飛行機の離着陸の許可

私たちの日常に定着している「クリアランスセール(在庫一掃セール)」も、[clearance sale]とそのまま記載されています。

非常に多くの意味をもった[clearance]は、日本でも業界独自の専門用語「クリアランス」として、それぞれ多様な意味で使用されています。


【業界で異なる「クリアランス」の意味】

では次に、「クリアランス」が専門用語としてどのように使われているのか、具体的に見ていきましょう。

■「歯科」用語として

歯科用語としては、歯にクラウンやブリッジなどをかぶせる際、形成された支台歯の上下のスペースを「クリアランス」と呼びます。「クリアランス」が十分に確保されているかどうかは、後に装着する人口の歯の寿命に影響します。そのため、「クリアランス」を正確に測るための「クリアランスゲージ」という器具も開発されています。

■「建築・設計(車・機械を含む)」業界では

「建築・設計」業界では、施工上必要な「隙間」のことを「クリアランス」と呼んでいます。自動車設計のハーネスとエンジンの間、電気設計での配線パターン間といった、法規制や社内ルールで決められた、部品、物体間に「確保する必要のある距離(隙間、間隔)」のことです。「機械工業」の用語としては「可動域における隙間」「遊びの部分」といった意味で使われることが多いようです。また、「建築デザイン」においては、「建物内の空間」を「クリアランス」と呼びます。

■「医学・医療」関係では

腎臓が血液中の老廃物などを尿中に排出する働きを「クリアランス」といい、「清掃率」「浄化率」と訳されます。腎臓のろ過機能を表す重要な指標で、「清掃値」は「クリアランス値」と表します。

■「税関・輸送」用語として

輸送の分野においては、「通関手続き」「出港許可」「航空機の着陸許可」などの意味で使われます。人や商品などに対する「通過の許諾」といった意味で、「クリアランスをもらった」「クリアランスが下りた」のように使います。また、船舶が入港・出港するたびに一船ごとに許可をとらせる制度を「スペシャル クリアランス」といいます。


【覚えておきたい!「クリアランス」の「関連用語」】

■「クリアランスソナー」とは

アクセルやブレーキの踏み間違えによる事故を防ぐなど、安全な運転をサポートするための機能を「クリアランスソナー」といいます。「クリアランスソナー」の「ソナー」とは「超音波」のこと。車体に取り付けられたセンサーによって車の前後の様子を検知し、障害物が近づくと運転席のディスプレイ表示やブザーで知らせてくれる装置です。

■「クリアランスセール」とは

在庫品の一掃、整理のための売り出し。期末や季節で商品を入れ替えるとき、棚卸しの時期に在庫品の処分のために行われるセールで、「蔵払い」とも言います。

■「歩行時のクリアランス」とは

リハビリの現場で、「歩行中のつまづきやすさ」を表す指標として使われています。「トゥークリアランス」とは、「つま先と床面との間隔」のこと。転倒への影響が大きいため、臨床現場では、高齢者や脳卒中・脳梗塞などの患者の歩行分析をするうえでの重要なポイントとなっています。

■「気道クリアランス」とは

気道内の痰(たん)や異物(細菌・ウイルス・ほこり・花粉など)を排出する能力のことを指します。

■「クリアランスレベル」とは

電気事業において、あるレベル(「クリアランスレベル」)以下の濃度の放射性物質について、「放射性」としての規制を解除すること。廃炉となった原子力発電所を解体した際の廃棄物の一部は、テーブルの脚などに加工され、電力会社の施設などに宣伝目的で置かれています。


【ビジネスでそのまま使える「例文」6選】

■1:「店が一斉にクリアランスセールを始めたため、街が多くの人で賑わっている」

■2:「建物を設計図通りに建築するためには、ある程度のクリアランスが必要だ」

■3:「この部屋は、天井までのクリアランスを広くとってあるのがセールスポイントだ」

■4:「腎臓のろ過機能を確認するために、クリアランス値を注視しなければならない」

■5:「歩行時の転倒には、トゥークリアランスの低下が大きく関与している」

■6:「商品についてのクリアランスが下りたので、早速、営業計画を練ることにした」


【「クリアランス」の「言い換え」「類語」表現】

■「バーゲン」 ■「在庫処分」

「バーゲン」は「バーゲンセール」の略語です。

■「バッファー」

ビジネスシーンで使う場合、「バッファー」は「余裕やゆとりをもたせること」という意味です。また、後ろ盾やサポート役を指します。

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「クリアランス」は「一掃」「隙間」「許可」といった意味で、「空間」や「飛行機」など、業界ごとにまったく異なるものを対象に使われています。とっさに振られた話題にも正しく返答できるよう、正しく理解しておきたいビジネス用語のひとつです。

この記事の執筆者
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