静岡県焼津市の、駿河湾を臨む小さな集落に佇む一軒宿「月と鮪 石上」。前身の「石上」として創業してから60年間、絶品の料理と心温まるサービスによって全国の美食家たちを魅了し続けてきた、知る人ぞ知る名宿です。多くのリピーターたちにとって、大切な人にしか教えたくない心の宝物のような存在だった「石上」ですが、次世代への継承を見据えた女将さんの英断によって、大リニューアルを敢行。「月」と「鮪」をテーマに、随所に現代的な洗練が光る唯一無二の宿へと生まれ変わりました。

「満月のダイニング」で極上の鮪を味わい尽くす、幸福すぎる非日常

新たな宿の象徴となったのは、大きな丸い窓から海を臨む「満月のダイニング」。

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時の移ろいとともに色と表情を変えていく駿河湾。黄昏時、満月のような丸い窓はまるで一枚絵のような美しさ! リニューアル前は客室だった場所だが、ひと部屋が独り占めしていた最も美しい景色を、ゲスト全員が楽しむことができるように。また、ゲストが望めば、2部屋ある個室で食事をとることもできる。

そして、この幻想的な空間で供されるディナーこそが、「月と鮪 石上」の最大の魅力! 一つ星シェフ・鳥羽周作氏と、料理を手がける女将のふたりのご子息の共同開発によって創りあげられた「日本一おいしい鮪のコース料理」です。

焼津港で水揚げされた南鮪にこだわり、シンプルな刺身や握りはもちろん、普段いただく機会があまりない部位まで余すところなく駆使した、めくるめく鮪料理のレビューがテーブルの上で繰り広げられます!

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鮪の目利きである4代目当主・石上将士さんが選りすぐった極上の南鮪。「赤いダイヤ」とも称される美しいこのブロックから、数々の珠玉の料理が生み出される。

幾度もクライマックスが訪れる、ある夜の「日本一おいしい鮪のコース料理」

鳥羽シェフと、女将のふたりのご子息、石上将士さんと翼さん兄弟が目指したのは、「わざわざ焼津まで足を運ぶ価値のある料理」。そこから、この美しい「満月のダイニング」という空間で楽しむ「ストーリーのあるコース体験」という結論が導き出されました。

鳥羽シェフが「日本一おいしい鮪のコース料理」と胸を張る、一期一会の美食の物語。ある夏の夜は、こんなストーリーが繰り広げられました。

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左上/1品目は、まぐろ節と自家製乾燥舞茸を使った温かいスープ。右上/次いで供されるのは、南鮪漬けとビーツの酢漬け、黄身酢をサンドした最中。左下/黒米と鮪のほほ肉をケールの葉で蒸した粽(ちまき)。右下/口直しとして供される、甘夏とセロリのマリネ。
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まず新生姜の自家製ガリを口にしてからいただく南鮪中トロの握りは、岩塩でシンプルに。
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天身、血合下、大トロの3部位を堪能できるお造り。
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中トロを網焼きにし、煮きり醤油を塗った炙り。
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鮑の肝はソースに仕立て、アワビの磯蒸しとともに味わう。
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南鮪のカマと血合の煮つけ。長年、継ぎ足し継ぎ足しで受け継がれてきた秘蔵のタレで、3時間ほどじっくり煮込んで完成させる。
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お品書きにはシンプルに「ご飯」としか書かれていない最後のクライマックス! 「月」に見立てたべっこう玉(卵の黄身の醤油漬け)と、南鮪の皮肌を土鍋ご飯にのせて、「月と鮪」の物語が完結する。

当初は「鮪×キャビア」みたいな派手な組み合わせも選択肢としてあったと語る鳥羽シェフ。

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「sio」オーナーシェフ、シズる株式会社代表 鳥羽周作さん。Jリーグの練習生、小学校の教員を経て31歳で料理の世界へ。2018年「sio」をオープン。同店はミシュランガイド東京2020から3年連続で一つ星を獲得している。現在は全国にいろいろな業態の8店舗を展開中。「幸せの分母を増やす」という自身のモットーのもと、今回初めて旅館の仕事に挑んだ。(C)岡本卓大

「しかし、いい意味で宿もスタッフの皆さんも素朴で実直。そういう雰囲気って料理にも絶対に反映されるので、まずはこの宿全体のトーンに合うコース料理であることをめちゃくちゃ大切にしました」

極上の南鮪のすべての部位を、豊かな発想と若い情熱、そして技とセンスによって、多彩な料理へと昇華させた鮪の一夜物語。それは確かに、わざわざ足を運ぶ価値がある傑作だと誰もが感動することでしょう。

極上の泉質の温泉、そして朝…静謐な洗練が息づくおもてなしの数々

「月」と「鮪」以外にも、さまざまな物語が綴られているこのお宿。館内の随所が、大人の女性の心身を癒すヒーリングスポットです。

■1:高濃度で良質な天然温泉「焼津温泉」

浴場は館内に2か所。どちらも大きくはないものの、広くとられた窓によって開放感があり、心からリラックスして極上の温泉を楽しむことができます。

温泉は海水の約半分の塩分を含む塩化物泉で、肌に優しい弱アルカリ性。熱すぎずぬるすぎずの絶妙な湯加減で、つい長湯したくなってしまう心地よさです。

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浴室の鏡も満月のような丸形。

■2:「引き算の美学」を体現する、寛ぎの和洋室

5つに絞られた客室は、駿河湾や緑豊かな山を見渡せる景観と、ワーケーションテーブルを備えつけた和洋室。和紙畳や漆喰の壁の繊細な色味、リニューアル前の姿のまま残した天井の格子、柱が調和し、心からの安らぎを約束する空間に。

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ベッドマットはシモンズ社製。ホワイトダウン90%の掛け布団、カバーもシーツも心地よいテクスチャーで、深い眠りへと誘ってくれる。

■3:磨き上げられた、飴色の檜の床

創業60年の歴史を感じさせる檜の床はそのまま残され、現在も石上兄弟によって、毎日丹念に磨き上げられています。塵ひとつなく美しい艶を放つこの床からも、宿の矜恃とおもてなしの心が伝わり、思わず裸足で歩きたくなるほど。

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新しくすべきところは躊躇なく刷新した一方、守るべきもの、継承すべきものを大切に残した今回のリニューアルを象徴する、檜の床の飴色の輝き。

■4:夕食同様、このためにまた、ここに帰りたくなる幸福な朝ごはん

幽庵焼きやすき身でいただく朝の鮪。それらの美味しさはさることながら、新鮮な野菜をふんだんに使った副菜、鮪節からとったお出汁と西京味噌でつくられた味噌汁、女将さんによる甘い卵焼き、用宗港で水揚げされた新鮮なしらす…そして炊き立ての土鍋ごはん! すべてに感動が詰まった至福の朝食に、再訪を誓う人も少なくないはずです。

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お米は契約農家で作られた「縁結び」という銘柄。この他に、鮪節でつくった自家製のふりかけも供され、もう満腹でもおかわりせずにはいられない!

■5:素朴さと気高さが共存する、洗練のホスピタリティ

今回のリニューアルの構想がスタートしたのは、約4年前。そう、パンデミックとは関係なく、女将は次世代へバトンを継承させていくために、大切に守り続けてきたこの宿を新しくするという大きな決断をしたと語ります。

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写真左から、四代目当主となる長男の石上将士さん、女将の智子さん、そして料理人である次男の翼さん。

「実は当初は、人気旅館=客室露天風呂という固定概念にとらわれて、各お部屋に露天風呂をつけたいと思っていたんです。でも、このリニューアルプロジェクトを進めてくださったクリエイターの方からのご助言もあって、こうしておもてなしの主軸を食事にすることにしました」

女将の智子さんの笑顔と語り口は柔和で温かく、料理もさることながら、素朴さと気高さが共存するホスピタリティの虜となり、何度も足を運ぶリピーターが多いというのにも大いにうなずけます。実際に泊まってみて感じたのが、まるで第二の実家のような、或いは自分の別荘のような「安らぎ」。そう伝えると、女将は少女のように無垢な微笑みを浮かべ、こう語りました。

「そうおっしゃっていただけると本当に嬉しいです。なぜかここに来ると落ち着く、心地いい、元気が出る…穏やかな空気が流れている空間を今も昔も大切にしてきていますので、目に見えない空気感で、幸せを感じていただきたいと思います」

※外出時には新型コロナウィルスの感染対策を十分に講じ、最新情報は公式HPなどでご確認ください。

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EDIT&WRITING :
岡村佳代