200年以上の歴史を有し、その後にまで続くラグジュアリー・ウイスキーのレガシーを生み出したスコッチ・ウイスキー、シーバスリーガル。スコッチのプリンスと称えられる、リッチでスムースなその味わいに魅せられたファンは多く、現在、世界の150以上の国で愛飲されている。日本では、洋酒文化受容のひとコマとして、イギリス留学経験をもつ吉田茂元首相がこよなく愛した酒であったという逸話も伝えられている。
そんなシーバスリーガルブランドの守護神である名誉マスターブレンダーのコリン・スコット氏が、1月末日に来日。シーバスリーガルのブレンディング・チームの気鋭の一員であるカルム・フレイザー氏とともに、メンズプレシャスのウイスキー・ファンのためにインタビューに応えてくれた。
蒸留は化学、ブレンディングはアート
──おふたりはいまクールなスーツ・スタイルに身を包んでらっしゃいますが、ブレンディングという、ウイスキー造りの最も大切な最終工程に臨むときには、いったいどんなスタイルをしているのでしょう。
コリン・スコット(以下コリン) 蒸留は化学ですが、ブレンディングはアート。私たちは化学者ではないので、ラボコートを着るわけではありません。今日と変わらないクールなスーツ・スタイルです。お褒めいただきありがとうございます(笑)。
年によって存在する原酒の数が違いますし、モルト(※大麦麦芽のみを原料とする原酒)もグレーン(※トウモロコシやライ麦など大麦以外の穀物を主原料とする原酒)も、当然味わいも違う。それらをブレンドして、何年も続いてきたのと同じ味わい、同じ品質のシーバスリーガルを完成させる。それがブレンダーのアートなのです。
そして、今現在、シーバスリーガルのキー・モルトを生み出すストラスアイラ蒸留所をはじめとするスペイサイド地方の複数の蒸留所では、10年後、20年後、さらにその後に続く将来のシーバスリーガルのために、様々なモルトやグレーンを樽の中に入れています。
──ブレンディングで最も大切なことは、今飲んだシーバスリーガルも20年後に飲んだシーバスリーガルも、これまでと変わらない味わいにすること、とスコット氏は語られましたが、伝統を受け継ぐその強い意志を、若きフレイザー氏はどう受け取っているのでしょうか。
カルム・フレイザー(以下カルム) 1909年から今日までシーバスリーガルのブランドが途絶えずに続いてきたということ、そして、私がそのブランドの伝統を受け継ぐという仕事に関わっていることを、とても誇りに思っています。そして、コリンからは「品質はすべての鍵である」と常に言われています。シーバスリーガルのブレンダーとして持つべき意志とアートの多くを、今もコリンから学んでいます。
──シーバスリーガルの伝統と誇りを後世に繋いでいくウイスキー・ブレンダーとして求められることは何なのでしょう。
コリン ブレンダーに必要な条件が3つあると私は考えます。ひとつは、原酒を嗅ぎ分ける優れた嗅覚。シーバスリーガルのブレンダーたちは毎年、厳しい試験を受けています。私は、名誉マスターブレンダーとしてシーバスブラザース社のブレンディング・チームを統括し、伝統と技術を教授する立場にあるため、今は受けていませんが、もちろんカルムは、この試験を受けています。
条件の2つめは、時間と経験の積み重ね。そして、3つめがパッション。ウイスキーに対する熱い思い。それがなければブレンダーにはなれません。
──三代にわたってウイスキー造りに携わる家系に生まれたというスコット氏は、1973年にシーバスブラザーズ社に入社。ウイスキーの世界に入ることは、まさに運命だったのかもしれませんね。1989年のマスターブレンダーのポスト就任以来、「シーバスリーガル18年」など、数多くのアイテムを生み出してきたスコット氏にとって、とくに印象深いウイスキーはあるのでしょうか。
コリン 特にこのウイスキーというのはないのですが、私が喜びを感じ、一番大切に思っているのが“ストーリー”。いろいろな国で、自分が出した商品を飲んで笑顔になっている人、その顔を見た瞬間のひとつひとつが印象深く心に残っています。
そんなストーリーには、日本での出会いもあります。私が初めて日本を訪れたのは25年前なのですが、以来、日本各地を旅して、日本のウイスキー造りに携わる人、バーテンダー、ホテルマンなど、たくさんの方々に出会いました。そうやって学び知った日本の文化や伝統に敬意を評したいという思いが募って生まれたのが、2013年に発表した「シーバスリーガル ミズナラ 12年」。私にとって思い出深いストーリーのひとつです。
──日本へのその思いに感謝をします。日本だけでなく、世界中を駆け巡っているおふたりに。世界の都市の中の個人的なお気に入りのバーを教えてください。
コリン 色々なロケーションでシーバスリーガルを飲んできました。万里の長城とか、世界で最も高い場所にあるバーと言われる、バンコクのホテル「ルブア」のルーフトップバーとか……。富士山はまだですけどね(笑)。
バーというと、銀座のバーがとても好きです。ロンドンはモダンで広いバーが多いのですが、銀座には小さな落ち着いた空間で、バーテンダーと親密な会話ができるバーがある。彼らのウイスキーの知識の深さにはいつも驚かされます。
ほかにいい経験ができるお勧めがふたつ。シカゴのジョン・ハンコック・センターの96階にあるラウンジのバー。ウイスキーのセレクションが充実しているし、流れている音楽がいい。もうひとつは、ドバイの高層ビル、バージュ・カルファのアット・ザ・トップ。夕暮れ時に、砂漠の地平線に沈む夕日を見ながらウイスキーを飲む。その時間は、とても素晴らしいものです。
カルム 私はまだシーバスリーガルのブレンディング・チームに入って日が浅いので、海外のバーにはあまり行けていません。ですが、好きなバーがグラスゴーにあります。ポット・スチルというバーで、そこには世界中の多種多様なウイスキーがあるんです。今のところ私は、そこで、いろいろなウイスキーを飲んで宿題をこなしています(笑)。
──おふたりのおすすめのバー、機会があったら、ぜひとも足を運んでみたいものです。では最後に、日本のシーバスリーガルファンに何かニュースがあれば。
カルム 私たちブレンダーは常に、5年後、6年後と、先を見据えてのウイスキー造りを考えています。まだ、いつとは言えませんが、近い将来、日本のウイスキーを愛する人々と、スコッチ・ウイスキーが大好きという人たちが、共に喜んでくれる商品の発表ができると思います。楽しみにしていてください。
──また新しいストーリーが紡がれつつあるということですか。それは楽しみ! 飲んだ瞬間、きっと笑顔になれるに違いない商品でしょう。貴重なお話をありがとうございました。「シーバスリーガル」の200余年の歴史と、これから先に続く伝統に敬意を表して、Cheers!
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- TEXT :
- 堀 けいこ ライター