音楽で世界を変えることはできないという人もいるけれど、音楽はひとりの人間の生き方を変えてしまうことができる。変えられてしまったその張本人が申し上げているのですから間違いありません。中学1年のクリスマスに親に買ってもらった安物のフォークギター。そのギター1本で私の人生はほぼ決定付けられました。絶対に上手くなるとかを通り越して絶対にプロのギタリストになると心に決めたのです。まだコードを弾くのもおぼつかない段階。
寒い日に似合う一曲で人生を変えてみる!?
チューニングすらちゃんとできないどころか、まだ1曲も通して弾ける曲がないのに決めたのです。それからはひたすらギターの練習に明け暮れる日々。
何の取り柄も目標もなく、努力や根性が大嫌いで、テレビやマンガでゲラゲラ笑っていただけの子供が、突然日夜ギターの練習を徹底して始めるとは買い与えた親もビックリしたことでしょう。
私の人生はそのギターで完全に変わりました。
途中経過を大幅に省略しますが、今現在めでたくクレイジーケンバンドのギタリストとして活動中です。もっと上手くなりたいと今でも思っていますのでこれからも精進します。
音楽で、だれかの1曲だけで人生は変わるのか。あり得ることだと思います。私がギターを弾くに至るまでに、私の心を揺らし続けた曲たちをあなたにもプレゼントします。ク
プロコル・ハルムの「青い影(A Whiter Shade ofPale)」だれでもが一度は耳にしたであろう、有名曲中の超有名曲。様々な人々の人生を揺り動かしたであろうイントロのオルガンの響きは今でも輝きを失っていない。歌詞は西洋的バックグラウンドがないと難解ですが、言葉や意味を通り越して伝わってくる響きの総体によって私たちは船出することができる。音楽の遥かなる海へ。何度でも繰り返して。
エルトン・ジョンの「Someone Save My Life Tonight」は救いの曲。アコースティックピアノ、エレクトリックピアノ、そしてソリーナ(ストリングアンサンブル)が紡ぎ上げる至高のサウンドは魂が救済されたことへの感謝を歌詞以上に私たちに伝えてくれます。
そしてエルトン・ジョンの澄明な歌声は今この時代にこそ響いてほしい。皆の心が自由に、蝶のように飛べたなら、きっと世界は変わるのに。
パット・メセニー「(Cross the)Heartland」はギターのテクニック云々を飛び越えて心を洗い流せる曲。
アルバム『American Garage』全部を聴けば一年の、そして世界のモヤモヤもスッキリするかもしれません。
ジェフ・ベック「Goodbye Pork Pie Hat」の剝き出しに放り出されたギターサウンドの切なさを感じる寒い夜はどうだろうか。ふとしたところに見つける優しさはプロデューサーのジョージ・マーティンの丁寧で愛のある仕事の表れ。何トラックかのギターをひとつの物語として見事に繫ぎ合わせています。
マックス・ミドルトンの最高に美しいローズピアノと共に、世界中の悲しみと希望をじっくりと味わうのもいいでしょう。
オジー・オズボーン「Flying High Again」でヘヴィーなサウンドから心を空に羽ばたかせるのも一興。悲運のギタリスト、ランディー・ローズの硬質なギターサウンドは刻々と輝きと色彩を変えながら自在に空を舞います。これまた自由に。明日に向かって。
最後に手前味噌になりますがクレイジーケンバンドの「クリスマスなんて大嫌い!! なんちゃって」をあなたに。もう15年前のリリースです。
この曲でクレイジーケンバンドを知ったという方も多くおられます。時の急流の中でいろいろなモノが色褪せていきますが、音楽の輝きは変わらないのだと信じています。
これからもよい音楽をつくり出せるよう、そして自分もよい音楽を楽しめるように一歩ずつ歩いていきたいと思います。
- TEXT :
- 小野瀬雅生 ミュージシャン
- BY :
- MEN'S Precious2017年冬号Butler Bertie's Clippingより
公式サイト:小野瀬雅生で御座います
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- クレジット :
- イラスト/桑原 節