信頼していた部下に裏切られ、策略に気づいたときには状況は八方塞がり…「是非に及ばず」は、こんな場面に似つかわしいセリフです。「もはや打つ手なし。どうしようもない」。かつてこの言葉を口にした戦国武将がいたそうですが、あなたはそれが誰だかご存じですか? 今回は「是非に及ばず」について解説します。新たな解釈を知ったあとでは、あの武将に対するイメージも、変わってくるかもしれませんよ!

【目次】

ふた通りの解釈があるようです。
ふた通りの解釈があるようです。

【「是非に及ばず」とは?「読み方」「意味」など「基礎知識」】

■読み方

「是非に及ばず」は「ぜひにおよばず」と読みます。

■意味

「是非」とは是と非。「よいことと悪いこと」という意味のほか、「ものごとの善し悪しを議論し判断すること」という意味もあります。「及ばず」は「及ぶ」の否定形。「する必要がない」「しなくともよい」といった意味となります。つまり「是非に及ばず」は、ものの善し悪しや、やり方などを「あれこれ論議する必要はない」とか、「もはやそういう段階でない」状態を指します。「どうしようもない」あるいは「仕方がない」状況とも言えます。

■誰が言った?

このセリフが放たれた舞台は、かの有名な本能寺の変。と聞けば、もうおわかりですね? 戦国時代にその名をとどろかせたカリスマ武将、織田信長こそが、「是非に及ばず」という言葉を有名にした人物です。明智光秀の軍勢に急襲された織田信長が、「もはやどうしようもない」との意味で発言したとされていました。ところが近年の研究から、従来とは180度異なる、新たな解釈に注目が集まっています。

明智光秀の裏切りを知った織田信長は、実は「是か非を考えている場合ではない(今すぐに武器を取れ)!」という意図をもってこの言葉を口にしたのではないか、というのです。そうだとしたら、信長は絶体絶命のピンチにおいても、「グズグズ考えている暇があったら、逆境をはねのけるべく、すぐさましかるべき行動を取れ!」というアグレッシブな姿勢を貫いていたことになりますね!


【「是非に及ばず」の「使い方」がわかる「例文」4選】

■「どうしようもない」という解釈ならば

・「ここまで心血を注いできたイベントだが、主催元がそう言うのなら是非に及ばず。潔く諦めよう」

・「我が社には不利な条件だが、是非に及ばず、ここは承諾するしかない」

■「逆境をはねのける」という解釈ならば

・「これは明らかに私のミスだ。是非に及ばず、挽回できるよう頑張ろう」

・「今回の競合相手は業界最大手だが、是非に及ばず、我が社の商品をしっかりアピールしていこう」


【「是非に及ばず」の「類語」「言い換え」表現は?】

■「どうしようもない」という解釈ならば

・「打つ手がない」

・「もはやこれまで」 

「仕方ない」

・「余儀ない」

■「逆境をはねのける」という解釈ならば

・「現状打破」

・「逆境をはねのける」


【「是非に及ばず」を「英語」で言うと?】

■「どうしようもない」という解釈ならば

「もはや取るべき手段がない」という意味ならば、[no choice]と英訳できます。

・We had no other choice. (是非に及ばず)

■「逆境をはねのける」という解釈ならば

「乗り越える」を表す英単語には[overcome]や[get over]があります。

・He overcame various difficulties.(種々の困難を克服した)

・She got over an illness(彼女は病に打ち勝った)

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本能寺の変は、織田信長の自害によって幕を閉じますが、「是非に及ばず」の解釈次第では、連想される景色がまったく違ったものになってきますね。とはいえ、個人的には「もうだめだ」という諦めではなく、「腹をくくって最善の策を」という前向きな意図で「是非に及ばず」を使ってみたいなと思いますが、皆さんはいかがでしょうか。

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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) /『ランダムハウス英和大辞典』(小学館) :