「畏怖」とは「自分の力が遠く及ばない存在から、不気味な威圧感を感じて恐れおののく」という意味の熟語です。「畏怖の念を抱く」は多少の誇張も含み、「恐怖心を覚えるほど素晴らしい」というニュアンスでも使われますが、口頭よりも文章で使われることの多い、書き言葉です。今回は「畏怖」の意味をはじめ、「畏敬」との違い、類語や例文をご紹介します。

【目次】

「恐れおののく」気持ちが強いです。
「恐れおののく」気持ちが強いです。

【「畏怖の念を抱く」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方

「畏怖の念を抱く」は「いふのねんをいだく」と読みます。

■意味  

「畏怖」とは「畏(おそ)れ慄(おのの)く」こと。単に怖がるというだけでなく、自然や神仏など、人間の力が遠く及ばない存在から、不気味な威圧感などを感じ取り、恐れおののく様子を指します。熟語を紐解くと、「畏」には「怖がること、敬うこと」という意味があり、一説によると、幽鬼や虎に似た恐ろしいものを恐れ憎むことを表しているそうです。「怖」にも「恐れる、怖がる」という意味があり、恐れの感情が迫ってくるさまを表します。「畏怖」は似た意味をもつ語をふたつ重ねることで強い恐れを表し、さらにそこに尊敬や崇拝の念が加わった言葉と言えます。

「念」は「思いや気持ち」を表す言葉で、「尊敬の念を表す」のように使われますね。「畏怖の念を抱く」は、「恐れや敬いの気持ちをもつ」という意味で主に文章中で使われ、改まった印象を与える書き言葉です。


【「畏怖」と「畏敬」との違いは?】

「畏敬」は「いけい」と読み、「崇高なものや偉大な人を恐れ敬うこと」という意味です。「畏怖」同様、「畏敬の念を抱く」とも用いられます。「畏怖」と「畏敬」は似た意味をもつ「類語」ですが、このふたつの違いは、「畏怖」が自然や神仏など、人間の力が遠く及ばない存在に対する恐れや敬いの気持ちを表す言葉であるのに対し、「畏敬」は神仏だけでなく「尊敬すべき目上の人や偉大な人物」など、人を対象としても使われる点です。「畏敬」のほうが一般的であり、日常的には使いやすい言葉だと言えるでしょう。


【「畏怖」と「畏敬」の「類語」表現】

では次に「畏怖」と「畏敬」の類語を見てみましょう。ふたつの言葉の意味の違いがはっきりするはずです。

■「畏怖」の類語

・恐怖 ・恐れ ・怯む ・おびえる ・崇敬 ・畏敬

「崇敬」は「神仏や立派な人などを崇(あが)め敬うこと」。恐れよりも尊敬の気持ちが強く表れた言葉です。

■「畏敬」の類語

・尊敬 ・敬う ・尊ぶ ・崇める ・崇敬 ・畏怖

「畏怖」の類語が、自分の力を超えたものにおびえ、不安に思う気持ちを表しているのに対し、「畏敬」の類語は、人間性や業績などを崇め敬うことを意味する言葉が並んでいますね。 


【「畏怖の念を抱く」の「使い方」がわかる「例文」4選】

「畏怖」は本来、自然や神仏など、人間の力が遠く及ばない存在に対する恐れや敬いの気持ちを表す言葉ですが、「畏怖の念を抱く」は、自分の心情を誇張する表現として、尊敬すべき人や物に対しても使用され、「人間離れした」「恐怖心を覚えるほど素晴らしい」といったニュアンスを表します。

■1:「古代の人々は自然のなかに神を見い出し、畏怖の念を抱いていた」

■2:「あまりにも大きな、災害が残した爪痕に、畏怖の念を抱いた」

■3:「歴史上の偉大な人物に対し、畏怖の念を抱いた」

■4:「素晴らしい演奏に心打たれると同時に畏怖の念を抱いた」

■5:△「理路整然とした彼の素晴らしい答弁に畏怖の念を抱いた」

「畏敬の念を抱く」は、畏れ、敬う気持ちが込められた表現です。そのため、身近な相手に対して使うことはあまりありません。大げさすぎるとかえって真意が伝わりにくいものです。「尊敬の念を抱く」など、別の表現を候補に考えてみてはいかがでしょうか。


【「畏怖の念を抱く」を「英語」で言うと?】

「畏怖」や「恐れ」は[awe]もしくは[fear]で表現することができます。「〜を畏怖している」は、「be in awe of」と表現します。

[awe]と[fear]の違いは、[awe]は相手への畏敬の念によるものであり、[fear]は自分に危害の及ぶのを恐れる気持ちを表しています。

・People were in awe of the big Tsunami.(人々は大津波に畏怖の念を抱いた)

・He arouses fear (awe)in others.(彼は人々に畏怖の念を起こさせる)

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「畏怖」は、自然や神仏に対する恐れや敬いを表す言葉です。音楽や絵画などの芸術や、偉大な人物についても「畏怖の念を抱く」は使われることがありますが、あまり日常的な表現ではないので、「畏敬」や「尊敬」「崇拝」など、類語を頭に入れておき、状況に応じて使い分けましょう。

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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) /『使い方の分かる 類語例解辞典』(小学館) :