恋愛ものからアクションものまで、出演作品の幅が広い坂口健太郎さん。この数年で多かったアクション演技のあとに挑んだ最新作は、打って変わって「静か」で「柔和な」ムードが特徴です。それが、「隣にいる人」という副題をもつ映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』。坂口さんが演じた主人公・未山(みやま)と自身を重ね合わせながら、作品づくりの過程を振り返っていただきました。インタビュー全3回の初回は、少し変わった作品ならではの誕生プロセスについて。そこで坂口さんが新たに気づいたこととは?

俳優・坂口健太郎さん
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坂口健太郎さん
俳優
(さかぐち・けんたろう)1991年、東京都出身。2014 年に俳優デビュー後、『64-ロクヨン-前編/後編』(2016年)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。2018年に『シグナル長期未解決事件捜査班』で連ドラ初主演。その他、主な映画出演作に『劇場版 そして、生きる』、『仮面病棟』、『劇場版シグナル長期未解決事件捜査班』、『余命10年』、『ヘルドッグス』など。近年のテレビドラマ出演作に、 NHK 連続テレビ小説『おかえりモネ』、NHK 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、ドラマ『競争の番人』など。最新映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』(2023年4月14日公開)、2023年4月期のドラマ『Dr.チョコレート』でも主演をつとめる。

自分でありながら自分でないような。ちょっと不思議な感覚です

「今思えば、あれが作品づくりの始まりだったのかもしれません。ある年末、かつて映画『ナラタージュ』でご一緒した行定 勲監督と監督・脚本家の伊藤ちひろさんと、食事をしたことがありました。そのときに、『坂口くんで何か新たな作品をつくってみたい』とおっしゃって。そのときはまだ、物語も役も何も決まっていない段階でした。何度か話を重ねながら、今作の監督・伊藤ちひろさんが主役の人物像を作り上げていき…。そうしてできたのが、最新映画『サイド バイ サイド』です。

そこには、“僕を通して”形づくられた主役・未山の像がありました。僕と共通するものもあれば、異なることもたくさんあります。僕はそういうふうに人から見えていたのか、という発見もあり、自分でありながら自分でないような。ちょっと不思議な感覚です」

俳優・坂口健太郎さん
自分でありながら自分でないような。ちょっと不思議な感覚です(坂口健太郎さん)

「最初に監督から言われたのは、『ただ存在するだけで』、『何もしないでいい』ということでした。言葉の意味はわかるし、『わかりました』と答えたものの、いざ実践するとなると、とても難しい。さて、存在するだけというのは…。僕が考えた答えは、準備のためにいろいろ考えたり、自分にまとっていたものをすべて『剥がす』ということでした。

たとえば、『座る』という動作ひとつにしても、足を組んだり肘をついたり、または手を動かしたり、目線をあちこちに動かしたり、誰でも何かしらするものですよね。何もしないとしても、座ることを意識して背筋を伸ばすかもしれない。でも、あえてそうしたことをすべてやめて、ただ『座る』んです。

それはとても不自然だし、見るほうは違和感があるものです。だって、人はどこかしら動いているほうが自然ですから。リアルに出るものを削ぎ落として見えてきた、この違和感こそが、未山の不思議な存在感を際立たせました。こうして出来上がってみれば、監督が言う『シンボリックな存在』、『どう思っているのか悟らせない』という思惑は、見事に成功していました。なるほど、パッとみただけでは彼のことがよくわからない。演じる僕ですらそう感じるのですから、見ている人には果たしてどう映るのか。楽しみでもあります」

俳優・坂口健太郎さん
演じる僕ですらそう感じるのですから、見ている人には果たしてどう映るのか(坂口健太郎さん)

人間味の薄い人物に、生々しさが浮かび上がった瞬間

こうした新しい試みの結果、仕上がった映像を坂口さんは「絵画的」と表現します。「絵」は物語の展開ともリンクする重要なモチーフ。そして「絵画的」な映像をつくる撮影そのものも、これまでになかった手法が取り入れられました。

「普通なら、ひとつのシーンを撮るのに、複数の角度から分けて撮るもので、それがあって初めて表情や伝えたいことがわかるものです。ところが今回は、(離れたところからの)引きで撮った1枚の画ですべてを見せることがとても多い。感情や表情をわかりやすく見せることより、絵画的にこだわった結果です。

俳優・坂口健太郎さん
人間味の薄い未山でありながら、ちょっとした生々しさが浮かび上がる(坂口健太郎さん)

そして、僕が演じる未山の服も。ゆるめのネックラインと大きめのシルエットの服は、風が吹くと体のラインを浮き立たせます。人間味の薄い未山でありながら、そうしたときだけちょっとした生々しさが浮かび上がる。これも、監督にしてみれば計算づくだったのかもしれません。

ただ…。最終的にこれらの演出をどう解釈するかは、見る人に委ねられているような気がします。もし、わからないところがあっても、それでいい。不正解もありません。そして、そんな作品ほど、何度も思い返したり、見返したくなるのだと思います」


――では、作品に対する坂口さんなりの解釈とは? そのわけとは? Vol.2(4月21日公開予定)で解き明かします。ご期待ください。

■坂口健太郎さん最新主演映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』

■そこに存在しない“誰かの想い”が見える青年・未山(坂口健太郎)。その不思議な力を他者のために使い、身体の不調に悩む人や、トラウマを抱えた人を癒やしながら日々を歩んできた。自然豊かな村で、看護師の詩織(市川実日子)と詩織の娘・美々(磯村アメリ)を加えた 3 人で穏やかに暮らしている。そこに現れた高校時代の後輩・草鹿(浅香航大)と、過去の恋人・莉子(齋藤飛鳥)。彼女の存在によって紐解かれていく、未山の秘密。彼は一体、どこから来た何者なのか?

 

出演:坂口健太郎
齋藤飛鳥 浅香航大 磯村アメリ 茅島成美 不破万作 津田寛治 井口理(King Gnu) 
市川実日子
監督・脚本・原案:伊藤ちひろ
企画・プロデュース:行定勲
(C)2023『サイド バイ サイド』製作委員会

公式Twitter / 公式Instagram

映画『サイド バイ サイド』公式サイト

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PHOTO :
高木亜麗
STYLIST :
壽村太一
HAIR MAKE :
廣瀬瑠美
WRITING :
南ゆかり