【目次】

【慣用句「背に腹は代えられない」とは?「読み方」「意味」「由来」】

「読み方」

「背に腹は代えられない」は「せに・はらは・かえられない」と読みます。そのままですね!

■「意味」を分かりやすく簡単に言うと?

「背に腹は代えられない」は、「差し迫った苦痛を回避するためには、ほかのことを犠牲にしても仕方がない」という意味のことわざです。

ピンチに陥った際、「多少の犠牲は仕方がない…受け入れよう」という、やや諦めに近いニュアンスで使われることが多いフレーズです。たとえ不本意ではあっても、大切なものを守るためにはほかに選択肢がないからです。このほかにも、「大きな犠牲を避けるために、多少の犠牲を仕方なく受け入れる」「大切なものを守るために覚悟を決める」という意味でも使われます。

■「由来」「語源」

昔、武士が敵から斬り付けられたとき、「お腹を斬られるくらいなら、背中を斬られたほうがマシ」と、背中を丸め腹部を守ることで致命傷を免れていたそうです。「腹は、背と交換できない」の意が転じて、「切羽詰まった状況のなかで、もっとも大切なものは守るためには、多少の犠牲はやむを得ない」という意味となりました。


【「背」と「腹」どっちが大事なの?】

人間の「腹」には、五臓六腑(ごぞうろっぷ)と呼ばれる、生命を維持するのに欠かせない内臓が収まっています。昔の武士がその「腹」を守るために敵に「背」を向けて刃を受けたことからわかるように、「背」よりも「腹」が大事だと考えられていました。


【「背に腹は変えられない」「背を腹には代えられない」は間違い】

「代理」という熟語があるように「代」という文字には「交代する・交換する」という意味があります。「背に腹は代えられない」は、直訳すれば「背中にお腹の代わりはできない」という意味。

一方で、「変える」は「変化させる、違った状態にする」という意味をもちますから、「背に腹を変えられない」では意味が通じず、間違った表記といえます

また、「背に腹は代えられない」を、「背を腹には代えられない」と覚えている人もいるようですが、こちらも誤用ですので、気を付けてくださいね。


【「使い方」がわかる「例文」】

■1:「会社の倒産を免れるために背に腹は代えられない。苦渋の決断だが、リストラを決行するしかないだろう」

■2:「A社の契約を取るためには背に腹は代えられない。いくつか条件を譲歩することにしよう」

■3:「無駄遣いが過ぎて、今月生活費が足りなくなってしまった。背に腹は代えられない。大事にしていたバッグや靴を、いくつか売るしかないな」

■4:「彼とは何かと意見が合わないし気に食わない態度も多いが、背に腹は代えられない。優秀なパートナーと割り切って、目をつぶろう」


【「類語」「言い換え」表現】

「背に腹は代えられない」は、時代劇や映画の中のセリフで出てくるような、やや古風なフレーズです。日常会話ではあまり馴染みがないかもしれませんね。似たような意味の慣用句のほか、言い換え表現をご紹介しましょう。

■やむを得ない 

「やむを得ない」は「仕方ない」「どうしようもない」という意味です。こちらは日常会話でも耳にする機会の多い言葉ですね。「不本意だが諦めるしかない」という意味では「背に腹は代えられない」と共通した意味をもちますが、「切羽詰まった状況のなかで、もっとも大切なものは守り抜く」という意味はありません。

■背より腹 

「背に腹は代えられない」と同じ意味の言葉です。

■時の用には鼻(を欠け)

「時の用には鼻を削(そ)げ」とも言います。いずれも「急を要する大事な場合には、鼻を切り落とすような手段でも取った方がよい」、つまり、「危険が迫っている際には手段を選ぶな」ということ。

■小(しょう)の虫を殺して大(だい)の虫を助ける

「小さなことは犠牲にして、大事を守る。重要な物事を保護し完成するために、小さな物事を犠牲にする」という意味の言葉です。


【「反対語」は?】

「もっとも大事なことのためには、犠牲もやむを得ない」という意味と相反する故事成語をご紹介します。

■渇(かっ)しても盗泉(とうせん)の水を飲まず

「盗泉」は山東省にあった泉の名前で、「孔子はどんなにのどが渇いても、盗泉という名を嫌って、その水は飲まなかった」という『陸機─猛虎行』の故事から、「どんなに困っていても、不正には手を出さない」ことのたとえとなりました。

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「犬も歩けば棒に当たる」で始まる「江戸いろはかるた」。この「江戸いろはかるたの」の「せ」の読み札になっているのが、「背に腹は代えられぬ」です。今も昔も、人は危機に直面した際、リスクを最小限に抑えるために、「今この時点で何にプライオリティを置くか」という決断を迫られてきた、ということでしょう。ビジネスシーンにおいても、「緊急度」と「重要度」。ふたつの要素を常に意識しながら仕事を進めることが大切ですね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) :