「背に腹はかえられない」という言葉は「切羽詰まった状況のなかで、もっとも大切なものは守るためには、多少の犠牲はやむを得ない」という意味の言葉です。今回は「背に腹はかえられない」の意味や由来を解説。さらに例文を読めば、この言葉が使われる背景には「犠牲を払うこと」に対する覚悟や諦めの気持ちが潜んでいることが理解できるはずです。

「【目次】

あなたにとっていちばん大切なものはなんでしょう。
あなたにとっていちばん大切なものはなんでしょう。

【「背に腹はかえられない」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方

「背に腹はかえられない」は「せに・はらは・かえられない」と読みます。

「背“を”腹にかえられない」と記憶している人もいるようですが、こちらは誤用です。また、「かえられない」の漢字は「代えられない」でも「替えられない」でもOKです。「換えられない」「変えられない」は使われませんのでお間違えのないように。

■意味

「背に腹はかえられない」は、「差し迫った苦痛を回避するためには、ほかのことを犠牲にしてもしかたない」という意味の言葉です。「優先順位を決め、下位のものは犠牲にしてでも大切なものを守る」、あるいは「ある程度の犠牲を受け入れる覚悟を決める」という意味でも使われます。共通する意味としては「切羽詰まった状況のなかでも、もっとも大切なものは守り抜く」ことですが、その背景には「多少の犠牲は仕方がない……受け入れよう」という、やや諦めに近いニュアンスを含んでいます。たとえ不本意ではあっても、大切なものを守るためにはほかに選択肢がないからです。

■由来・語源は?

「犬も歩けば棒に当たる」で始まる「江戸いろはかるた」。これは、いろは48文字をそれぞれ頭字とすることわざを選び集めたかるたで、江戸時代後期に誕生したと言われています。この「江戸いろはかるたの」の「せ」の読み札になっているのが、「背に腹は代えられぬ」です。

人間の「腹」には、五臓六腑(ごぞうろっぷ)と呼ばれる、生命を維持するのに欠かせない内臓が収まっています。昔、武士が敵から斬り付けられたとき、「お腹を斬られるくらいなら、背中を斬られたほうがマシ」と、背中を丸め腹部を守ることで致命傷を免れることがあったとか。ここから「(五臓六腑が収まる)腹は、背と交換できない」の意が転じて、「切羽詰まった状況のなかで、もっとも大切なものは守るためには、多少の犠牲はやむを得ない」という意味となりました。


【ビジネスでの「使い方」がわかる「例文」3選】

いずれの例文も、大切なものを守るために何かを犠牲にする、あるいは我慢することを受け入れる状況を示しています。

■1:「倒産を免れるために背に腹はかえられない。苦渋の決断だが、リストラを決行するしかないだろう」

■2:「A社の契約を取るためには背に腹はかえられない。いくつか条件を譲歩することにしよう」

■3:「彼とは何かと意見が合わないし気に食わない態度も多いが、背に腹はかえられない。優秀なパートナーと割り切って、そこは目をつぶろう」


【「類語」「言い換え」表現】

「背に腹はかえられない」は、私たちが日常会話で使うにはやや古めかしい印象です。似たような意味の慣用句のほか、言い換え表現をご紹介しましょう。

■やむを得ない 

「やむを得ない」は「仕方ない」「どうしようもない」という意味になります。こちらは日常会話でも耳にする機会の多い言葉ですね。「不本意だが諦めるしかない」という意味では「背に腹はかえられない」と共通した意味をもちますが、「切羽詰まった状況の中で、もっとも大切なものは守り抜く」という意味はありません。

■背より腹 

「背(に)に腹はかえられない」と同じ意味の言葉です。

■時の用には鼻(を欠け)

「時の用には鼻を削(そ)げ」とも言います。いずれも「急を要する大事な場合には、鼻を切り落とすような手段でも取った方がよい。危険が迫っている際には手段を選ぶな」ということ。

■小(しょう)の虫を殺して大(だい)の虫を助ける

「小さなことは犠牲にして、大を守る。重要な物事を保護し完成するために、小さな物事を犠牲にする」という意味の言葉です。


【「背に腹はかえられない」の「反対語」は?】

「もっとも大事なことのためには、犠牲もやむを得ない」という意味と相反する故事成語をご紹介します。

■渇(かっ)しても盗泉(とうせん)の水を飲まず

「盗泉」は山東省にあった泉の名前で、「孔子はどんなにのどが渇いても、盗泉という名を嫌って、その水は飲まなかった」という『陸機─猛虎行』の故事から、「どんなに困っていても、不正には手を出さない」ことのたとえ。どれ程大事なことのためでも「不正を働く」という犠牲だけは払わないという意味です。

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「背に腹はかえられない」は、「自分にとってもっとも大切なものは何か」を再確認する言葉でもあります。ビジネスシーンでは、リスクを最小限に抑えるために、「今この時点で何にプライオリティを置くか」という決断を迫られることが少なくありません。「緊急度」と「重要度」。ふたつの要素を常に意識しながら仕事を進めることが大切ですね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) :