「パンドラの箱」とは、災難を引き起こす原因となるものをたとえたフレーズです。「パンドラの箱を開ける」と言ったら、「取り返しのつかないことをする」という意味。「パンドラの箱」は「浦島太郎の玉手箱」同様、開けてはいけないものなのです。でもなぜ「パンドラの箱」というのでしょう? 由来や使い方、言い換えなど、しっかり確認していきましょう。 

【目次】

あなたも「パンドラの箱」を持っていますか?
あなたも「パンドラの箱」を持っていますか?

「パンドラの箱」とは?「意味」「由来」など基礎知識】  

■意味

意味を簡単に言えば「あらゆる災いのもと」ということ。一般的には「触れてはいけないもの」「取り返しのつかないこと」という意味で使われます。

■由来

ギリシア神話にある逸話が由来の言葉です。

「パンドラの箱」のパンドラ(パンドーラー)は、全知全能の神であるゼウスが、プロメテウスという男神に罰を与える目的で粘土からつくられた人類最初の女性です。ゼウスは彼女に箱(神話では壷)を渡します。その中には、疫病や犯罪、怒りや悲しみ、不幸など、あらゆる災いが詰まっています。そして、プロメテウスの妻となったパンドラは、開けてはいけないと言われていたこの箱を開けてしまいます。すると中から災いが飛び出し、地上には不幸が蔓延…というお話です。

■裏メニュー的な意味

ところがこの「パンドラの箱」の話はここでおしまいではありません。「決して開けてはいけない」なんて言わわれたら開けたくなるものですよね。案の定、好奇心を抑えられなかったパンドラですが、災いが飛び出したことに驚いてすぐに蓋を閉めたので、箱の底には「希望」が残った…という続きがあるのです。


使い方がわかる「例文」5選】

■1:「それ、部長のパンドラの箱だから、開けないように気を付けて」

その話題には触れないほうがいいことを表しています。

■2:「パンドラの箱が開いちゃったみたいで、ものすごい剣幕だったよ」

ここでは「地雷を踏む」と同じ意味で使われています。

■3:「クライアントからパンドラの箱を渡されて、てんやわんやだ」

「厄介な仕事」や「無理難題」を意味します。

■4:「私はそれを彼のパンドラの箱とは知らず、思いっきり開けてしまったようで、彼を意気消沈させてしまった」

「相手の弱点」といった意味でも使われます。

■5:「ライバル社の売り上げが好調なだけに、役員会議でパンドラの箱を開けてしまわないよう気を付けよう」

この例文では「パンドラの箱を開ける」を「機嫌を損ねる」に置き換えることができますね。


【「パンドラの箱」の「類語」「言い換え」表現

■タブー

口に出したり、してはならないとされているもののこと。「タブーを犯す」は「パンドラの箱を開ける」と同義になります。

■禁忌(きんき)

忌み嫌って、慣習的に禁止したり避けたりすること。また、そのもののこと。「禁忌を破る」などと使います。

■地雷

本来は地中に埋めて上を通ると爆発する仕掛けの兵器のこと。俗に、そのことに触れると人を怒らせる事柄を指します。「地雷を踏む」はビジネスシーンでもよく使われますね。

■玉手箱

おとぎ話の『浦島太郎』で、太郎が龍宮城から戻る際に、乙姫から「決して開けてはいけません」と手渡されたのが玉手箱。ゼウスとパンドラの話に酷似していますが、太郎が玉手箱を開けると、中から白い煙が出て、太郎はたちまち老人になってしまいます。そのため、「玉手箱」は「期待いていたものがはいっていなくてがっかりすることのたとえ」としても使われます。

■禁句

相手の気分を害する可能性があるため、言ってはならない言葉のこと。「それは彼女のパンドラの箱だよ」を「それは彼女には禁句だよ」と言い換えることができます。


【「パンドラの箱」は「太宰治」に関係する?

最後にご紹介するのは、太宰治の小説『パンドラの匣(はこ)』です。

太宰治と言えば『人間失格』などの作品から、陰鬱なイメージをもっている人も多いのでは? 確かに作風は重め・暗めですね。しかし、この『パンドラの匣』は太宰文学には珍しく明るい青春小説で、太宰と交流があった少年が遺した日記をもとにしています。風変わりな結核療養所で過ごす二十歳の青年が、死におびえながらも病気と闘い明るく精一杯生きるさまを、友人と交わす書簡形式で綴った『パンドラの匣』。終戦直後の昭和20年10月から地方紙「河北新報」に連載された、太宰30代の作品です。この小説も「パンドラの箱」同様、厳しい状況のなかにも希望はあるということや、希望をもつことの大切さも語っているのです。

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「パンドラの箱を開けちゃった!」より「地雷を踏んじゃった!」のほうがなじみがあるかもしれませんが、「パンドラの箱」はビジネスシーンでも遭遇しそうな状況を表す言葉でした。「え? パンドラの箱?」とならないように…“大人の語彙力”を磨きましょう。

この記事の執筆者
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