苦しい状況をバネにして好転させることを「ピンチはチャンス」と言います。窮地に陥って沈んだ気持ちを奮い立たせる言葉として、ビジネスシーンやスポーツの世界でよく耳にしますね。今回はこの聞き慣れたフレーズについてサクッとおさらいしながら、ピンチをチャンスに変えるコツなどを見ていきます。

【目次】

「ピンチこそチャンス!」と言い換えてもいいですね。
「ピンチこそチャンス!」と言い換えてもいいですね。

「ピンチはチャンス」とは?…基礎知識】

■意味

「ピンチはチャンス」の意味は、「窮地はものごとを改める好機である」ということです。「ピンチ」は 追い詰められた苦しい状態や、苦境、窮地、危機のこと。「ピンチに陥る」「ピンチを救う」というように使いますね。一方の「チャンス」とは「機会」のことですが、特に何かを行うのによい機会を指します。「ピンチ」と「チャンス」は相反する言葉だからこそ、この格言はインパクトがあるのです。

■由来は東洋精密工業の社長を務めた大橋武夫さんの名言

「ピンチはチャンス」はいつごろ生まれた格言なのか調べてみると、元陸軍軍人の大橋武夫さんが残した名言であることがわかります。明治39(1906)年生まれの大橋さんは、陸軍重砲兵学校の教官や軍参謀などを務め、戦後は日本通運の運転手から東洋精密工業の社長まで登りつめた実業家でもあります。経営から一線を退いたあとは兵法経営塾を主催、著書も多く残しています。兵法(へいほう/ひょうほう)とは、戦の仕方や用兵や戦闘方法のことですが、大橋さんは中国古代に活躍した孫子の兵法を用い、原文そのままでは軍人以外の人には理解しにくい兵法を一般の人向けに解説。運転手から始めて時計会社の経営者として成功した彼が解く“ビジネスに兵法を活かす方法”には説得力があり、その著書などは現代においてもトップ経営者などにも人気です。


「ピンチはチャンス」の「使い方」3選

では、私たちがビジネスシーンで「ピンチはチャンス」をどう使うのか、例文を挙げてみましょう。

■1:「かなり状況は厳しいが、ピンチはチャンスと気持ちを切り替えて、もう一度方策を練り直そう」

■2:「ピンチはチャンスと言うだけでは何も生まれない。思考し、行動してこそ、ピンチがチャンスにつながるのだ」

■3:「部長の口癖の“ピンチはチャンス”ってフレーズ、連発されると効果ないよな…」


【似た意味をもつ「ことわざ」「類語」「言い換え」】

「ピンチはチャンス」はマイナスをプラスに、ネガティブをポジティブに転換させる力をもつ言葉。ビジネスにはこのような“ポジティブワード”や“マジックワード”が必要ですね。似たような言い回しや言葉も多いので、それぞれの意味もご紹介します。

■禍(わざわい)を転じて福と為(な)す

「禍(わざわい)」は「災い」のこと。災難に襲われても、それを逆手にとって幸せになるように取り計らうこと。

■逆転の発想

それまでとは反対の観点から考え出すこと。置かれた悪い状況や状態とは逆の見地から思いつきを得ること。

■七転び八起き

何度失敗しても屈することなく立ち上がること。人の世の浮き沈みの激しいことのたとえにも用います。「ピンチはチャンス」と思って「七転び八起き」の精神で…って、最強ですね!

■雨降って地固まる

雨が降ると地面が堅固になるところから、変事(もめごとや争いごと)のあとはむしろ事態が落ち着いて基礎が固まることを指します。「ピンチはチャンス」同様、ビジネスシーンでは気持ちを鼓舞する言葉として使われます。


【「ピンチをチャンス」に変えるコツ5つ】

仕事でもプライベートでも、窮地に陥れば慌てたり気落ちしたりするものです。けれどそこで止まってしまっては成長なし! 「ピンチ」を「チャンス」に変えて成果を上げるためのコツをご紹介します。

■状況を冷静に分析する

まずは現状を把握することが大切です。いいことも悪いことも見逃さないよう、冷静に分析することで、突破口が見えてくるかもしれません。

■ポジティブに捉える

まさに「ピンチはチャンス」の言葉通り、「この状況は成長するための通過点」と捉えることが大切です。

■視点を変えてみる

冷静な分析をもとに、当たり前を当たり前と思わず、無理を無理と思わず、視点を変えてみること。無駄と思われることにもチャレンジしてみるのも一案です。

■周囲の助けを借りる

関係外の人に助言や助けを求めるのも方策のひとつでしょう。

■腐らない、諦めない

「ピンチ」を「チャンス」に変えるためにいちばん大切なのは、「諦めない」ということかもしれません。仕事には期限がつきものですが、最後まで諦めないという姿勢は、たとえうまくいかなかったとしても何かしらの財産を残すでしょう。


【イチロー、羽生善治、松岡修造…ピンチをチャンスにした人が放った「名言」】

「ピンチ」を「チャンス」に変えて成功してきた人たちの名言には、リアリティがあって胸を打たれます。最後にそんな名言をご紹介します。

「壁というのは、できる人にしかやってこない。超えられる可能性がある人にしかやってこない。だから、壁があるときはチャンスだと思っている」(イチロー/元プロ野球選手)

「成果が出ないときこそ、不安がらずに、恐れずに、迷わずに一歩一歩進めるかどうかが、成長の分岐点であると考えています」(羽生善治/プロ棋士)

「人間の価値は、敗北に直面していかにふるまうかにかかっている」(アーネスト・ヘミングウェイ/作家)

「崖っぷちありがとう! 最高だ!」(松岡修造/タレント、元プロテニス選手)

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この夏も甲子園球場を大いに沸かせた高校野球。準決勝第2試合の慶應義塾vs土浦日大の熱戦直後、インターネット配信のバーチャル高校野球で解説を務めた髙嶋仁さん(智辯学園、智辯和歌山両校の硬式野球部名誉監督)が「ピンチを乗り越えてこそチャンスが訪れる」というような発言をしていました。タイムリーだったのでご紹介します。また、マイナスをプラスに転じる名言のひとつとして、徳川家康の「不自由を常と思えば不足なし」もご紹介しておきましょう。「不自由である状況が当たり前と思っていれば不満はない」という意味ですが、「ピンチはチャンス」同様、心に留めておいてくださいね。

この記事の執筆者
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参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/ 『今日から役に立つ! 使える「語彙力」2726』(西東社)/『新明解四字熟語辞典』(三省堂) :