気が付くと好きな人のことばかりが頭に浮かんで、目の前のことに集中できない…誰でも一度くらいは経験があるのでは? 心が何かほかのことに囚われた状態のことを「心ここにあらず」といいます。今回はこの言葉の由来や使い方、言い換え表現について解説します。
【目次】
【「心ここにあらず」を正しく理解するための「基礎知識」】
■意味
「心ここにあらず」とは、「心がほかのことに囚われて、目の前のことに心を集中できない」状態を表す故事成語です。講義中にぼんやりしている学生に対して、あるいは話しかけても生返事しか返してこない恋人に対して、話者が「あなた、まるで“心ここにあらず”ね」と、呆(あき)れや嫌味のニュアンスを込めて使ったりしますね。
■誰の言葉?「由来」は?
「心ここにあらず」の出典は、前漢時代の中国で書かれた経書『礼記(らいき)』の一遍であった思想書「大学」です。実は、「心ここにあらず」はこれで終わりではありません。書には「心焉(ここ)に在らざれば、視(み)れども見えず(心がほかのことに囚われていると、たとえ目がそちらに向いていても、きちんと見てはいない)」のあとに、「聴けども聞こえず、食らえども其(その)味を知らず(耳を傾けていても聞いてはいないし、食べていてもその味はわからない)」と書いてあります。今は、「ぼんやりしている」といった意味で使われていますが、本来、「心ここにあらず」は、「心身を鍛えるには、精神の集中が大切だ」ということなのです。
【「使い方」がわかる「例文」3選】
■1:「会議中、彼は心ここにあらずといった様子で、まったく集中できていないのが、誰の目にも明らかだった」
■2:「彼の浮気を疑い始めたのは、私が話しかけても心ここにあらずといった受け答えが増えたことがきっかけだった」
■3:「職場に対する強いストレスにより、心ここにあらずな仕事ぶりとなってしまった。自然、ミスも増え、ますます会社に行きたくない気持ちが強まる悪循環に陥っている…」
【同じ意味の「四字熟語」は?「類語」「言い換え」表現】
「心ここにあらず」の類語、言い換え表現をご紹介しましょう。まずは「四字熟語」から。
■注意散漫
「散漫」とは「集中力に欠ける様子」を指します。つまり、「注意散漫」とはある対象に対して意識を集中しようとする努力が足りない様子です。
■上の空
「心がある事に奪われて落ち着かないこと」を「上の空」といいます。
■身が入らない
「毎日こう暑くては、仕事にも身が入らない」のように使われる「身が入らない」。「気持ちがたるんで集中できない」という意味の言葉です。
■ぼんやりしている
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「心ここにあらず」な状態が長く続くと、仕事でケアレスミスを連発したり、周囲を不愉快な気持ちにさせてしまったりと、自らトラブルの火種を撒くことになりかねません。原因がわかっているときはまだ対処のしようがあるのですが、原因不明ならば体調不良を疑ってみて。もしかしたら自分では気づかないうちに、過剰なストレスを抱え込んでいるのかもしれません。充分な睡眠や気分転換を心掛けましょう。
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- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『故事成語を知る辞典』(小学館) :