いまや毎年恒例にもなっている東京を舞台とした音楽祭が、春から続々とスタートする。オリンピック・イヤーを2年後に控えて、それぞれの音楽祭の内容も、より祝祭的な昂揚感を増した魅力的なものにヴァージョン・アップしている。
上野の森で、桜とともに楽しむオペラ
3月15日から4月15日まで一ヶ月間、上野エリアで充実の内容のさまざまな音楽を楽しませてくれるのは、14年目を迎える『東京・春・音楽祭』。実行委員長である鈴木幸一氏が「上野の街を元気にしたい」と地元の有力者たちをスポンサーに立ち上げたという「民」の力で成り立つ音楽祭だが、当初のタイトルは「東京のオペラの森」であり、今でもオペラや声楽のプログラムの充実度が非常に高い。
ハイライトは4月5日、4月8日に東京文化会館大ホールで行われるワーグナーのオペラ『ローエングリン』だ。旬のスター・テノール、クラウス・フロリアン・フォークトを主役に、バイロイトでも活躍する名歌手たちが脇を固める。ロッシーニ没後150年に寄せて上演される『スターバト・マーテル』も注目公演。
話題の女性指揮者スペランツァ・スカプッチを招いて、華やかなクロージングとなる。会期中は上野の美術館、博物館、図書館のほか今年は「東京キネマ倶楽部」も会場となり、国内外の一流アーティストが連日コンサートを行う。桜の季節の音楽祭なだけに、来日アーティストも皆大喜びだ。
GWの有楽町を、クラシック音楽がジャックする
桜の季節が終わると、今度は世界的でスケールの大きな、少しばかり「変わり者」の音楽祭がやってくる。東京のゴールデンウィークの恒例イベントとなった『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン』は今年から『ラ・フォル・ジュルネTOKYO』と呼称を変え、今までの有楽町エリアにプラスして池袋エリアとの同時開催となる。テーマは「新しい世界へ」。
激動の時代に祖国からの亡命を余儀なくされた作曲家や、外国に新しい可能性を求めて飛び立った作曲家たちの作品が演奏される。ショパン、ラフマニノフ、プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、コルンゴルトのほか、バロックやロマン派時代の冒険者たちの作品、それ以外にもこの機会にしか聴けないロマ音楽や中世の放浪の歌、ジャズと映画のコラボレーション、さらにはトランスミュージック的な民族音楽などなど、音楽的なバラエティは実に豊かだ。
「ラ・フォル・ジュルネ」のアーティスティック・ディレクターであるルネ・マルタンの冒険心と、大御所からマイナーまで同じ音楽祭で楽しめる限界のなさが素晴らしい。会期中、街には真っ赤な「ラ・フォル・ジュルネ・バス」が走り、オリジナルレシピのフレンチ流ハンバーガーも販売される。テーマは深遠だが、音楽祭そのものは倍の大きさになったことでクレイジーな盛り上がりを見せそうだ。チケットは早くも争奪戦らしい。クラシック・ファンから初心者まで楽しめるお祭りだ。
名器を巡って、コンサートと展覧会を組み合わせたフェスティヴァル
7月からは、永遠の名器ストラディヴァリウスにちなんだイベントが開催される。メインコンサートは7月で、俊英ヴァイオリニストの三浦文彰、チェリスト宮田大が英国王立音楽院と東京藝術大学選抜オーケストラとの共演でストラディヴァリウスの響きをふんだんに楽しませてくれる(サントリーホール)。
8〜9月にかけてはサテライト・イベントとしてより身近なシチュエーションでのコンサートが行われ、10月にはストラディヴァリウスの魅力をさまざまな次元から紐解くエキシビションが開催される(森アーツセンターギャラリー)。300年以上弾き継がれる名器の神秘を間近に感じられる機会といえそうだ。
東京・春・音楽祭 http://www.tokyo-harusai.com/
ラ・フォル・ジュルネ 東京 2018 https://www.lfj.jp/lfj_2018/
東京ストラディヴァリウスフェスティヴァル2018 http://tsf2018.com/
- TEXT :
- 小田島久恵 音楽ライター
公式サイト:小田島久恵のクラシック鑑賞日記