「建前」とは「表向きの基本的原則や方針」を指す言葉で、しばしば「本音」とセットで使われます。ビジネスや人間関係を円滑に進めるために、私たちは無意識に「建前」を使っているものです。今回は「建前」の意味や由来、「嘘との違い」、「本音と建て前の使い分け」について解説します。

【目次】

誰にでも「表向きの顔」はあるものです。
誰にでも「表向きの顔」はあるものです。

【「建前」の「読み方」「意味」】

■読み方

「建前」は「たてまえ」と読みます。

■意味

「建前」は、「考えたり行動したりするうえで、本来的な、表向きに取っている基本的原則や方針」のことです。「その内実は〜である」という事実や「本音」を意識して使われることが多い言葉です。

■由来

元々「建前」は、「家屋の建築で、柱、棟(むね)、梁(はり)などの主な骨組を組み立てること」や「上棟式」といった意味のほか、「立前」とも表記される「振り売りや大道商人が商品を売るときの口上。売り声」という意味ももっています。これが「本音と建前」のように使われる「建前」の由来で、直接的には今で言う実演販売の際の口上を指しています。実績に優れた販売人ほど、商品をきれいな言葉で飾り、その良さを少々誇張ぎみに説明するもの。反対に商品のデメリットには触れません。ここから「建前」が「表向きの言葉」という意味になりました。


【「本音」との使い分け】

「日本は本音と建前の文化」だといわれます。「建前」の対義語にあたるのが「本音」です。集団としての「和」を重んじ、「空気を読む」ことが要求されがちな日本では、周囲とうまくやっていくためには「建前」が非常に大事とされています。特に、多様性やジェンダーの平等が重要視される現代においては、他人に忖度せず「本音」でぶつかり合うことが、チームの結束を乱し、相手を傷つけてしまうこともあります。

■「本音」とは

「本音」とは「本心から言う嘘偽りのない言葉」という意味。ですが、多くは「口に出して言うことがはばかられる本心」を指します。「口に出すことがはばかられる」からこそ、「建前」が必要となるのですね。

■「本音」と「建前」の使い分け

「本音」は、口にすればその場の雰囲気を悪くしたり、誰かを傷つけてしまう、ネガティブな感情が含まれてるものを指します。たとえそれが心からの思い――つまり本音であっても、「すてき」「きれい」「かっこいい」「素晴らしい」といった肯定的でポジティブな感情を伴うときには使われないのが通常です。そして、組織の利益が優先されるビジネスシーンでは、組織の意向(=建前)が個人の趣味嗜好や意見(=本音)より優先されるのは、ある意味当然のこと。言い換えれば日本社会において、円滑なコミュニケーションを図ったり、仕事の成功を手にするためには、「建前」をうまく使いこなすスキルが必須であると言えるでしょう。もちろん、プライベートなシーンで、孤立を恐れず「本音」だけで生きていくという選択は「あり」ですが…相当な覚悟が必要かもしれませんね。


【「建前」と「嘘」は何が違う?】

ビジネスシーンにおいて「本音」と「建前」を使い分けるのはある意味、暗黙の了解です。「建前」と「嘘」は違います。たとえば、就職活動の面接では、学生は基本的にどの会社に対しても「御社が第一希望です」と応えます。企業側も、ある程度はそれが「建前」とわかったうえで受け止め、そのなかから優秀な学生に内定を出します。入社後も、たとえば契約交渉でありえない条件を申し出た取引先に対し、その場で「そんな条件には応じられません」と拒否することはせず、「社内で検討させていただきます」「上司に相談します」などの応えで、相手の申し出を一旦は受け取ります。これらの対応は「嘘」をついているわけではなく、相手の気持ちを汲み、不快感を与えないよう配慮する、日本文化独特の「建前」なのです。一方で、「嘘」は「事実でないこと。また、人を騙すために言う、事実とは違う言葉」です。「建前」と「嘘」の大きな違いは、「建前」には、人を欺き、陥れる意思がないことです。


【使い方がわかる「例文」6選】

■1:「日本は本音と建て前を使い分ける文化だと言われている。外資系企業とのビジネスではこの文化の違いが壁になることもある」

■2:「契約交渉を成功に導くためには、建前を言う相手から、どれだけ本音を引き出すかが重要になる」

■3:「ビジネスシーンでは、相手の建前の裏にある本音を見極めるスキルを磨かねばならない」

■5:「建前は相手の気持ちを傷つけないための配慮という側面をもつ。つまり、相手への敬意や気遣いの表れと言っていいだろう」

■6:「○○さんの言うことはいつも建前ばかりで、今ひとつ信用できない」


【「類語」「言い換え」表現は?】

「建前」の類語や言い換え表現をいくつかご紹介しましょう。

■類語

・名目:表向きの理由。口実。

・外面:他人との応対などに見せる顔つきや態度。

■言い換え表現

・表向きの顔

・よそ行きの顔

・表向きの理屈

・世間的な理由


【「英語」で言うと?】

「建前」はとても日本的な言葉ですが、「表向きの顔」と捉えると[public stance]と言い換えることが可能です。[public]は「公的な」、[stance]はカタカナ語で「スタンス」とも使われ、「姿勢」を意味します。

・His public stance and personal opinion is different(彼の建前と個人的な意見は別だ)

また、「建前」は英語をはじめとした諸言語でしばしば、「本音」とともに[Honne and Tatemae]と表現されます。日本独特の文化、ということを痛感するエピソードですね。

***

「本音」と「建前」をうまく使い分けるのは、人間関係を円滑に進め、トラブルを回避するために有効なスキルです。とはいえ「建前」だけの付き合いでは相手との距離は縮まらず、信用を得ることもできません。特に緊急時には、「建前」を並べて対応が遅れると、取り返しのつかない事態に発展してしまう可能性も。さらに、「仕事の効率化」を目指せば目指すほど、「建前」がまかり通る状況には矛盾やを感じてしまいそうです。とはいえ「本音で生きよう」と決心するには勇気が必要。悩ましいですね!

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) :