岡山天音さん
(おかやま・あまね)1994年、東京都生まれ。2009年に俳優デビュー後、映画、テレビドラマで活躍。2017年『ポエトリーエンジェル』で高崎映画祭最優秀新進男優賞、2018年『愛の病』でASIAN FILM FESTIVAL最優秀男優賞を受賞。『キングダム2 遥かなる大地へ』『キングダム 運命の炎』『沈黙のパレード』など話題作に出演。2024年は最新映画『ある閉ざされた雪の山荘で』が公開予定。

「子どもの頃から僕を一個人として認めてくれていたのが母でした」岡山天音さん

――作品には、ツチヤと母の濃厚な親子関係も描かれています。自分の息子がお笑いにのめり込むゆえに、仕事もクビになる…母の焦りや心配が手に取るようにわかります。ただ、この母は胆力がある。それは岡山さん自身の母と重なる部分も多いそうですね。

「小さい頃は周囲になじめず、保育園もよく休んでいたんです。それは、今思うと、他人とコミュニケーションをする中で、ショックを受けることが多かったからなんじゃないかな。周囲の人からすれば『なんでこんなことで?』と思うことが気になってしまい、会話の最中に身動きが取れなくなってしまうこともあったんです。これは大人になった今でもときどきあります。

そんな僕のことを、母はじっと見守ってくれました。子どもの頃から僕を一個人として認めてくれていたのが母でした。僕の話に耳を傾けてくれ、僕の底なしの好奇心にどこまでも付き合ってくれたんです。
記憶にないくらい幼く、よちよち歩きの頃、僕は道端にある花や風景などが気になってしまい、そのたびに立ち止まり、なかなか目的地に着かなかったそうです。でも母は、僕の心の赴くまま、見守ってくれたそう。

俳優の岡山天音さん
母は、僕の心の赴くまま、見守ってくれた(岡山さん)

小学校に進学し、環境になじめなかったときも、『学校も行きたくなかったら、行かなくていい』と言ってくれました。これがどれほどの救いになったか。それと同時に、最後は親として子どもを守ると覚悟を持っていてもくれました。
そんな母だったから、生きることが難しいと思いながらも、命を繋いで来れた、と思います。もっと親に強制されていたら…今の自分がいるか分からないです。

自分が大人になってから考えてみると、自分の子供がコントロール下にいない状況は恐怖でもあると思うんです。指図をしないことの難しさもわかりますし、その姿勢で息子に対峙していてくれたのは、本当にありがたかったです。ただ、大きな対立をした記憶はないだけで、日常的にケンカはしていましたよ。母もパワフルですし、僕も譲りませんしね。
ただ、間違いなく言えるのは、今の自分がいるのは母のおかげ。僕もツチヤと同じく母子家庭の一人っ子なので、ツチヤの母と、僕と母との関係性は近いと思います」

「一人の人の力、そしてチームの力を感じることもできる作品」岡山天音さん

――実生活と近い人間関係として、ツチヤの才能を見出す人気芸人・西寺を演じた俳優・仲野太賀さんもそうだと聞きました。

「太賀君は、10代の頃から背中を見続けた先輩でもあります。常に前を走っていて、仕事で壁にぶつかった時、相談に乗ってもらったこともありました。太賀くんの才能へのリスペクトや思い、熱が画面から大いに漏れ出ていると思います」

俳優の岡山天音さん
太賀くんの才能へのリスペクトや思い、熱が画面から大いに漏れ出ていると思います(岡山さん)

――笑いにのめり込むツチヤ、それを唯一理解する西寺…二人の関係は、この作品のひとつの救いになっているとも感じました。岡山さんご自身は、笑いに救われたことがあるのでしょうか。

「芝居の世界と近いところにある気がしますが、笑いは特別な何かがあると感じています。僕が笑いの力を感じたのは、仕事を始めたばかりのころ、あらゆるオーディションに落ちまくって、コテンパンにされていて、泥のように疲れて家に帰って来た日のこと。その日は、部屋も真っ暗で、電気をつける気力もなかった。でもなんとなく、テレビだけはつけたんです。そしたらいつの間にかお笑い番組になっていて。

感情が起こらないくらい心は疲れ切り、打ちのめされた状態になっているのに、その番組を観ながら、笑っちゃったんですよね。テレビで繰り広げられているやり取りをボーッと見ているだけなのに。あんなに疲れていたのに、笑う気力が湧いてきたんです。このとき、お笑いってすごいなと、心の底から感じました」

「ただ、『笑いのカイブツ』撮影中は、お笑いどころではありませんでした。ひたすら役に没入していたので、撮影が終わるとジムに行って、J-POPを聞きながらひたすら走って自分の中の空気の入れ替えをしていました。この映画は、ツチヤの一代記で、彼が壁に当たり続ける日々を描いています。ツチヤを通じて、人と対面し、つながって一緒に何かを作っていく難しさと奇跡を感じ続ける日々でしたね。ただ、現場はスタッフ、キャスト、監督…すべての巡り合わせが合致し、皆の力が重なる瞬間が多々ありました。だから、どんなに難しいことがあっても、まっすぐに突き進むことができた。一人の人の力、そしてチームの力を感じることもできる作品だと思います」

俳優の岡山天音さん
一緒に何かを作っていく難しさと奇跡を感じ続ける日々でした(岡山さん)

岡山さんは、絵、ダンス、楽器ほか、多くの表現スイッチを持つ俳優であり、根っからの表現者。そんな彼が最ものめり込む芝居において、持てる力の全てを出し切ったという『笑いのカイブツ』。そこにあるひりつくような思いと強大なパワーを浴びれば、これまで感じたこともなかったインスピレーションが得られるはずです。


■映画『笑いのカイブツ』1月5日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー!

(C)2023「笑いのカイブツ」製作委員会
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岡山天音 
片岡礼子 松本穂香
前原滉 板橋駿谷 淡梨 前田旺志郎 管勇毅 
松角洋平
菅田将暉 仲野太賀

監督:滝本憲吾
原作:ツチヤタカユキ『笑いのカイブツ』(文春文庫)
脚本:滝本憲吾、足立紳、山口智之、成宏基
企画・制作・プロデュース:アニモプロデュース
配給:ショウゲート、アニモプロデュース 宣伝協力:SUNDAE

大阪に住む主人公・ツチヤは15歳から6年もの間、ラジオの大喜利番組に投稿を続ける。笑いに人生を捧げ続け、念願かなってお笑い劇場の作家見習いになる。しかし、人間関係がうまくいかずドロップアウト。その後、あるラジオ番組への投稿が注目を集めツチヤは“伝説のハガキ職人”となる。そして、お笑いコンビ・ベーコンズの西寺から「東京に来て一緒にお笑いやろう」と声をかけられ上京するが、“大人の社会”はツチヤを飲み込んでいく……。

公式サイト公式X(元Twitter)公式Instagram

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PHOTO :
中田陽子(MAETTICO)
STYLIST :
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WRITING :
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