身体に障がいをもつ少年“フクスケ”を中心に、さまざまな境遇の登場人物たちが、悪意と情愛に突き動かされて、生き抜く姿を描いた舞台『ふくすけ』。今年4度目となる上演では、物語の軸が、阿部さん演じる病院の警備員・コオロギと、盲目の妻・サカエになって展開していきます。風俗、新興宗教、政治……33年前の作品でありながら、今観てもなお、激しく心に訴える、さまざまなテーマが凝縮されています。
「歌舞伎町の物語を、実際に歌舞伎町で観られるのは面白いなって」(阿部さん)
――――今回『ふくすけ』が、12年ぶり、4度目の上演ということですが、阿部さん自身は12年前と今とで、作品に対して、何か意識は変わりましたか?
「これはいろんな人たちの復讐のお芝居なんだなというのを感じていますね。コオロギやサカエ、そのほか登場する人々の、すごくたくさんの心情が混ざっていたんだというのを改めて読み直すと気づきます。フクスケ役をやっていたころは長台詞でいっぱいいっぱい、みたいな感じだったし、自分がどういうふうに思われるのかなとか、そういうことを考えながらフクスケを中心に台本を読んでいたけれど、今のほうが余裕が出てきたのかもしれません」
――――より物語に対して、視野が広がった感じでしょうか。
「そう、さらに昨今の“コンプライアンス”を考えると、たとえば障がいをもつ人を取り上げる芝居を今やっていいのか、みたいなところはありますよね。今のテレビでは放送できない言葉もいっぱいあるし。」
――――そういう時代性というか、先日出演されたドラマ『不適切にもほどがある!』も同じかと思うのですが、当時と今のコンプライアンスの違いは、感じていますか?
「そういう使っちゃいけない“言葉”的なことはあるかもしれないけれど、実際に世の中で起きている事件は昔も今も変わらないというか。そういう意味では、作品自体は全然古くなっていない印象です。コオロギという人は、その場その場で思いついたことをどんどんやってそれがいい方に転がっていったりする、詐欺師のような人物。最近は現実でも詐欺師の話がいっぱいありますけど、時代が逆に作品に近づいていて、芝居の中で起こることが実際にあっても不思議じゃなくなっている。今回、初めて作品を観る人はこの物語が普通に思えちゃうのかなという怖さもあります」
――――2024年に上演する意味というのは、感じられますよね。
「歌舞伎町の劇場で行うのも、けっこう意味があるというか。そこがいいなっていうのは松尾さんも思ったんじゃないかな。芝居のサブタイトルが『歌舞伎町黙示録』とあるとおり、物語には歌舞伎町の風俗の話も盛り込まれているんです。歌舞伎町で歌舞伎町の話が観られるのって、いいじゃないですか。しかも内容がものすごく濃い」
――――観終わって、劇場から出た後も、そのまま物語が続きそうです。衝撃を受ける人も、いっぱいいると思いますよ。
「こういう刺激的な内容を、舞台でやっているんだという想いで観る人も多いでしょうね。だけどそういう作品に、黒木華さんや岸井ゆきのさんが出ているっていうのも面白い。演劇って面白いなって思っていただけるといいなと思います」
続きは、阿部サダヲさんインタビューVol.03で!最終回は、キャリアを重ねた今、主役としての意識のもち方、心身の保ち方について伺いました。
■Information■ COCOON PRDUCTION 2024『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』
公演日程/
【東京公演】2024年7月9日(火)〜8月4日(日) 会場/THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
【京都公演】2024年8月9日(金)〜15日(木) 会場/ロームシアター京都メインホール
【福岡公演】2024年8月23日(金)〜26日(月) 会場/キャナルシティ劇場
作・演出/松尾スズキ
出演/阿部サダヲ、黒木 華、荒川良々、岸井ゆきの、皆川猿時、松本穂香、伊勢志摩、猫背 椿、宍戸美和公、内田 慈、町田水城、河井克夫、 菅原永二、オクイシュージ、松尾スズキ、秋山菜津子ほか
公式サイト
企画・製作/Bunkamura
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 松木康平
- STYLIST :
- チヨ
- HAIR MAKE :
- 中山知美
- WRITING :
- 湯口かおり
- EDIT :
- 福本絵里香