舞台『逃奔政走』は、ふとしたことから浮かび上がったスキャンダルにより、大ピンチに陥った女性県知事をめぐるポリティカル・コメディ。今回、主役である女性県知事・小川すみれ役を演じる鈴木保奈美さんに、舞台の魅力についてお話ししていただきました。
「コメディならではの演出方法は、すごく貴重な体験でした」
―――ここ数年、保奈美さんは毎年舞台に出演されていらっしゃいますね。何か特別な思いがあるのでしょうか。
「いえ、たまたまで。結果的にそうなっているだけなんです」
―――保奈美さんは、映像作品の印象が強いので、舞台に関しては、また違うこだわりがあるのかと思っていました。
「私は映像でデビューしたからか、これまで舞台のお仕事の機会があまりありませんでした。依頼を断っていたわけでは、全くないのですが。若いころも人気の舞台をいくつか観ていたけれど、当時はその真髄を理解し切れていなかったこともあるかもしれません。
でもここ5年10年ぐらいの間に、面白いなと思う作品に出会ったり、自分の映像の現場で、舞台で活躍されている俳優さんとご一緒する機会も多かったりして、いろいろとお話を伺うようになりました。そういう方と仲良くさせていただくことで、出演されている作品を観に行くなど、舞台に触れる機会が増えるにつれ、面白そうだな、やってみたいなっていう思いが高まってきたんです。
でも私たちの仕事は“いただく”ものなので、出たいですといっても、出られるものではありません。だから最初は、どうしたらいいかもわからなくて。ただ、『やってみたいんですけど』っていうと、『えっ、やるんですか?』という反応が多かったのは意外でした。これまでやらないとは、一度もいったことはないのですが」
――(笑)
「私って周囲からこう見られているんだなと、ちょっと驚いたんです。だったら『興味があって、やってみたいんですけど』ということは、きちんと声に出していかないと。このまま舞台に出るつもりはないだろうと思われるのは、つまらないなって。だから、たとえばドラマの監督さんでも、舞台が好きで観ていらっしゃる方はいっぱいいるので、お仕事の折に『どういうのが好きなんですか?』って教えてもらうとか、『私もやってみたいんですけど、何を観たらいいでしょうか』なんていう会話を、いろんなところで少しずつするようにしたんです。そうしたら、数年前からお声がかかるようになりました。
一年に一作品と決めているわけではないのですが、本当にありがたいことに、二年続けて大きなお話をいただいたので、もうこれは やらない理由はないだろうと、ありがたくお引き受けしているという状況です」
――保奈美さんのようなキャリアの持ち主でも、ときにそういった行動が必要なんですね。ところで実際に舞台に立たれてみて、映像といちばん違う点はなんですか?
「お芝居自体は、私自身はあまり変わらないと思うんですけれど、やっぱりフィジカルの違いはありますね。カメラが近くまで寄ることがないから、お客様に見える範囲で演技しなければいけないとか。あと舞台は、公演期間の間中、ああでもないこうでもないと、みんなでトライ&エラーができる面白さというのもあります。でも映像は映像で、1回撮ってしまったら終わりという儚さが、それはそれでとてもよいと思っていて、好きなんですけれども」
――今回の作品がコメディということも、意外でした。
「コメディ自体も、珍しいですねとか、初ですねっていわれるのですが、自分ではそういうつもりはなくて。たとえばシリアスなドラマでも、ワンシーンでもワンカットでも、ちょっとくすっとできる場面を入れられないかということは、スタッフも含めて常に意識しているんです。実際にカメラの前でやってみて、ウケたりすると、すごくうれしいですね。そういうトライは普段からしているので、自分ではあまりコメディを演じることが珍しいという認識はないんです。
ただ、今回の脚本・演出をされるアガリスクエンターテイメントの冨坂友(とみさかゆう)さんが描くコメディの世界は、セリフをクリアにきちっと立たせなければいけないとか、複数の役者で畳みかけるようにもっていく場面が多いとか、技術的な挑戦があるので、そこは大変だなと思ってます」
――冨坂 友さんの舞台を、保奈美さんはずっとお好きだったことから、今回の作品が実現したとお聞きしましたが、どんな方でしょうか?
「お人柄はね、よくわからないんですよ(笑)。基本的にはすごく穏やかで知的で、恐ろしく頭がいいのだろうなって思うんですけれど、あまり感情を露わにしないというか、向こうのほうで、ひとりでニヤッと笑っているようなイメージがあります。私の知る限りは“非常に穏やかな頭のいい青年”という感じです」
――演劇界では数々の賞を受賞されている、注目のコメディ作家として話題の方ですね。
「今までの経験上、あまり脚本家さんと親しくなりすぎないほうが面白いなと、私は思っているんです。“台本を通じての勝負”というとちょっと大げさですけど、『あ、こういうセリフできたな、じゃあこうやってみようかな』というふうに、台本を通じて、間接的にやり取りしているような感覚があるので、直接お会いしてお話しすると、その面白さがなくなっちゃうような気がして。
これまでは割とそういう捉え方をしてきていたんですが、今回は演出もされますし、約1か月の稽古の間で、どの程度突っ込んだやり取りができるかというのは、始まってみないとわからないところでもありますね。人柄も、もう少し分かってくるかもしれません」
――冨坂さんとは、この作品の前日譚だったテレビドラマ『生ドラ! 東京は24時-Starting Over-』でもご一緒されていますが、演出は細やかにされる方ですか?
「冨坂さんの脚本はペースが大事なんです。だからドラマのときも『考えないで勢いでいってください』とは、けっこういわれました。あとは『このセリフの頭のここをつかみたいから、ここを大事にしてほしい』とかも。感情よりも体をどう動かすかというところでできあがってくる、冨坂さんの理想的な見え方があるのだと思うんですが、面白いことに、体を動かすほうから演技に入っていくと、逆に感情的なことがわかりやすかったりもするんです。『こうやって走っていっちゃうってことは、こういう気持ちなんだな』って、後づけで理解できる。非常に的確で、わかりやすい演出だと思います。きっとシチュエーションコメディだからこその、演出の仕方があるんですね。」
この続きは、鈴木保奈美さんインタビューVol.02で! 今回の舞台が実現されるまでの、意外な経緯を教えていただきました。
■舞台『逃奔政走-嘘つきは政治家のはじまり?-』7月5日開幕!
公演日程/
【東京公演】2024年7月5日(金)~16日(火) 会場/三越劇場
【京都公演】2024年7月20日(土)・21日(日) 会場/京都劇場
脚本・演出/冨坂 友
出演/鈴木保奈美、寺西拓人、相島一之、佐藤B作ほか
公式サイト/公式 X
制作/アガリスクエンターテイメント
主催/フジテレビジョン
問い合わせ先
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 黒沼 諭(aosora)
- STYLIST :
- 犬走比佐乃
- HAIR MAKE :
- 福沢京子
- WRITING :
- 湯口かおり
- EDIT :
- 福本絵里香