たいへんご無沙汰しております(笑)。

 試写は、観ていることは観てるんですよ、ちょくちょく。でも、書こうと思ったらさ、既に公開されていたりするんだな。そうこうしているうちに、新作がつぎからつぎへと……。

 なにしろ日本では、年間600本以上公開されているんです。いや、実際はもっとなんじゃないかなあ。われわれ紹介する側も骨だが、観るひともどれを選ぶか迷いますよね。予告編というのは専門の製作者がいて、本編よりもオモシロク見せたりするからタチが悪い(まあ、ぼくが担当してもそうすると思うが)。映画が始まって、10分、20分いっこうにオモシロクならない。どうしたんだ。こりゃいかん。こういう経験ありますよね。でもね、全てがNGだという駄作は、そうそう日本に入ってきませんよ。

 池波正太郎も書いてましたが、なにかしらいいところが必ずあるんです。

 音楽でも、カメラでも、タイトルの文字でも、ちょっとしたセリフでも、脱いだ女優の下着のデザインでもなんでもいい。なにかしらいいところを見つける眼というは、人生で役立ちます。悪いところは目立つでしょう? だから批判はカンタンにできる。それに対して、いいところはちょろって隠れていたりする。

 それを見つけ出す訓練が映画でできるからいいんです。

 プロの映画批評なんてその技術で成り立っているようなものだ(笑)。

 最悪寝ちゃってもいいじゃない。普段そうそう2時間近く居眠りなんてできないんだから。時間と場所を買ったと思えばヨロシイ。

ヒトラーから世界を救った男、ウインストン・チャーチル

3月30日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー©️2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
3月30日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー©️2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

 さあ、先を急ぎましょう。3月30日公開でぼくのオススメは2本。まず『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』でしょう。

 主演のゲイリー・オールドマンはアカデミー賞主演男優賞他受賞多数。彼の演技、同じくメイクアップ部門で受賞した辻一弘さんの恐るべきテクニックをみるだけでも価値あり!

 チャーチルのことはメンズプレシャス創刊以来ぼくは本誌に寄稿しているので、お読みくださった方もいらっしゃるでしょうが、「よく言うし、よくやる」の最上級のような政治家です。しかも、贅沢好きというところがぼくがこの男を気にいっている理由。

 第二次大戦から70年もたつと当時の政治家のことなんてあまり話題にもなりませんが、「いるべきときにそこにいた」この巨大かつオモシロイ男の物語、知っておいて損なし。物語もみっちり詰まっていて、2時間まったく飽きさせない。

キーワードは「言葉」ですな。

 前回は、リーアム・ニーソン主演の『シークレット・マン』をオススメした。3/30公開映画でゼヒとも観ていただきたい2本目は、メディアと政治・権力の関係をテーマにしたという意味で『シークレット・マン』と同じ『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』である。

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書  3月30日(金)全国ロードショー©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.
ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書  3月30日(金)全国ロードショー©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

 ぼくは今年のアカデミー賞作品賞は、『ペンタゴン・ペーパーズ』だと半ば確信していた。トランプ氏が大統領に就任以来、政権とメディアの関係はおもいっきり悪化したのはみなさんもご存じであると思う。こういう状況のなかで、〈メディアが政権を批判したり、腐敗を暴かなければだれが国民のためにそれをやるのか?〉 というメッセージを強く押し出したのが、スティーブン・スピルバーグ監督の本作がフェミニズムが大きな声になった昨年の英国アカデミー賞や、ゴールデングローブ賞の流れをくんで、アカデミー賞を政治化すると予測したからである。

 ぼくの予測は見事にはずれたが、メリル・ストリープ、トム・ハンクスがダブル主演するこの作品はそれでもとんでもなくオモシロイ、大人の男性向けの映画であることはまちがいなし!

『シークレット・マン』がウオーターゲート事件を扱ったのなら、『ペンタゴン・ペーパーズ』は、ベトナム戦争に関して国民にウソをついていた事実が明記された、国防省の秘密文書をめぐっての、ワシントンポストの発行人キャサリン・グラハム(ストリープ)と編集主幹ベン・ブラッドリー対ニクソン政権の物語。

 ベンはぼくも尊敬する、アメリカの新聞ジャーナリズムを代表する伊達男。ジャーナリストとしての使命と新聞社の経営陣との板挟みに苦悩する姿を、英国ターンブル&アッサー製のシャツを見事に着こなしたハンクスがさすがの好演。

 試写会を観てから、ひと月も経ってないが、すでにもう一度観たくなっているのがこの両作品のデキのよさ、と言えばお分かりいただけるだろうか。

この記事の執筆者
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任し、フリーの服飾評論家に。ダンディズムを地で行くセンスと、博覧強記ぶりは業界でも随一。