もう20年以上も前の話になるが、2度目にフィレンツェを旅したときのこと。
フィレンツェで最も紳士的なセレクトショップ「タイ ユア タイ」を訪れると、クローゼットに並んだクラシックな生地使いのスーツやジャケット、タイの鮮やかさにショックを受けたのを思い出す。当時人気の、グッチやプラダ、ドルチェ&ガッバーナなどのブランドは、デザイナーが主役となってファッションをクリエイトするのに対し、「タイ ユア タイ」にそろう古めかしいスタイルは、なんだか宝物を探し当てたような喜びがあった。シャツのラインナップも、白や淡いブルー、ストライプといった、ともすると退屈な雰囲気の生地ばかり。しかし、それが実に普遍的な力強さを秘めていたのだ。
フィレンツェ随一のローケション
サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂

フィレンツェ旅のお土産にも最適なサンタ・マリア・ノヴェッラ薬局

胸が高鳴りながらアイテムを眺めていると、何か鼻をくすぐる、独特な香りが漂っていることに気がついた。店主(フランコ・ミヌッチさん)に聞くと、「いい香りかい? これはサンタ・マリア・ノヴェッラのポプリだよ」と教えてくれ、この街を代表する匂いだと言う。

サンタ・マリア・ノヴェッラのポプリを手に入れて帰国すると、仕事部屋や車の中など、自分の占有領域となる空間にポプリを置いてみた。なんとも心休まる、いい香りが一瞬にして空間を満たした。香りを表現するのはなかなか難しい。けれど、知っている人には、すぐにサンタ・マリア・ノヴェッラのポプリだとわかる、植物の実や葉、花びらが熟成した甘さとスパイシーさが渾然一体となった豊かな香りだ。3世紀にわたって受け継がれてきた秘伝の調合による、伝統的な「フィレンツェの匂い」である。
ポプリを部屋に置いてから、仕事にも影響し始めた。締め切りに追われながら原稿を進めているときでも、心穏やかに前向きになれる。また、車にポプリを忍ばせていると、同乗者の反応が愉快だ。平静を装うも、すぐに香りに気がつくのがわかる。
「サンタ マリア ノヴェッラ」のポプリが日常生活に溶け込んでくると、日本とイタリアの人生観の違いが、しばしば頭をもたげる。
日本人の人生観のひとつは「仕事があるから生活ができる」と考える。つまり、生活よりも仕事が重要だと。一方、イタリアでは「生活があってこそ、仕事ができる」と思っている。生活が充実していることで、仕事に臨めるというのである。順序が逆になるだけだが、人生を謳歌する意味がまったく違う。想像してほしい。普段の生活のなかに、豊潤な香りが漂うことを……。
部屋の片隅に置くのにちょうどいい、サンタ マリア ノヴェッラの紋章が入ったセラミック製の新しいポプリケースが、つい先日(3月22日)に登場した。
ポプリ チョトラ エサゴナーレ

問い合わせ先
- サンタ・マリア・ノヴェッラ銀座 TEL:03-3572-2694
- TEXT :
- 矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
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