最近ではあまり聞かれなくなった「二百十日」という言葉。いつから数えて210日なのか、ご存知ですか? 「二百十日」は毎年9月1日頃となる「雑節」のひとつですが、近年ますます被害が拡大しつつある台風と関わりの深い言葉として、とても重要視されてきた季節用語です。今回のテーマは「二百十日」。その意味や由来、過ごし方のほか、夏目漱石の同名小説についても解説します。ビジネス雑談に役立つ豆知識として、ご活用ください!
【目次】
【「二百十日」とは?「読み方」と「意味」、「由来」】
■「読み方」
「二百十日」は「にひゃくとおか」と読みます。振り仮名は「とうか」ではなく「とおか」ですよ。
■「意味」
「二百十日」は、「彼岸(ひがん)」や「土用」などと同じく、季節を表す目印である「雑節(ざっせつ)」のひとつで、現在の暦では9月1日頃となります。この頃は稲の開花期にあたる重要な時期ですが、台風がよく来るので農家では厄日とされ、注意を促すため暦に記載されています。また、漁師にとっても生死に関わる重要な時期。ただし、実際の統計的には、「二百十日」は特に台風が来襲しやすい特異日ではありません。近年では気候の変動により、本土に影響する台風は二百十日以前のほうが多くなっています。
■「由来」
「二百十日」は、「立春」から数えて210日目であることが名前の由来となっています。同じように「立春」を基準とした雑節に「八十八夜(はちじゅうはちや)」があります。こちらは「立春」から数えて「八十八の夜」が過ぎた88日目の日のこと。毎年5月2日頃です。この頃から農家では種まきや茶摘み、養蚕などで忙しくなります。
【2024年の「二百十日」はいつ?】
「立春」をはじめとした二十四節気の日付は太陽の軌道を基準としています。そのため、固定されておらず、毎年、国立天文台暦計算室によって定められます。2024年の「立春」は2月4日で、「二百十日」は8月31日です。「八十八夜」は5月1日でした。
【「二百十日」の風習とは?「過ごし方」「食べ物」】
「二百十日」の頃は稲の開花期にあたりますが、台風がよく来るので農家や漁師の間では厄日とされてきました。現在のように台風の予測ができなかった時代です。人々はこの日を恐れて警戒し、風を鎮める「風祭(かざまつり)」を行い、豊作を祈ったのです。
■農家の三大厄日
「二百十日」は「三大厄日」といわれるもののひとつです。
「三大厄日」とは…
・「八朔(はっさく)」:8月朔日の略で旧暦の8月1日。現在の暦では8月25日〜9月23日頃。2024年は9月3日
・「二百十日」:毎年9月1日頃。2024年は8月31日
・「二百二十日(にひゃくはつか)」:「立春」から数えて220日目。毎年9月11日頃。2024年は9月10日
厄日とされる理由は、農家や漁業を営む人たちの天敵である暴風雨、台風が多く襲撃する頃だからです。
■「風祭」や「風鎮祭」が行われる
風を鎮める祭りとして有名なのが、富山県の「越中八尾 おわら風の盆」。期間は毎年9月1日から3日。町じゅうのぼんぼりに淡い灯がともり、揃いの法被や浴衣姿に編笠をつけた踊り手が、三味線、胡弓の地方(じかた)に合わせて踊り、町じゅうを流し歩きます。豊作を祈ると供に、風の災害が起こらないことを願う行事として「風の盆」という呼び名が付けられたとわれています。
■9月1日は「防災の日」
1923(大正12)年の9月1日午前11時58分、関東地方をマグニチュード7.9の大地震が襲い、死者・行方不明者14万人という大災害となりました。この日を忘れることなく災害に備えようと、1960(昭和35)年に制定されたのが「防災の日」です。
■「残暑見舞い」を送る季節です
「暑中見舞い」や「残暑見舞い」の習慣は、二十四節気を基準としています。二十四節気で「小暑」と「大暑」にあたる期間(7月7日〜8月6日頃)の暑い盛りに出すのが、暑中見舞い。「大暑」を過ぎ、「立秋」(2024年は8月7日)を迎えてから出すのは残暑見舞いで、「白露(9月7日頃)」の前日までに届くようにするのがマナーです。つまり、9月1日頃である「二百十日」は、「残暑見舞い」を送る時期にあたります。
■「二百十日」に旬を迎える食べもの
この頃、旬を迎える野菜や果物は、さつまいもや無花果(いちじく)、ぶどうなど。食物繊維が豊富なさつまいもは、便秘解消にも効果的。無花果は生ハムとの相性抜群。ジャムやドライフルーツにしてもいいですね。そして、この頃に出回り始める魚といえば、秋の味覚を代表する「秋刀魚(さんま)」です。残暑の厳しい季節とはいえ、秋の味覚を楽しみたいですね。
【夏目漱石の『二百十日』とは?】
夏目漱石の中編小説である『二百十日』は、1906(明治39)年10月、雑誌『中央公論』に発表され、その年の12月に『鶉籠』に収録されて出版されました。小説『二百十日』は阿蘇山に登るふたりの青年の会話で綴られた物語で、華族など富裕層への不満が度々語られています。結果としては、二百十日の嵐のために登頂を断念するのですが、当時の社会制度や特権階級に対する批判を展開しつつ、青年たちの友情や理想を追求する姿が描かれています。漱石自身、熊本での教師時代の1899年に、友人で同僚の山川信次郎と供に阿蘇に登山した経験があります。登頂を試みるものの嵐にあい断念しているため、小説『二百十日』はこの体験に基づくもので、登場人物のひとりは漱石自身がモデルであると言われています。
***
気象庁によれば、ここ30年間(1991~2020年)で、年間平均約25個の台風が発生し、約12個の台風が日本から300km以内に接近し、約3個が日本に上陸しています。発生・接近・上陸共に、7月から10月にかけてが最も多く、西から北西に進んだ台風がやがて太平洋高気圧の縁を回るように北東方向に向きを変え、本州に接近しやすい季節です。日本気象協会は2024年8月の台風接近数は2〜4個と、例年平均値の1.6よりも多くなると予想しています。備えあれば憂いなし。防災グッズを再点検し、台風に備えてくださいね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『12か月のきまりごと歳時記(現代用語の基礎知識2008年版付録)』(自由国民社) /「おわら風の盆」(https://www.yatsuo.net/kazenobon/) :