2024年の新作ラグジュアリーウォッチ総括! 審査員を務めた各界のプロフェッショナル7名はここに着目

例年にも増して、それぞれのメゾンを象徴する名品ウォッチを、よりエレガントに進化させたクリエイションが際立った2024年。エントリーされた数多くのタイムピースの審査を務めた7名の目利きたちが、率直に感想を語ります。

『Precious』ウォッチアワード 2024 審査員(ゲストは50音順)

犬走比佐乃さん
スタイリスト
(いぬばしり・ひさの)本誌をはじめ数々の女性誌や、多くの人気女優のスタイリングを手掛け、「マダム犬走」の愛称で広く支持されている。30年以上第一線を走り続けているキャリアで培われた「名品」に対する高い審美眼には定評があり、時計好きとしても知られる。

宝飾・時計専業以外のメゾンのクリエイションが開花した一年(犬走さん)

「年々、それぞれのメゾンの個性を生かしたウォッチメイキングの成熟度が高まっているように感じます。今年は特に、“シャネル” や “エルメス”、“ルイ・ヴィトン” といった、いわゆる宝飾・時計専業ではないフランスのメゾンのクリエイションが際立ち、印象に残りました。将来的に “名品” と謳われるに違いない新作も誕生し、大人の女性の時計選びの選択肢がますます増えたのはうれしいことです」

岡村佳代さん
ウォッチ&ジュエリージャーナリスト
(おかむら・かよ)時計専門誌を手掛けたことをきっかけに、その魅力に開眼。スイスの時計フェアの取材歴は業界屈指のキャリアを誇る。幅広い媒体で記事やコラムを執筆するほか、ラグジュアリーメゾンのスタッフトレーニングに登壇するなど、活躍の幅を広げている。

これからの高級時計市場を占うエポックメイキングな新作が目白押し(岡村さん)

「各メゾンの新作発表を受けて、久しぶりにワクワクした一年になりました。メゾンを象徴するアイコンが意表をつく進化を果たしたり、未来の絶対的アイコンになりうる新しいモデルが誕生したりと、いわば “アイコンウォッチ・レボリューション 2024”! 高額化が加速する一方のなか、自分にとっての名品とは何かを見極めることができる審美眼を磨いていくことが、ますます重要になっていくことでしょう」

立野リカさん
モデル(『Precious』専属)
(たつの・りか)アメリカ・カリフォルニア州出身。2011年、モデルとしての活動をスタート。2015年9月から『Precious』専属モデルを務める。仕事柄多くの名品を手にしてきた経験から、磨かれた審美眼の持ち主に。腕時計への関心は高く、少しずつコレクションしている。

進化した現代女性が求めるのは「自分を表現する時計」(立野さん)

「毎年、女性たちが求める時計の傾向に変化を感じてきましたが、2024年のラグジュアリーウォッチ界では、また新たな躍動が生まれたように思います。さらに進化した現代女性が求めているのは “自分を表現する時計”。それに加えて私個人としては、時計にはストーリーを語ってほしいと思っています。時計業界はもちろん、特に女性用時計の将来にとても期待し、ワクワクせずにはいられません」

中野香織さん
服飾史家/著作家
(なかの・かおり)ラグジュアリー領域を主な専門とし、人文学とジャーナリズムの手法を融合させた独自のアプローチで執筆・講演を行うほか企業顧問を務める。日本経済新聞はじめ多媒体で連載中。『「イノベーター」で読むアパレル全史』増補最新版を2025年春に発売予定。

甲乙つけがたい傑作の数々は「生きる指針」まで与えてくれる(中野さん)

「メゾンの美学やヘリテージ、最高峰の素材、さらに夢や楽しさまでもが詰め込まれた小宇宙。そんな各メゾンの最新作は、それぞれが唯一無二の存在感で際立っているため、そのなかから “選ぶ” 苦悩も味わいました。甲乙つけがたい傑作ばかりを前にして、『最後の選択』の基準にしたのは“なんの遠慮もなく、そのメゾンらしさを品格と共に放っていること”。生きる指針まで与えていただきました」

本間恵子さん
ウォッチ&ジュエリージャーナリスト
(ほんま・けいこ)大学卒業後、宝飾メーカーに入社。ジュエリーデザイナーとして勤務したあと、その知識を生かし、宝飾専門誌エディターに転身。女性誌や新聞など幅広いメディアで専門性の高い記事を執筆している。アンティークウォッチの愛好家としても知られている。

ファッション性と品質を併せもつ名品の「当たり年」(本間さん)

「スマホが正確な現在時刻を教えてくれるこの時代、高級時計はどうあるべきかを多くのブランドがそれぞれのアプローチで思索し、追求しています。女性のラグジュアリーウォッチにとって重要なのは、ファッショナブルであること、ステイタス感があること、そして感動を与えてくれること。今年はファッション性と高い品質とを両立させた名品がいくつも登場しており、当たり年だったといえるでしょう」

守屋美穂
『Precious』発行人
(もりや・みほ)小学館入社後、女性ファッション誌やラグジュアリー・タブロイドマガジンの編集や創刊に携わる。2020年から雑誌『Precious』編集長を務め、2024年10月より現職に就任、『Precious』ブランドを統括している。

今年心惹かれたのはフェミニンなタイムピースたち(守屋)

「毎年、新作時計が見せてくれる各メゾンのチャレンジにはいつも敬服し、ときには自分自身が鼓舞されることも。小さな腕時計の中に、技術、デザイン、それをまとめ上げる職人たち…それはロマンであり進化であり。今年心を惹かれたのは小さなケースに華奢なデザインの、いわゆる “女時計” です。ジュエリーのように宝石を纏うその姿や輝きは眺めているだけで気持ちが明るくなり、腕時計の新しい力を感じました」

池永裕子
『Precious』編集長
(いけなが・ゆうこ)小学館入社後、一貫して女性向けファッション誌に携わる。2024年10月、本誌編集長に就任。新任編集長として初めてウォッチアワードの審査に加わる。ジェンダーフリーの本格時計と、クラシカルなスモールサイズの両極を偏愛。

ファッションと時計の世界がより親密になった一年(池永)

「“伝統と革新” “アイコンの再解釈” ── このふたつの観点からも、ファッションと時計の世界が、より親密になった一年という印象を受けています。2024年9月号では、創刊以来初めて、時計が主軸の巻頭特集を展開。“このシーンとこの服装に、この時計” という具現化した理想像の提案は、知識と経験が豊富な読者からの反響も高く、時計を自分ごととしてとらえるムードの高まりを感じています」


新作時計から見えてくる2024年のトレンド事情【レディス編】

2018年からスタートし、今回で7回目を迎えた『Precious WATCH AWARD』。2024年に発表、発売された新作時計を対象に、カテゴリーごとにエントリーを募り、今年は7名の審査員によって厳正な選考を行いました。

毎年活況を呈し続ける高級時計市場の熱気を受け、回を重ねるごとに、それぞれのメゾンのクリエイションの輝きは増す一方。今年も実に多彩な顔ぶれでした。

「数々の新名品が登場したレディスウォッチの当たり年です」(本間さん)

ファッションの世界とは異なり、数年周期で新たな潮流が生まれるラグジュアリーウォッチ界。しかし近年では、文字盤やストラップの色、ケースの大きさや形は実に多様化し、「トレンドがないのがトレンド」と囁かれるようになってきました。しかしそんななか、久しぶりに注目すべきトレンドとなったのが、ケースのみならず、ブレスレットまですべて金色に輝く “ゴールドウォッチ”です。

高級時計_1,時計
『オーヴァーシーズ・クォーツ』¥7,612,000 ●ケース: PG×ダイヤモンド ●ケース径:33mm ●ブレスレット:PG ●クオーツ ※カーフとラバーの2本の替えストラップが付属(ヴァシュロン・コンスタンタン)
時計_2,高級時計_2
『ロイヤル オーク オートマティック』¥7,865,000 ●ケース: PG ●ケース径:34mm ●ブレスレット:PG ●自動巻き(オーデマ ピゲ)
時計_3,高級時計_3
『ピアジェ ポロ 79』¥11,792,000/参考価格 ●ケース:YG ●ケース径:38mm ●ブレスレット:YG ●自動巻き(ピアジェ)

ジュエリーウォッチだけではなく、ラグジュアリースポーツウォッチの雰囲気を宿す「ゴールドウォッチ」も多く誕生。

「“ゴールドウォッチ賞” を新設したいくらい金色の輝きが目を惹きました」(岡村さん)

「“オーデマ ピゲ” の『ロイヤル オーク ミニ フロステッドゴールド』をはじめ、“オメガ” の『スピードマスター 38』など、受賞作のうち6作がそれぞれアプローチは異なるものの “ゴールドウォッチ”。限定モデルのためエントリーを見送られたものや、締め切り後に発表されたものも多く、2024年を象徴するトレンドといえるでしょう」(本間さん)

「かつて“金無垢の時計”という響きにはネガティブなイメージもありましたが、今は女性が何にも縛られることなく、自分が好きな時計を自分で選び手に入れる時代。これから時計は、“所有価値”“使用価値”“資産価値”の3つの価値が求められるようになっていくと思いますが、ラグジュアリーメゾンの“ゴールドウォッチ”はそのすべてを満たすといえるでしょう」(岡村さん)

「フランスを代表するメゾンが、時計界に新たな価値観をもたらしました」(池永)

また、2024年のラグジュアリーウォッチ界で、いわゆる「トレンド」とは違った次元で脚光を浴びたのが、“エルメス” “ルイ・ヴィトン”、そして “シャネル” という、フランスを代表するメゾンでした。

「時計専業のマニュファクチュールやジュエラーとは異なる出自をもつ、これらのメゾンならではのウォッチメイキング。その自由で大胆なクリエイションは、ラグジュアリーウォッチの新たな可能性を示唆しているような気がします」(池永)

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『エルメス カット』¥2,266,000 ●ケース:SS×PG×ダイヤモンド ●ケース径:36mm ●ブレスレット:SS×PG ●自動巻き(エルメスジャポン)
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『エスカル オトマティック ローズゴールド グレー』¥4,147,000 ●ケース:RG ●ケース径:39mm ●ストラップ:カーフ ●自動巻き(ルイ・ヴィトン)

メゾンのアイコンをシンプルに生まれ変わらせた ”ルイ・ヴィトン” や、まったく新しい機械式ウォッチコレクションを発表した ”エルメス” がますます存在感を発揮。


その「ルイ・ヴィトン」が満を持して発表した『エスカル』のシンプルな3針の新作は、すべてケース径39mmというジェンダーレスなサイズ。メンズ、レディスのボーダーをなくした「ジェンダーレスウォッチ」の選択肢は増え、トレンドから定番へと落ち着きつつあります。

「”パテック フィリップ” の新コレクションはジェンダーレスウォッチの名品になりそう」(立野さん)

「2024年は秋に、“パテック フィリップ” が25年ぶりとなる新コレクション『キュビタス』を発表という大きなニュースが飛び込んできました。『ノーチラス』や『アクアノート』のように、いずれ女性の手首にもマッチするジェンダーレスなサイズを展開してくれるのではと期待感が募ります」(立野さん)

時計_6,高級時計_6
 

”パテック フィリップ” 25年ぶりの新コレクション『キュビタス』には、ジェンダーレスサイズの展開が期待される。

左/『Cubitus Ref.5821/1A』¥6,530,000●ケース:SS ●ケース径(10時〜4時方向):45mm●SSブレスレット ●自動巻き(パテック フィリップ)

中央/『Cubitus Ref.5822P』¥13,990,000●ケース:PT ●ケース径(10時〜4時方向):45mm●コンポジットストラップ●自動巻き(パテック フィリップ)

右/『Cubitus Ref.5821/1AR』¥9,700,000●ケース:SS×RG ●ケース径(10時〜4時方向):45mm●RG×SSブレスレット●自動巻き(パテック フィリップ)


「大胆なアレンジを加えても変わることないアイコンの偉大さを実感しました」(池永)

そうそうたるラグジュアリーメゾンから発表された、新コレクションが話題を呼んだ一方で、見逃せないのが華麗に進化を果たしたアイコンウォッチの数々です。

毎年すべての部門のなかで最も多くのモデルがエントリーされる「アイコンウォッチ賞」ですが、エントリーされた作品以外にも多くのアイコンたちが、新たなアプローチで非凡なクリエイションを発揮しました。

「ひと目でわかる象徴的なモチーフというのは、いわばメゾンの至宝です。そんなアイコンを、新たな色彩や素材で、ときには大胆なアレンジを加えて、人々にときめきを与えるウォッチメイキングの数々には胸を打たれました。」(犬走さん)

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『クイーン・オブ・ネイプルズ 8918』¥7,502,000 ●ケース:WG×ダイヤモンド ●ケースサイズ:縦36.5×横28.45mm ●ストラップ:アリゲーター ●自動巻き(ブレゲ ブティック銀座)
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『セルペンティ パリーニ』価格要問い合わせ ●ケース:PG×WG×ダイヤモンド×エメラルド ●ケース径:40mm ●ブレスレット:PG×WG×ダイヤモンド ●手巻き(ブルガリ・ジャパン)
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『プルミエール ソートワール ベルト』¥2,057,000/数量限定販売 ●ケース:YGのPVDコーティングを施したSS ●ケースサイズ:縦19.7×横15.2mm ●ソートワールベルト:YGのPVDコーティングを施したSS×ブラックレザー ●クオーツ(シャネル)

進化を続ける名品のエレガンスと、豊かなクリエイティビティを強く印象づけたアイコンウォッチは、無条件に女心をくすぐる。


「それぞれのメゾンが競演を繰り広げたアイコンウォッチは傑作揃い!」(犬走さん)

それぞれのメゾンが磨き上げてきたクリエイションが大輪の花を咲かせ、まさに百花繚乱のラインナップとなった『Precious WATCH AWARD 2024』。エントリーが見送られた作品を含め、今年誕生した新作ウォッチを俯瞰すると、全体的に高額化が加速している現実が見てとれます。

ただラグジュアリーウォッチ界においては、他の産業とは異なり、資材の高騰やメゾンのマーケティング戦略だけではなく、あえて高額な、いわゆる「ハイウォッチ」を手掛けている理由があります。それは卓越した職人技、伝統技術を継承していくという崇高な志と使命です。

「超高級時計市場が拡大していることがトレンドの背景にあるでしょう」(中野さん)

例えば「ヴァン クリーフ&アーペル」が2006年から発表し続けている『ポエティック コンプリケーション』。複雑機構と希少な宝飾技術によって、詩情豊かな独自の世界観を表現するコンプリケーションウォッチは、時計、宝飾それぞれの高度なクラフツマンシップの継承と発展に大きく寄与しています。

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『レディ アーペル ブリーズ デテ ウォッチ』¥28,512,000 ●ケース:WG×ダイヤモンド ●ケース径:38mm ●ストラップ:アリゲーター ●自動巻き(ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク)

ハイジュエリーウォッチでありハイコンプリケーションウォッチでもある芸術的作品には、メゾンの矜持と卓越したクラフツマンシップが宿り、プライスレスな価値をもつ。

日常に寄り添うタイムピースにも名門のクラフツマンシップが宿ります(守屋)

「超絶技巧を施した時計は、熱心なコレクターの関心も惹きつけ、稀少性が高いために投資価値の面でも注目を集めているのではないでしょうか」(中野さん)

「芸術的なハイウォッチを創作する希少なクラフツマンシップを、働く女性の日常に寄り添うタイムピースに息づかせるウォッチメイキングというのも、ラグジュアリーメゾンのもうひとつの真髄。“ジャガー・ルクルト” や “ピアジェ” といった名門マニュファクチュールのクリエイションが、それを象徴しているように思います」(守屋)

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『ミニ トレゾア』¥770,000 ●ケース:SS×ダイヤモンド ●ケース径:26mm ●ブレスレット:SS ●クオーツ(オメガ)
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『ランデヴー・デイト』¥1,513,600 ●ケース:SS×ダイヤモンド ●ケース径:29mm ●ブレスレット:SS ●クオーツ(ジャガー・ルクルト) 

しなやかでエレガントなブレスレットや、搭載されている本格機械式ムーブメントに、名門マニュファクチュールの真髄が息づく。


腕時計の役割や意味が変化を遂げた現代。だからこそ、そこに宿るエレガンスがより輝きを増し、名品ウォッチたちはまた新たな伝説を刻んでいきます。

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
※文中の表記は、RG=ローズゴールド、WG=ホワイトゴールド、PG=ピンクゴールド、YG=イエローゴールド、PT=プラチナ、SS=ステンレススティールを表します。
※掲載されている商品の価格は、2024年12月6日現在のものです。

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問い合わせ先

PHOTO :
池田 敦(CASK)
STYLIST :
関口真実
EDIT&WRITING :
岡村佳代、安村 徹(Precious)