2025年の大河ドラマ『べらぼう』の舞台は、今までの大河ドラマでは描かれてこなかった江戸中期。喜多川歌麿や葛飾北斎といった浮世絵師や作家たちを見いだし、今でいう「漫画」やライトノベル、アイドル(花魁)のグラビアや官能小説を出版、「江戸のメディア王」と言われた蔦屋重三郎の生涯を描きます。

主演は横浜流星さん。脚本は2023年に放送された『大奥』(NHK)の森下佳子さんが務めています。今回は、そのタイトルである「べらぼう」という言葉について深掘り! 今回の大河ドラマがますますおもしろくなる、基礎知識をご紹介します。

【目次】

【「べらぼう」とは?「意味」「由来」】

「意味」

江戸っ子のきっぷのよさを象徴する「べらぼうめ!」という言葉。時代劇などで1度は聞いたことがあるのではないでしょうか。そもそも「べらぼう」とは、「ばかな人。たわけ。ばか。あほう」など、人をののしる際に多く使われる言葉でした。これが時を経て、「ばかなさま。ばかげている様子。でたらめ」を「べらぼう」と表現するようになりました。また、「程度がひどいこと。はなはだしいこと」を、「今日はべらぼうに寒い」「べらぼうな値上がりだ」のようにも表現します。

大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の第1回「ありがた山の寒がらす」では、冒頭、主人公の蔦屋重三郎(横浜流星さん)が、吉原の街に燃え広がる炎に自ら身を投じようとする少年、唐丸を助け出す際、「べらぼうめ! 何考えてんだ!」と口にしています。常識では考えられない少年の行動を「べらぼうめ!=ばかやろう!」といさめたのですね。

「べらぼう」に、接尾語の「め」が付いて「べらぼうめ」となり、さらに音が変化して、江戸ことばの「べらんめえ」になったといわれていますよ。また、『べらぼう』の制作統括をされている藤並英樹チーフプロデューサーは、「べらぼう」の意味をこう説明しています。

「周囲には常識外れにしか見えない発想・行動から、蔦屋重三郎はきっと「べらぼう奴(め)!」と罵られていたことでしょう。しかしその扱いは時代の寵児へと変わっていきます。そんな重三郎に親しみと尊敬を込めた言葉として「べらぼう」と名付けました」。

「べらぼう」は、常識はずれな行動を起こす者をののしる言葉である一方、既成概念を打ち破る、時代の寵児への誉め言葉でもあるのですね!

■「由来」

「べらぼう」の語源は諸説あります。ひとつは、寛文(1661~1673)末年ごろ、見世物小屋で評判になった芸人に由来するという説。その芸人は全身真っ黒で頭はとがり、目は赤く丸く、あごが猿のような奇人で、「便乱坊(べらんぼう)」「可坊(べくぼう)」と呼ばれていたことから、やや馬鹿にする意味で「べらぼう」という言葉が使われるようになったといわれています。

そのほかにも「べらぼう」の語源は穀物を潰す「箆棒」(へらぼう)」にあり、「穀潰し」(ごくつぶし)の意味ももっているともいわれていますよ。


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■「江戸のメディア王」って?

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の主人公、蔦屋重三郎は史実に残る実在の人物です。彼は版元(出版業者)の社長のような存在で、本や浮世絵の企画、プロデュース、営業に時々創作と活躍しましたが、現存する史料は少なく、その足跡には謎も多いそうです。貸本屋業から、いかにして「江戸のメディア王」にのし上がっていくのか、日本のポップカルチャーの礎を築いたと言われる蔦重の、べらぼうな活躍から目が離せません!

■江戸幕府公認の遊郭の街、吉原をリアルに再現!

主人公の蔦重は吉原遊郭生まれの吉原育ち。岡場所(深川・品川・新宿など、非公認の遊里)の隆盛により衰退した吉原に活気を取り戻そうと奮起します。今回、吉原の街をリアルに表現するため、大河ドラマの美術チームは、「浮世絵で描かれた吉原を実現すること」を心掛けたとか。広いスタジオに実際とほぼ同じ、約11m幅の通り(仲の町通)をつくり、スタジオの奥にLEDウォールを設置することで全長250mの奥行きを表現しているそうです。引き手茶屋や女郎屋など、建造物もリアル!

さらに吉原で花開いた江戸の文化にも注目。豪華な設(しつら)えに最上級の料理と酒、そして一流の芸、センス、教養を身につけた人々。当時の吉原は最先端の流行を生み出す、江戸カルチャーの発信地でもあったのです。例えば、花魁がまとう着物や髪型はまず吉原で流行し、歌舞伎で使われました。そして再び吉原に戻ってから、蔦重などが出版する錦絵を通して、市中の一般女性たちに知られていったのです。

一方で、ドラマの初回では、蔦重が幼いころに世話になった花魁(おいらん)の朝顔(愛希れいかさん)が亡くなり、埋められる前に着物を剝ぎ取られ、裸体となってほかの亡くなった女性たちと重なるように地面に置かれているという衝撃のシーンが。このシーンはSNSで賛否を巻き起こしましたが、表面的な華やかさだけでなく、吉原に生きる女郎たちを取り巻く過酷な現実を淡々と映し出す、製作スタッフ陣の覚悟が見えたシーンでした。

ちなみに、吉原遊郭は現在の東京都台東区千束3〜4丁目あたり。浅草の浅草寺から北に約1キロに位置し、周囲を田んぼに囲まれた通うには不便な場所だったそうですよ。

■江戸中期の吉原、町人文化を映す着物が素晴らしい!

江戸中期は宮崎友禅斎の活躍で、「友禅」という着物の技法が栄え始めた時代です。遊郭で生きる花魁たちの着物はもちろん、武士や町人らの着物でも友禅が流行していました。ドラマでは絞り風の匹田(ひった)模様を染めで表現したものも多く使われています。そしてこの時代の着物は藍を基本に、茶色や鼠色が江戸っ子に人気でした。そのあたりも忠実です。

さらに着物好き視聴者の目を引いたのは、ドラマでキャストの方々が着用されている着物の風合いや質感です。当時の繭は、現在育成されている繭とは種類が違います。今のものより小さな繭から紡いだ、細い糸からなる生地は、ごく薄手でしなやか。そこに繊細な色彩と緻密な模様が施されているのですが、ドラマでは半襟に使われている刺しゅうや更紗などにもこだわっていることがわかります。俳優さんたちの顔がアップになる場面では、ぜひ襟元にもご注目を。

■江戸中期に活躍した“あの人”に注目!

日本史の授業で習った田村意次(おきつぐ/ドラマでは渡辺謙さん)や、今後描かれる「寛政の改革」で知られる松平定信(寺田心さん)らが活躍する江戸中期。大河ドラマで描かれるのは初めてですが、実は『大岡越前』や『遠山の金さん』など、時代劇ではお馴染みの時代なんです。第1回では、さっそく、『鬼平犯科帳』(池波正太郎著)で知られる長谷川平蔵が登場しました。

テレビドラマの『鬼平犯科帳』では、長谷川平蔵を歌舞伎役者の二代目中村吉右衛門さん、十代目松本幸四郎さんが演じ、多くの鬼平ファンを生みましたが、今回、大河ドラマに登場した若き日の平蔵を演じるのは、同じく歌舞伎役者の中村隼人さん。第1回では、ちょっと残念なキャラクターでハラハラさせられましたね。さらに安田顕さんが演じる天才発明家にして本草家、戯作者、鉱山開発者と、マルチな才能を発揮する平賀源内(安田顕さんがどう描かれていくのかも、注目のひとつですね! 

■浮世絵好きは見逃せない!

『べらぼう』には今後、蔦重がその才能を見いだす、喜多川歌麿(大河ドラマでは染谷将太さん)や葛飾北斎、東洲斎写楽など、多くの浮世絵師たちが登場します。江戸のポップカルチャーがいかに誕生したのか、その流れにも注目です。

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いかがでしたか? 『べらぼう』の舞台となる江戸中期について、少し理解を深めていただけましたでしょうか? 当連載では今後も、大河をもっと楽しむためのキーワードをご紹介していく予定です。お楽しみに!

 

この記事の執筆者
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参考資料: 『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /NHK大河ドラマ・ガイド『べらぼう 前編』(NHK出版) :