今月のMs.Precious……福岡生まれ、スイス育ち。中学生以降の海外生活で身に着けた英語とフランス語を活かし、大学卒業後は外資系金融の役員秘書に。そこで知り合ったバンカーと結婚後は専業主婦だったものの、子育てが落ち着いてからはフリーランスの通訳として活躍する50歳。
今月のクルマ……【Ferrari Purosangue】
1947年に始まるフェラーリの歴史はまさに「

先日、劇場の駐車場で出庫待ちしていたら、古くからの知人にばったり。互いのクルマの話になったところで「そういえば」と相談を持ち掛けられた。クルマ好き、運転好き、そして予算は気に入ればいくらでも。「そんな女友だちがいるんだけど、馬力があるものに乗ってみたいらしくて。松任谷さんだったらどんなのを勧める?」。安請け合いはしたくないが、ちょうど思い当たるクルマを借りる予定があったので、「これも何かの巡り合わせ」と会ってみることにした。
「このクルマだと長野がサンモリッツに感じますよ、きっと」――松任谷
Ms.Precious あっ、これフェラーリですか……。
松任谷 背は高いですけどフェラーリですね。初めまして。よろしくお願いします。
Ms. Precious ちょっと驚きました。これがフェラーリとは……。
松任谷 編集長の要望もあって、なるべく新鮮なクルマにしてくれ、と。
Ms.Precious 確かに、インパクトありました。ちょっとくらくらしてます。
松任谷 人と被ることがお嫌なんですよね?
Ms.Precious まあ、どなたでもそうだと思いますが、SUVは割合被りがちな気がするんです。以前、息子の卒業式に行ったら、近くの駐車場に私のも含めて3台ほど同じクルマがありました。そのうち1台はまったく同じ色で……。
松任谷 なるほど。そうは言ってもオフローダーみたいな油臭いクルマはお嫌なんですよね?
Ms.Precious あまり、そういう格好をしないもので。デニムにネルシャツとか、アメリカンな服は1枚も持ってないんです。
松任谷 失礼ですがその帽子はなんだかオードリー・ヘプバーンの映画を思い出しますね。
Ms.Precious あ、でもね、これはエコファーなんです。なんとなく本物のファーはまだ着る感じではなくて。
松任谷 そうですよね。今は微妙な時期ですよね。まあ、色々な情報を元にこのクルマを持ってきたんですけど。今のスタイルには絶妙に合っていると思うんですけど……。なんだか「やったー!!」って感じです。
Ms.Precious そう言ってもらえるとやっぱり嬉しいかな。
松任谷 別荘が長野県の山の方にあって、スキーにはしょっちゅう行かれる、と。
Ms.Precious そうですね。なぜか子供の頃から雪が好きで、今年なんかは雪がないんじゃないかって心配してました。
松任谷 このクルマだと長野がサンモリッツに感じますよ、きっと。
Precious.jp そうかもしれませんね。それにしてもきれいなライン。まるで筋肉のような躍動感を感じます。
松任谷 面白いですよね。デザイナーが描く曲線であることには変わりないのに、これほどアートに感じる曲線はないですよね。フェラーリであるという色眼鏡を外したとしても、やっぱりきれいなデザインだと思います。フェラーリはほぼどのクルマも走るアートですね。

Ms.Precious アートでないクルマもあるんですか?
松任谷 まあ、そこは個人的な好みなんですけどね。では乗ってみてください。
Ms.Precious このドアハンドル、どうすれば……?
松任谷 指先でドアハンドルの部分を押してください。フラップになってますから。
Ms.Precious 本当だ……。で、上の部分を引っ張ればいいんですか?
松任谷 そうです。
Ms.Precious なんだかドアハンドルに手を食べられちゃう感覚ですね。それにネイルが剥がれないか心配。
松任谷 まあそうかもしれませんね。でも慣れれば大丈夫。
「いわゆるSUVよりかなりエレガントなイメージね。後席も快適で長距離でもも全く苦にならないと思う」――Ms.P
Ms.Precious これ、一般的なSUVよりは背が低いのかしら。
松任谷 そうですね。今は純粋なSUVというよりもクロスオーバーっぽいクルマが多いですけど、それに近いとも言えるし、全然違うとも言える。
Ms.Precious ああ、後席は立派なセンターコンソールがあって2人用なんですね。
松任谷 そう、だから定員は4名ですけど、4名がそれぞれに違う温度にエアコン設定が出来るんですよ。

Ms.Precious シートに座ると不思議な感覚ですね。フェンダーの峰が見えて、これは素晴らしいスポーツカーなんだって思えるのに、ちょっと待って、目線は高いぞ、っていう感じかな。
松任谷 そうですね。慣れるまでにはちょっと時間がかかるかもしれません。
Ms.Precious スターターはこのステアリングホイールのこのボタンですね?
松任谷 そうです。でも、これはボタンではなく、もはやタッチセンサーですけど。このクルマでは半分くらいのスイッチがセンサーですね。これは数年前のフェラーリ・ローマというクルマからだったと記憶しています。
Ms.Precious あ、本当だ。このステアリングリムの右側の十字スイッチはスワイプする方式なんですね。
松任谷 えっ、そんなのよく分かりましたね。僕なんかどうやって操作するんだろうって1時間くらい奮闘したのに……。
Ms.Precious 私、割合メカに強いんですよ。コンピューターのセッティングは家族全員分、私がやってますから。
松任谷 ご主人はなさらないんですか?
Ms.Precious 彼はスポーツ専門。スキーでは国体にも出たことがあるんですよ。
松任谷 なるほど、それでスキーなんですね。ではクルマは?
Ms.Precious 怪我をするといけないということで免許も持っていません。まあお酒も飲みますし、これでいいと思ってるんです。
松任谷 えっ、それはびっくり。で、フェラーリでいいんですか?
Ms.Precious だからフェラーリ、という考え方もありますよね。
松任谷 運転はお好きなんですよね?
Ms.Precious 私、半日でもずっと運転していられます。今までの最高は東京、小倉を給油以外止まらずに走ったこともあります。
松任谷 スポーツドライビングは?
Ms.Precious サーキット走行くらいならあります。一応ライセンスも持っていたんで。
松任谷 ますます、このクルマがピッタリに思えてきました。ではエンジンを掛けて走ってみましょう。
「静かなようで、どこか猛獣のような気配を感じる」――Ms. Precious
Ms.Precious 意外にエンジンが掛かる時の音は静かめですよね。後でフォンッって軽く吼えたくらい。フェラーリじゃないみたい。
松任谷 大丈夫です。立派なフェラーリだから。ドライブモードはまずコンフォートから行きましょう。といってもデフォルトがコンフォートだからこのままでいいとして、そのステアリング上にある赤いスイッチを回すとICE/WET/COMFORT/SPORTSそして滑り防止を切るモードがもうひとつ、です。
Ms.Precious 静かと言ったけれど、なにか猛獣のような気配を感じるのは私だけ?
松任谷 いやいや、こちらでも充分にそれは感じます。ライオンの吐息みたいな感じかな。
Ms.Precious えーと、ドライブに入れるには右のパドルを引くんでしたっけ?
松任谷 あっ、よくご存じで。ニュートラルにするには両方のパドルを同時に引きます。
Ms.Precious そうでしたね。そしてウインカーレバーがなくて、代りにステアリング上にこのスイッチがあるわけですね。これが慣れないと探しちゃいそう」
松任谷 あとは走るだけですから、ご自由にどうぞ。

Ms. Precious では行きます。ステアリングは軽め、ペダル類はちょっと重め。ブレーキのタッチはなんだかレーシングカーみたい。
松任谷 さすがにご存じですね。僕も少し安心しました。ではスタートしてください。
Ms. Precious うわっ、やっぱりすごいパワーですね。大男50人くらいで後ろから押されているような感じです。
松任谷 しかもその大男達が飛行機並の速さで走れるんだから大変。
Ms. Precious 分かります。そんなことを既に予感させてくれます。
松任谷 信号で停まりましょう。
Ms. Precious あっ、アイドルストップしました。しかも停まる前にストップしましたね。
松任谷 僕もこれはちょっと早すぎるんじゃないか、って思いますけど、まあ省エネということなんでしょうかね。12気筒エンジンのくせに何を言ってるんだ、って感じもしますけど。
Ms. Precious このまま高速に乗っちゃっていいですか?
松任谷 はい、お願いします。
Ms. Precious 加速します。おお、すごい。フェラーリってもっと線が細いイメージがあったんですけど、これはものすごく太いですね。やっぱり大男です。

松任谷 フェラーリの12気筒エンジンは本当に力持ちなんですよね。踏めばこのまま最高速まで一気に行きそうな気がしませんか?
Ms. Precious します、します。それより、さっきからこの乗り心地が気に入ってるんですけど、これってエアサスペンションか何かですか?
松任谷 いや、エアではなく、モーターを使った特殊なサスペンションで、だからエアとも違う独特の乗り味がしませんか?
Ms. Precious そうですね。エアサスペンションのようなフワフワしたところはないですね。ゆっくり昇降するエレベーターのような、と言ったら理解不能かしら?
松任谷 あ、でも近いと思います。スーッと揺れを押さえていく感じですよね。
Ms. Precious これは素晴らしいですね。そのくせステアリングは反応が早いですね。完全にスポーツカーのそれだと思います。
松任谷 そうなんですよ。過敏ではないのに反応が早いのは理想的なスポーツカーのそれですよね。だから長野の山道あたりも楽しいと思いますよ。
Ms. Precious 人とも被らなそうだし、自分には完璧に合っている気がしました。あとはプライスだけですよね。
松任谷 そうですね。このプライスをどう考えるか……。でも短い人生、好きなものと暮らすということが後悔しないということかもしれませんよね。

今月のクルマ
【Ferrari Purosangue】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,973×2,028×1,589mm
車両本体価格:¥53,710,000(ベース価格)
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
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- TEXT :
- 松任谷正隆さん 作編曲家、音楽プロデューサー
- WRITING :
- 松任谷正隆
- EDIT :
- 三井三奈子