今月のMs.Precious……福岡生まれ、スイス育ち。中学生以降の海外生活で身に着けた英語とフランス語を活かし、大学卒業後は外資系金融の役員秘書に。そこで知り合ったバンカーと結婚後は専業主婦だったものの、子育てが落ち着いてからはフリーランスの通訳として活躍する50歳。

今月のクルマ……【Ferrari Purosangue】
1947年に始まるフェラーリの歴史はまさに「公道向けスポーツカーも販売する超一流レーシングチーム」。フェラーリが販売してきた車は、珠玉のエンジンやフェラーリの代名詞「ロッソコルサ(赤)」を纏った美しいデザインなど、「イタリア的な情熱」を連想させる派手な印象が強いが、その中身である走行性能はとにかく真面目。だから「走り」と「ユーティリティ」を共存させるクルマづくりには積極的ではなかった。そんなフェラーリが導き出した解がどんなものか。この興味を満たしたい世界の大富豪たちの間で、目下プロサングエは争奪戦となっている。

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4ドア4シーターかつ車高が高くても、フェラーリならではの曲線美は健在。極めて高価格帯にもかかわらず購入希望者殺到で、ネット上には「どうしたら買えるか」というティップスも散見されるほど。

先日、劇場の駐車場で出庫待ちしていたら、古くからの知人にばったり。互いのクルマの話になったところで「そういえば」と相談を持ち掛けられた。クルマ好き、運転好き、そして予算は気に入ればいくらでも。「そんな女友だちがいるんだけど、馬力があるものに乗ってみたいらしくて。松任谷さんだったらどんなのを勧める?」。安請け合いはしたくないが、ちょうど思い当たるクルマを借りる予定があったので、「これも何かの巡り合わせ」と会ってみることにした。


「このクルマだと長野がサンモリッツに感じますよ、きっと」――松任谷

Ms.Precious あっ、これフェラーリですか……。

松任谷 背は高いですけどフェラーリですね。初めまして。よろしくお願いします。

Ms. Precious ちょっと驚きました。これがフェラーリとは……。

松任谷 編集長の要望もあって、なるべく新鮮なクルマにしてくれ、と。

Ms.Precious 確かに、インパクトありました。ちょっとくらくらしてます。

松任谷 人と被ることがお嫌なんですよね?

Ms.Precious まあ、どなたでもそうだと思いますが、SUVは割合被りがちな気がするんです。以前、息子の卒業式に行ったら、近くの駐車場に私のも含めて3台ほど同じクルマがありました。そのうち1台はまったく同じ色で……。

松任谷 なるほど。そうは言ってもオフローダーみたいな油臭いクルマはお嫌なんですよね?

Ms.Precious あまり、そういう格好をしないもので。デニムにネルシャツとか、アメリカンな服は1枚も持ってないんです。

松任谷 失礼ですがその帽子はなんだかオードリー・ヘプバーンの映画を思い出しますね。

Ms.Precious あ、でもね、これはエコファーなんです。なんとなく本物のファーはまだ着る感じではなくて。

松任谷 そうですよね。今は微妙な時期ですよね。まあ、色々な情報を元にこのクルマを持ってきたんですけど。今のスタイルには絶妙に合っていると思うんですけど……。なんだか「やったー!!」って感じです。

Ms.Precious そう言ってもらえるとやっぱり嬉しいかな。

松任谷 別荘が長野県の山の方にあって、スキーにはしょっちゅう行かれる、と。

Ms.Precious そうですね。なぜか子供の頃から雪が好きで、今年なんかは雪がないんじゃないかって心配してました。

松任谷 このクルマだと長野がサンモリッツに感じますよ、きっと。

Precious.jp そうかもしれませんね。それにしてもきれいなライン。まるで筋肉のような躍動感を感じます。

松任谷 面白いですよね。デザイナーが描く曲線であることには変わりないのに、これほどアートに感じる曲線はないですよね。フェラーリであるという色眼鏡を外したとしても、やっぱりきれいなデザインだと思います。フェラーリはほぼどのクルマも走るアートですね。

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「ドアは観音開きなのね。後席には乗り込みやすいと思ったけど、それよりも降りる時の姿がエレガントにキマるわ。これ、所作が美しく見えて素敵」(Ms.P)

Ms.Precious アートでないクルマもあるんですか?

松任谷 まあ、そこは個人的な好みなんですけどね。では乗ってみてください。

Ms.Precious このドアハンドル、どうすれば……?

松任谷 指先でドアハンドルの部分を押してください。フラップになってますから。

Ms.Precious 本当だ……。で、上の部分を引っ張ればいいんですか?

松任谷 そうです。

Ms.Precious なんだかドアハンドルに手を食べられちゃう感覚ですね。それにネイルが剥がれないか心配。

松任谷 まあそうかもしれませんね。でも慣れれば大丈夫。

「いわゆるSUVよりかなりエレガントなイメージね。後席も快適で長距離でもも全く苦にならないと思う」――Ms.P

Ms.Precious これ、一般的なSUVよりは背が低いのかしら。

松任谷 そうですね。今は純粋なSUVというよりもクロスオーバーっぽいクルマが多いですけど、それに近いとも言えるし、全然違うとも言える。

Ms.Precious ああ、後席は立派なセンターコンソールがあって2人用なんですね。

松任谷 そう、だから定員は4名ですけど、4名がそれぞれに違う温度にエアコン設定が出来るんですよ。

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「後席のシート、これは長時間座っていても疲れなそう。シートの温度もそれぞれ設定できるから快適そのものね。モダンなラグジュアリー家具のような丁寧さが感じられるわ」(Ms. P)

Ms.Precious シートに座ると不思議な感覚ですね。フェンダーの峰が見えて、これは素晴らしいスポーツカーなんだって思えるのに、ちょっと待って、目線は高いぞ、っていう感じかな。

松任谷 そうですね。慣れるまでにはちょっと時間がかかるかもしれません。

Ms.Precious スターターはこのステアリングホイールのこのボタンですね?

松任谷 そうです。でも、これはボタンではなく、もはやタッチセンサーですけど。このクルマでは半分くらいのスイッチがセンサーですね。これは数年前のフェラーリ・ローマというクルマからだったと記憶しています。

Ms.Precious あ、本当だ。このステアリングリムの右側の十字スイッチはスワイプする方式なんですね。

松任谷 えっ、そんなのよく分かりましたね。僕なんかどうやって操作するんだろうって1時間くらい奮闘したのに……。

Ms.Precious 私、割合メカに強いんですよ。コンピューターのセッティングは家族全員分、私がやってますから。

松任谷 ご主人はなさらないんですか?

Ms.Precious 彼はスポーツ専門。スキーでは国体にも出たことがあるんですよ。

松任谷 なるほど、それでスキーなんですね。ではクルマは?

Ms.Precious 怪我をするといけないということで免許も持っていません。まあお酒も飲みますし、これでいいと思ってるんです。

松任谷 えっ、それはびっくり。で、フェラーリでいいんですか?

Ms.Precious だからフェラーリ、という考え方もありますよね。

松任谷 運転はお好きなんですよね?

Ms.Precious 私、半日でもずっと運転していられます。今までの最高は東京、小倉を給油以外止まらずに走ったこともあります。

松任谷 スポーツドライビングは?

Ms.Precious サーキット走行くらいならあります。一応ライセンスも持っていたんで。

松任谷 ますます、このクルマがピッタリに思えてきました。ではエンジンを掛けて走ってみましょう。

「静かなようで、どこか猛獣のような気配を感じる」――Ms. Precious

Ms.Precious 意外にエンジンが掛かる時の音は静かめですよね。後でフォンッって軽く吼えたくらい。フェラーリじゃないみたい。

松任谷 大丈夫です。立派なフェラーリだから。ドライブモードはまずコンフォートから行きましょう。といってもデフォルトがコンフォートだからこのままでいいとして、そのステアリング上にある赤いスイッチを回すとICE/WET/COMFORT/SPORTSそして滑り防止を切るモードがもうひとつ、です。

Ms.Precious 静かと言ったけれど、なにか猛獣のような気配を感じるのは私だけ?

松任谷 いやいや、こちらでも充分にそれは感じます。ライオンの吐息みたいな感じかな。

Ms.Precious えーと、ドライブに入れるには右のパドルを引くんでしたっけ?

松任谷 あっ、よくご存じで。ニュートラルにするには両方のパドルを同時に引きます。

Ms.Precious そうでしたね。そしてウインカーレバーがなくて、代りにステアリング上にこのスイッチがあるわけですね。これが慣れないと探しちゃいそう」

松任谷 あとは走るだけですから、ご自由にどうぞ。

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「エンジンボタンやステアリングのパドルは独特だけど、慣れたら何てことはないわね。レーシングカーみたいで運転好きな私にはワクワクする。左ハンドルにこだわるのも、フェラーリならではの流儀なのかしら」(Ms. P)

Ms. Precious では行きます。ステアリングは軽め、ペダル類はちょっと重め。ブレーキのタッチはなんだかレーシングカーみたい。

松任谷 さすがにご存じですね。僕も少し安心しました。ではスタートしてください。

Ms. Precious うわっ、やっぱりすごいパワーですね。大男50人くらいで後ろから押されているような感じです。

松任谷 しかもその大男達が飛行機並の速さで走れるんだから大変。

Ms. Precious 分かります。そんなことを既に予感させてくれます。

松任谷 信号で停まりましょう。

Ms. Precious あっ、アイドルストップしました。しかも停まる前にストップしましたね。

松任谷 僕もこれはちょっと早すぎるんじゃないか、って思いますけど、まあ省エネということなんでしょうかね。12気筒エンジンのくせに何を言ってるんだ、って感じもしますけど。

Ms. Precious このまま高速に乗っちゃっていいですか?

松任谷 はい、お願いします。

Ms. Precious 加速します。おお、すごい。フェラーリってもっと線が細いイメージがあったんですけど、これはものすごく太いですね。やっぱり大男です。

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「デザインがダイナミックだから存在感が大きくて緊張したけど、乗ってみるとあら不思議。思い通りに操ることができて運転しやすいし、走っているうちにどんどん楽しくなったわ。これがフェラーリの真髄なのかも」(Ms. P)

松任谷 フェラーリの12気筒エンジンは本当に力持ちなんですよね。踏めばこのまま最高速まで一気に行きそうな気がしませんか?

Ms. Precious します、します。それより、さっきからこの乗り心地が気に入ってるんですけど、これってエアサスペンションか何かですか?

松任谷 いや、エアではなく、モーターを使った特殊なサスペンションで、だからエアとも違う独特の乗り味がしませんか?

Ms. Precious そうですね。エアサスペンションのようなフワフワしたところはないですね。ゆっくり昇降するエレベーターのような、と言ったら理解不能かしら?

松任谷 あ、でも近いと思います。スーッと揺れを押さえていく感じですよね。

Ms. Precious これは素晴らしいですね。そのくせステアリングは反応が早いですね。完全にスポーツカーのそれだと思います。

松任谷 そうなんですよ。過敏ではないのに反応が早いのは理想的なスポーツカーのそれですよね。だから長野の山道あたりも楽しいと思いますよ。

Ms. Precious 人とも被らなそうだし、自分には完璧に合っている気がしました。あとはプライスだけですよね。

松任谷 そうですね。このプライスをどう考えるか……。でも短い人生、好きなものと暮らすということが後悔しないということかもしれませんよね。

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今月のクルマ
【Ferrari Purosangue】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,973×2,028×1,589mm
車両本体価格:¥53,710,000(ベース価格)

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

フェラーリ ジャパン

この記事の執筆者
1951年、東京都生まれ。1974年 慶應義塾大学・文学部卒。4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。20歳でプロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド「キャラメル・ママ」「ティン・パン・アレイ」を経て、数多くのセッションに参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして松任谷由実、松田聖子、ゆず、いきものがかりなど多くのアーティストの作品に携わる。1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。ジュニアクラスも設け、子供の育成にも力を入れている。松任谷由実のコンサートをはじめ、JUJU、平原綾香など様々なアーティストのコンサートやイベントを演出、映画、舞台音楽も多数手掛ける。2021年よりバンド「SKYE」に参加。日本自動車ジャーナリスト協会に所属し、長年にわたり『CAR GRAPHIC TV』(BS朝日・毎週木曜23:00~)のキャスターを務める他、『日本カー・オブ・ザ・イヤー』の選考委員でもある。ラジオ『松任谷正隆のちょっと変なこと聞いてもいいですか?』(TOKYO FM・毎週金曜17:30~)にも出演。好きなもの:朝のお茶の時間、夜の昼寝。
WRITING :
松任谷正隆
EDIT :
三井三奈子