『べらぼう』地上波第1回放送後から注目度は右肩上がり
誰もが知る『源氏物語』と紫式部を題材に、雅な平安貴族の世界を描いた『光る君へ』から一転、TSUTAYAとか蔦屋書店の創始者の人の話? と勘違いした人も続出の江戸時代の版元、蔦屋重三郎を主人公に据えた大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』。「大河ドラマの舞台が吉原遊郭なんて」「子どもに見せられない」と映画『鬼滅の刃 遊郭編』の公開前を彷彿させる批判も受け、地上波での第1回放送後は、命を落とした遊女が身ぐるみ剥がされて地面に捨て置かれたシーンの演出にSNSが大きく反応。結果、NHKプラスで配信された全ドラマのなかで最多視聴数になるほどの注目を浴びています。NHK放送開始から100年を迎える2025年、世界が注目する東京カルチャーの礎となった江戸文化発展の軌跡を味わいつつ、楽しんでいこうではありませんか。
横浜流星さん演じる主人公、蔦重って…誰?
江戸を焼き尽くし、1万5000人もの死者を出した1772(明和9)年に起こった明和の大火からスタートした『べらぼう』。そして、そこには自らの危険を顧みず逃げ遅れた子どもたちに駆け寄り、動きたくないとだだを捏ねる要因となっていたお稲荷さんの祠(ほこら)も担いで救出する蔦重…。蔦屋重三郎は浮世絵の黄金期といわれる時代に喜多川歌麿、東洲斎写楽というスターを世に出したという輝かしい実績はあるものの、どんな人物だったのか、という人となりがわかる資料は限られてます。しかし、この冒頭シーンで、人情深く、力もあり、機転が利く頼りになる男、というポジティブイメージががっつりと植え付けられ、引き込まれます。さすが森下脚本です。
蔦重を演じる横浜流星さんも素晴らしい。地元を愛し、見るものがきっと将来大物になるであろう、という確信をもてるような行動力を伴った、エネルギッシュな20代の若者を見事に演じています。なにより、現代的なお顔立ちなのに日本髪のかつらが似合う(というのもルッキズムになってしまいますでしょうか)。違和感がないのです。
第1回では、その行動力が反発を買い、高橋克実さん演じる養父、駿河屋市右衛門に階段からけり落され、信頼している仲間からタコ蹴りされて巨大な木桶に閉じ込められて(桶伏せ)、見せしめにされるという憂き目にあいますが(筆者は女性たちのヌードよりこちらのほうがトラウマ)、それでもへこたれず、希望を捨てずに、まだやる。こういう人だから時代をけん引する人物となったのだ、と納得させる力がありました。
ところで桶伏せって何?
桶伏せとは、江戸時代の初期に遊郭などで行われていた死刑のひとつ。代金が払えなかったり、踏み倒そうとする客を捕らえて、顔の部分だけ四角く穴をあけた風呂桶を被せ、その上に大きな重石を乗せて動けなくして見せものにし、支払いを強制したといいます。実際、蔦重の時代には廃れていたものの、インパクトのある描写として、ドラマではあえての登場だったそうです。
第2回は第1回から何年後? 安田顕さん演じる平賀源内が登場
歌麿、写楽を売り出し、蔦重が「江戸のメディア王」といわれる発端を担ったのが「吉原細見(さいけん)」。第1回で渡辺謙さん演じる田沼意次に接見、「吉原に人を呼ぶ工夫が足りない」と言われた蔦重は、この吉原のガイドブックの序(前書き)をうまい文章を書くと評判の平賀源内に頼もうと思いつき奔走する、というのが第2回でした。史実で言うと、第1回の火事から2年、蔦重は数えで25歳になっている計算です。早い。
平賀源内といえばエレキテル、あとは「土用の丑の日」の宣伝文句を考えた人、洋画の先駆者で日本のダ・ヴィンチという異名をもつ、あたりが有名ですが、『べらぼう』では、この洒脱な天才を安田顕さんが軽やかに演じていらっしゃいます。一般に知られ、私たちが源内といえばあの姿、と思い出さずにはいられないキセルを手にする肖像画に寄せたシーンあり、男色で女形の歌舞伎役者、瀬川菊之丞と恋仲であったという逸話にもさらりと触れるシーンあり、攻めとエンタメに富んだ構成は、「生きている間にこんなNHK大河が観られるなんて」という気持ちにさせられます。
近年のテレビドラマ史の花魁役として名前を残しそうな小芝風花さん
源内に「お前さんが花魁(おいらん)の恰好をしてくれよ。それなら(吉原細見の序が)書けるんじゃないかなぁ」と迫られ、やるしかないと勢いづく蔦重との間に割って入る花魁・花の井を演じる小芝風花さんも抜群です。
近年ドラマの花魁といえば、本作を担当する脚本家、森下佳子さんの『JIN-仁-』で中谷美紀さんが演じた野風が最高峰、という向きが強いなか、気品と知性、そして逞しさと強さを備えた、色気のある花魁を見事に表現し、「野風さんとは違う派閥の花魁トップ」感満載。随所で蔦重へのほのかな思いも垣間見られて、かわいらしくもあり、かっこよくもあり、惚れ惚れです。
この花の井の機転が源内の瀬川に対する懐旧の情を呼び、蔦重は源内による「吉原細見」の序を手に入れます。吉原再建プロジェクト第一段は大成功という運び。めでたしめでたし、なのですが、そこで終わらないのが1年続く大河ドラマであり、実際、この程度で世の中が変わるわけもなく。ということで、「吉原細見」はさらにブラッシュアップされていきます。
第2回を観た人は共感してくれると思うのですが、ドラマ内で最初にペラペラとめくられ中身が映った「吉原細見」、あれ、出版素人でもこれじゃあ売れないってわかる代物です。文字しかない、書いてあるのも吉原遊郭のお店の名前と所属する女郎の名前だけという名簿のようなつくり(実際にそうだったかどうかは謎)。お客さんは使いようがありません。しかも、潰れた店は黒塗りでつぶしてあるだけという醜さで、持って歩きたいと思えない。それを蔦重がどう変えて、吉原ムーブメントを引き起こすのか…。SNS運用で利益を出したいビジネスマンへのヒントもたくさんありそう。楽しみです。
次回 『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第3回 千客万来『一目千本』のあらすじ
蔦重(横浜流星さん)は吉原細見の改(あらため)を行ったあとも、女郎たちから資金を集め、新たな本づくりに駆け回る。夢中になっている蔦重を、養父である駿河屋市右衛門(高橋克実さん)は許せずに激怒し、家から追い出してしまう。それでも本づくりを諦められない蔦重は、絵師・北尾重政(橋本淳さん)を訪ねる。蔦重と市右衛門の親子関係の行方は…。
そのころ、江戸城内では、田沼意次(渡辺謙さん)が一度白紙となった白河松平家への養子に、再び田安賢丸(寺田心さん)を送り込もうと、将軍・家治(眞島秀和さん)に相談を持ち掛ける。
※べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~第2回 吉原細見『嗚呼(ああ)御江戸』のNHKプラス配信期間は2025年01月26日 午前1:54までです。
- TEXT :
- Precious編集部
- WRITING :
- 簗場久美子
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)/『使い方の分かる 類語例解辞典』(小学館)/『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館)/『NHK大河ドラマ・ガイド べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~ 前編』(NHK出版)/『NHK大河ドラマ 歴史ハンドブック べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~ 蔦屋重三郎とその時代』(NHK出版)/『大河ドラマ べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK出版) :