俳優・岡田将生さんが出演する映画『ゆきてかへらぬ』。実は“幻の作品”として知られており、脚本が書かれたのは、今から約40年も前のことだとか。手がけたのは、『ツィゴイネルワイゼン』、『セーラー服と機関銃』など、日本映画史に名作を刻んできた巨匠・田中陽造氏。これまでも映像化が熱望されながら、さまざまな観点から実現が困難とされてきました。

しかし長い月日を経て、ついに名監督・根岸吉太郎氏が作品を完成。前作『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜』以来、実に16年ぶりの長編映画であり(ちなみにこちらも田中陽造脚本)、「滅多にない優れたシナリオ」と絶賛するほど、並々ならぬ情熱で挑んだといいます。そしてキャストは、岡田将生さんのほかに広瀬すずさん、若手注目株の木戸大聖さんといった、今の時代を担う俳優陣。世代を超えたチームで取り組んだ本作は、令和だからこそ生まれた、新しい大正ロマン作品といえるかもしれません。その一端を担う岡田将生さんは、作品にどんな思いを抱いているのでしょう。

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岡田将生さん
俳優
(おかだ・まさき)1989年8月15日、東京都出身。2006年デビュー。近年の主な出演作に、NHK連続テレビ小説「なつぞら」(19)、『ドライブ・マイ・カー』(21)、『大豆田とわ子と三人の元夫』(21)、『1秒先の彼』(23)、『ゆとりですがなにかインターナショナル』(23)、『ラストマイル」(24)、NHK連続テレビ小説『虎に翼』(24)、『ザ・トラベルナース』(24)、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(24)などがある。現在放送中のTBSドラマ『御上先生』に出演。

「小林秀雄という人物は何ひとつわからなかったし、だからこそ面白いんです」

──今回、文芸評論家の小林秀雄を演じられたわけですが、実在する人物や実話をベースにした役の場合に、気をつかっていることはありますか?

「オリジナルと比べて、より慎重になりますね。史実はありながらも、本来とは違うことを映画の中で描かないといけないときには、ほかのキャストやスタッフの皆さんと話し合いながら、つくっていくことはあります。でもこの作品に関しては、本当に脚本が何よりすべてだったので、できあがった脚本に対して向き合うという形でした」

──では自分なりの新しい解釈は、極力つけない方向で。

「どこか余白はつくるべきだとは思いますけど、そこへの意識は必要ないかなという感じですね」

どこか余白はつくるべきだとは思いますけど、そこへの意識は必要ないかな
どこか余白はつくるべきだとは思いますけど、そこへの意識は必要ないかな

──ほかに準備したことはなんでしょう。

「根岸監督から、小林さんに関しての資料をいただいたり、自分でも小林さんの著書を何冊か読んだりしました」

──岡田さん的には、どういう人だと思いました?

「いや、何ひとつわからなかったですね」

──(笑)。

「いや、わからないのが面白いんですよ。わかったら、つまらないですからね。小林さんがどういう人かと聞かれてもわからないですし、それは小林さん本人にしかわからない。僕ができることは、礼儀としてお墓に手を合わせに行くとか、そういうことだけで」

わからないのが面白いんです
わからないのが面白いんです

──なるほど。

「あとは現場で生まれるものを、大切にしようという気持ちもありました。最初に脚本を読んだときに、直感的に読み物として、本当に面白いと思ったんです。登場人物が少ない中、物語の中で緻密にキャラクターが生きているのがすごく伝わってきて、今自分が求めているものができるかもしれないという気持ちがあったのも、この映画に惹かれた理由のひとつですね」

──「今求めているもの」というのは?

「自分がやりたいお芝居やキャラクターに、『自分の中にあるけど、ないもの』をずっと探しているんですが、この小林秀雄さんという人は泰子と中原の間に入って、三角関係になるじゃないですか。その行動が、受動的なのか能動的なのか、わからないんです。それが自分とどこかマッチしている感じがして。何かを求めている、でもその代わりに何かを失ってしまうかも、というような状況に、もしかしたらどこか自分とリンクする部分が見つかるかもしれないという想いがありました。この作品に対して、それを感じ取ったのが、大きかったですね。自分がやりたいことを、改めて見つめ直すというか、考え直した瞬間でした」

自分がやりたいお芝居やキャラクターに、『自分の中にあるけど、ないもの』をずっと探している
自分がやりたいお芝居やキャラクターに、『自分の中にあるけど、ないもの』をずっと探している

──役に関して、根岸監督からは、何かアドバイスはありましたか?

「よくお話をしてくださいました。この役を引き受けたいちばんの理由は、根岸監督と一緒にお仕事することによって『これこそが映画だ』という現場を、もう一度体感したいというのがあったんです。監督は、現場に入る前も撮影中も作品に対して真摯であるんですが、まるで少年のように映画を撮っていく姿が、僕にはとても輝いて見えて。小林さんの話をするときも、全く同じなんですよ。監督が登場人物を愛でている感じが、お話している中でも、すごく伝わってきて。それが、なんかぐっとくるっていうか。『小林さんは、前髪をくるくるするクセがあったんです』というようなことを、逐一おっしゃってくださって、僕も、じゃあこのシーンだったら取り入れられるかもしれないと、自分の中で精査しながら演じていました。先ほど、自分なりの解釈は加えないという話がありましたけど、現場では、僕が余計なことをいうことが邪魔になると思っていたので、 密に話し合うより、僕が勝手に監督をずっと眺めているようにしたんです」

──そういうことなんですね。

「この脚本をもらったのも、クランクインのかなり前だったんですよ。だからすごく長い期間、忘れたり思い出したり、違う仕事をしながら、いつ作品に入れるんだろうっていう、うずうずした感覚もありました。僕はこの映画が成立して、世の中に出ることをまず望んでいたので、完成しただけでうれしかったですね」


お話の続きは、Vol.02で! お気に入りのシーンや、若手の共演者との関わり方について、語っていただきました。

◾️Information◾️映画『ゆきてかへらぬ』2月21日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

(C)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
(C)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会

文化や芸術が著しく花開いた大正時代。天才詩人・中原中也と、その恋人・長谷川泰子、岡田さん演じる文芸評論家・小林秀雄の、緊張感あふれる、独特な三角関係を描く。史実に基づいて生まれた脚本が、約40年のときを経て、奇跡の映画化を果たした。

出演:広瀬すず 木戸大聖 岡田将生
監督:根岸吉太郎   脚本:田中陽造
配給:キノフィルムズ
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EDIT&WRITING :
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