一般的なファニーフェイス系女優とは、全く違う道を歩んできた大女優

セレブ_1
2025年1月、ドイツ・ベルリンのズー・パラストで『バック・イン・アクション』特別上映会のレッドカーペットに登場。 (C)Ben Kriemann/Getty Images for Netflix

キャメロン・ディアスが約10年の休養を経て、映画界に復帰した。一度は引退宣言をしていたから、カムバックは想定外の大きなニュースとなった。それだけ愛されていたということだろう。

ハリウッドにおける唯一無二の存在、そう言っていいと思う。これほど独特な魅力を持った人はいない。これほどモテまくった女優はいない、という意味で。

少なくともこの人は、美しいけれど、古典的な美人ではない。ファニーフェイスの部類に入ると言っていい。でもおそらくは、だからこそモテまくってきたのだ。王道美人よりも遥かに。

セレブ_2
2007年5月『シュレック3』オーストラリアプレミアにて。(C)Lisa Maree Williams/Getty Images

そもそもキャメロン・ディアスは、ハリウッドにおけるファニーフェイス女優がたどってきた道からは大きく外れ、全く特別なポジションを得てきた。それは紛れもなく大美人女優の道。文字通りのスター街道をずっと歩いてきたのだ。

一般的にファニーフェイス系の女優は、代表作となる一作で注目されても、毎回主役を張れるようにはならずに脇を固めることになりがちだし、その一作がシリーズ化されるほど当たると、今度は役のイメージが強すぎて他の良い作品にはなかなか巡り会えないという運命になりがち。なのに、この人は全く違う。常に主役を張ってきた。だからこその唯一無二、まさしく余人を持って代えがたい存在なのである。

男が全員、虜になってしまう『メリーに首ったけ』という奇跡

じつはこの人、人気の出方が独特で、どんな役をやっても、その役柄のキャメロン・ディアスをみんなが大好きになってしまうという現象が起きていたのだ。

最初に注目されたのは、『マスク』。バービー人形?と見紛うほどの抜群のプロポーションにセクシーフェイス、鮮烈なデビューであった。ところが、その後すぐにブレイクすることがなかったのは逆に個性が邪魔したのか?

しかし、4年後にその時がやってくる。『メリーに首ったけ』。いわゆるロマンチックコメディと思いきや、出てくる男たちが全員メリーの虜となって、お互い騙し合い足を引っ張り合うような結構なドタバタ。障害をもネタにしてしまうような際どい内容もある、ちょっとしたブラックコメディであったのに、予想に反して大ヒットとなる。

それも、男たちが全員メリーに夢中になるように、視聴者もメリー扮するキャメロンに夢中になったから。主人公を好きになるのは、ドラマにおける自明の理とは言え、“好き”を超えてみな一様に“虜”になってしまうこのキャスティングは、奇跡的ともされたほど。

ヒロインを完全に喰ってしまった、天才的にチャーミングな敵役

かくしてこの一作でキャメロンは一躍大スターとなるのだが、それを暗示していたのが、その1年前に制作されていた『ベスト・フレンズ・ウェディング』。かつての恋人の結婚が決まり、その結婚式に招待されてしまう女性が、彼への愛を再燃させ、挙式の前に元彼を取り戻そうと奮闘するラブコメだが、ヒロインは当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったジュリア・ロバーツ。そして、 元彼の婚約者となったのが、他でもないキャメロン・ディアスだったわけだが、正直、この時のキャメロンは、明らかに主役を喰っていた。本来が、ヒロインの敵役。映画の作りとして好感を持てるはずがないのに、これがちょっと天才的にチャーミングな婚約者で、これじゃあヒロインも元彼を取り戻すことなどできないよねと、天下のジュリア・ロバーツが気の毒に思えてしまうような作品だった。

セレブ_3
『ベスト・フレンズ・ウェディング』プレミアパーティにて。左からルパート・エヴェレット、P.J.ホーガン監督、ジュリア・ロバーツ、ダーモット・マルロニー、キャメロン・ディアス。(C)Kevin Mazur Archive/WireImage

映画の好き嫌いとは別に、その中の登場人物を、同性であろうと何であろうと、どうにも好きで好きでたまらなくなってしまうことって稀にあるものだが、自分の映画鑑賞歴において、脇役であるはずの『ベスト・フレンズ・ウェディング』におけるキャメロン・ディアスはそういう意味で3本の指に入るほど。

可愛ぶるのではなく可愛い、人間が可愛いって、こういうことなのだというお手本のような可愛さ。演技力も半端じゃないのか、とても演技に見えないから、彼女自身の魅力として見るものを虜にしたのだろう。

こうして『メリーに首ったけ』という、 出る人も観る人も全員彼女に首ったけになる映画が成立し、大成功を収めたのである。キャメロン・ディアスってそういう女性なのだ。

モテまくった理由は、これ!可愛げと包容力、両方を持つこと

その後もモデル出身の資質が生かされ、ハリウッド随一の”洗練された美女”担当、『チャーリーズ・エンジェル』『ホリデイ』や『悪の法則』まで、誰よりもお洒落系の女子役が上手い女優として君臨した。この人は顔立ちにも、古典的美人には生まれにくいモード感を備えていて、全身からセンスが溢れているその感じが、女性をも虜にし、ハリウッドで大成功したひとつの要因なのだろう。

セレブ_4
2000年、ラスベガスのパリ・ホテルにて。映画『チャーリーズ・エンジェル』で共演した主役の3人。左からルーシー・リュー、キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア。(C) Jeff Kravitz/FilmMagic, Inc

ところが10年前、結婚を機に家族との時間を最優先したいと休業、途中引退も宣言したが、後のインタビューでこんなふうに語っている……いつも鏡の前にいなければいけない状況が嫌だった。そこから解放されただけでも幸せ。女優を辞めてからは一日一度も鏡を見なかったり、何の美容もしなかったり。家に10億個もコスメがあるのにね、と。

これは推測に他ならないが、40代に入り、自分自身だけに限らず、女優たち全般が見た目の変化をあれこれ言われることに疲れたこともあったのだろう。特に美しさを絶賛されてきた人は、往々にして40代からの変化に、自分が傷ついていきがち。結局のところ、ハリウッドも外見至上主義だったと言うことに改めて打ちのめされるのだろう。

しかし、休養中のすっぴんのキャメロン・ディアスが、あまりに素敵ということで、世間は改めて彼女を好きになる。目尻のシワも気にせず、大笑いする彼女に、やっぱりこの人は最高! と。

セレブ_5
2020年5月3日にオンラインで開催されたRuPaul's Digital DragCon(ルポールデジタルドラッグコン)でのキャメロン・ディアス。(C)World of Wonder/Getty Images for World of Wonder

そして今52歳となったキャメロンは、何か吹っ切れたようにとても生き生きして見える。自分の年齢を乗り越えたということだろうか。そしてこの人が、『ベスト・フレンズ・ウェディング』の時から見え隠れさせてきた不思議な魅力の正体もまた、今ここで明快になった。包容力である。人をふわっと包み込む押し付けがましくない包容力。

モテまくる人のモテくる理由を、この人は映画の中で存分に教えてくれた。事実、周りの男たちはみんなこの人に夢中だったから。ともかく、たまらなく魅力的と。おそらくは王道美人には醸し出せないもの、”天性の可愛げ”という強烈な引力と、人を心地よく包み込む包容力の両方を持っていたからこそ、ここまでモテまくったに違いないのだ。まさしく、映画の中のメリーのように。

この記事の執筆者
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『大人の女よ!も清潔感を纏いなさい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。好きなもの:マーラー、東方神起、ベルリンフィル、トレンチコート、60年代、『ココ マドモアゼル』の香り、ケイト・ブランシェット、白と黒、映画
PHOTO :
Getty Images
WRITING :
齋藤薫
EDIT :
三井三奈子