『タイタンの妖女』『スローターハウス5』などのSF作品で知られる、現代アメリカ文学を代表する作家の人生を描いた評伝。人間社会に対する諦観を、諧謔に満ちあふれた文章で描いたヴォネガットだが、何故そのような作品を書くに到ったかに思いを馳せながら読むと興味深い。

現代アメリカ文学の巨匠の諦観の人生を描く

人生なんて、そんなものさ

『人生なんて、そんなものさ』 チャールズ・J・シールズ著 金原瑞人、桑原洋子、 野沢佳織訳 柏書房 ¥2,940(税込)

わたしはアメリカの作家のなかでカート・ヴォネガットがいちばん好きである。ドイツ系アメリカ人のアッパーミドルクラスに生まれたカートは、第二次世界大戦で祖国ドイツと戦い、ドレスデンで捕虜になった。美しい古都、ドレスデンが連合軍に爆撃されることはないと高をくくっていた矢先、町は一夜にして壊滅された。カートたちは地下にいたのでその悲惨な光景は、翌日地下から出されて初めて知るのだった。そのときの情況は、映画化されて大ヒットしたヴォネガットの代表作『スローターハウス5』のなかで、SF仕立てに、クールに描かれている。晩年の傑作『国のない男』もSFの世界を標榜しているが、純粋なSF作品ではない。諧謔とエスプリを混ぜ込んだみごとなエッセイといえるだろう。

本書『人生なんて、そんなものさ』(チャールズ・J・シールズ著)は、そんなカート・ヴォネガットの、まさに波瀾万丈な人生を描ききった評伝である。カートが1922年11月11日に産声をあげてから2007年4月11日に死ぬまでの実人生を綿密に取材して克明に綴っている。巻頭の豊富なスナップ写真も面白い。

カートには8歳年上の兄、バーナードがいた。後年、ゼネラル・エレクトリック社の研究所で高級エンジニアとして頭角を現すことになるバーナードは、子供のころから実験好きで、両親のベッドの下にマイクを置き、ワイヤーでつないでテープレコーダーで大人のセックスを録音するという実験をする。その実験結果から、弟・カートに向かって「おまえは事故だった」と告げる。もちろん、まだ7歳だったカートはその意味がわからず、混乱し、怖くなった。このことがトラウマとなって、カートに一生つきまとうことになる。

カートは二十歳で陸軍に入隊する前から、ジェインという才媛の恋人がいた。終戦後二人は結婚し、3人の子供をもうける。そのころ義兄(姉の夫)が列車事故で亡くなり、そのわずか36時間後には、今度は敬愛してやまない、その姉自身をも癌で失う。まだ作家として名をなす以前のカートは、姉の遺した子供たちを引き取り、大家族で暮らさなければならなくなる。その後、ようやく作家としての名声を得たころ、今度は、糟糠の妻ジェインと別れ、ニューヨーク在住のフォトジャーナリスト、ジルと再婚することになるのだが、このジルがカートの交友関係にまで口を挟む悪妻ぶりを発揮する。

わたしは「人生は恐ろしい冗談の連続である」と、自分の作品のなかで何度も書いてきたが、カート・ヴォネガットの作品には、本書のタイトルでもある「人生なんて、そんなものさ(And So ItGoes)」という常套句がある。次から次へと不幸や苦労が押し寄せてくるカートの人生であったが、そんな波乱に満ちた人生を諦観しながら生きた、アメリカ現代文学の巨匠の切ない生涯が、手に取るようにわかる快作といえるだろう。 文・島地勝彦

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2013年冬号、巻頭コラムより
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撮影/唐澤光也(パイルドライバー)
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