「シャネル・ネクサス・ホール」にてインド出身のアーティスト、プシュパマラ N 氏による展覧会『Dressing Up : Pushpamala N』開催

芸術をこよなく愛し、アーティストたちを支援しつづけたことでも知られる “ガブリエル シャネル” の精神を受け継ぎ、2004年にオープンした「シャネル・ネクサス・ホール」。展覧会やコンサートなど、注目のアーティストによるさまざまな企画展が開催されています。
昨年、開館から20周年を迎え、これを記念してアジアのアーティストにフォーカスした展覧会シリーズを展開。今年、シリーズ第二弾となるインド出身のアーティスト、プシュパマラ N(Pushpamala N)氏による写真展が開催されます。見どころなどを詳しくご紹介します。
作品は、ニューヨーク近代美術館、テート・モダン(ロンドン)、MUCEM(マルセイユ)、Jimei x Arles国際写真祭(厦門)、第66回ベルリン国際映画祭、ヴォルフスブルク美術館、Museum of Art and Photography(バンガロール)、バンクーバー美術館、フォトフェスト(ヒューストン)、チョビ・メラ(ダッカ)、釜山ビエンナーレ、コチ=ムジリス・ビエンナーレなどで展示。チェンナイ・フォト・ビエンナーレ2019のアーティスティック・ディレクターを務める。
プシュパマラ N (Pushpamala N) 氏による展覧会『Dressing Up : Pushpamala N』
プシュパマラ N氏は、インドのバンガロール(現ベンガルール ※)を拠点に活動するアーティストで、もともとは彫刻家としてアーティスト活動をスタート。次第に創作活動を写真や映画へと移行し、1990年代半ばからは、自らがさまざまな役柄に扮して示唆に富んだ物語を作り上げる【フォト・パフォーマンス】や【ステージド・フォト】の創作を開始しました。その作品は、女性像の構築や、国家の枠組みを探求するもので、美術史、アーカイブ資料、大衆文化から引き出された象徴的なイメージなどが丹念に再現されています。

2025年6月27日(金)より開幕となる本展覧会は、プシュパマラ N 氏の作品を代表する3つのシリーズ〈Phantom Lady or Kismet〉、〈Return of the Phantom Lady〉、〈The Navarasa Suite〉が展示されます。
これらはインド映画の『黄金時代』に登場する典型的な女性キャラクターに着想を得た作品で、インドにおけるジェンダー観に鋭く切り込んだ内容に注目です。展示される3つのシリーズの見どころについて、それぞれ解説していきます。
〈Phantom Lady or Kismet〉ファントム レディあるいはキスメット


〈Phantom Lady or Kismet〉は、プシュパマラがフォト・パフォーマンスという表現手法を探求し始めた最初
の作品シリーズ。24枚のモノクロ写真で構成されており、フィルム・ノワール時代の映画的描写をパロディ化した、いわば “フォト・ロマンス” の冒険譚が見どころです。


かつてボリウッドの人気アクション映画や1936年にニューヨークで初出版された後1940年代に『The Illustrated Weekly of India』誌でも掲載されたコミック『Phantom』からもインスピレーションを得ており、プシュパマラが双子の女性主人公二役を演じ分けます。
仮面をつけ、怪傑ゾロにインスパイアされた『ファントム レディ』は、行方不明になった双子の妹ヴァンプをムンバイの暗黒街から救い出そうとします。
この仮面のヒロインに扮することは、視覚文化、フェミニズム、表象、そしてインドの歴史といった重要なテーマにフィーチャーすることを意味し、深層心理を描写するフィルム・ノワールの美学を取り入れつつ、1930年代~40年代にかけて活躍した俳優やインド女性たちへのオマージュが込められています。
〈Return of the Phantom Lady〉帰ってきたファントム レディ

〈Phantom Lady or Kismet〉の続編となるのが、この〈Return of the Phantom Lady〉シリーズ。おなじみのヒロインが再登場し、現代のムンバイを舞台に、殺人、陰謀、悪事の巣窟を解き明かしていきます。
ミステリー小説のカバーページの大胆な色調を思わせるカラー写真21枚からなるシリーズ作品で、プシュパマラが再び『ファントム レディ』を演じ、歴史ある映画館や古びたカフェを巡りながら、孤児である少女を救出すべく奔走します。


現代の映画における、今も変わらないインド社会の描写についての考察を促すと共に、かつて冒険の舞台となった情緒あふれるムンバイの街並みが失われ、再開発により変貌を遂げた都市についても言及する内容となっています。
〈The Navarasa Suite〉ナヴァラサ スイート

from the series Bombay Photo Studio, 2000-2003
(C)Pushpamala N

from the series Bombay Photo Studio, 2000-2003
(C)Pushpamala N
〈The Navarasa Suite〉は、インド美学における9つの感情【「ラサ」すなわちShringara(恋情)、Adbhuta
(驚き)、Hasya (ユーモア)、Bhayanaka (恐怖)、Bhibhatsa (嫌悪)、Karuna (悲しみ)、Raudra (怒り)、Veera (勇敢)、Shanta (寂静)】に基づく、緻密な演出が組みこまれた一連のセルフ・ポートレイト作品となります。
1950~60年代のインド映画黄金時代に活躍した、著名な俳優であり写真家のJ H タッカー 氏のフォトスタジオで、3年の月日をかけて制作されたこのシリーズ。
「(J H タッカーの)初期のバロック様式を用いることで、リアリズムよりもファンタジーや物語性を扱ってきた、あまり注目されてこなかったインドの写真史を探求しようとした」とのコメント通り、プシュパマラの機知に富んだアプローチだけでなく、インド映画が「インドの近代性を創造し記録してきた」という、彼女の鋭い社会批評性も垣間見える作品に仕上がっています。
歴史的・文化的な背景を持つイメージをあえて再現することで、その成り立ちを浮き彫りにし、観る者に「真実とは何か」を問いかける、プシュパマラ N氏による展覧会『Dressing Up: Pushpamala N』は、2025年6月27日(金)より東京・銀座3丁目の「シャネル・ネクサス・ホール」にて開催されます。
展覧会詳細について、また来館前は下記、公式ウェブサイトにアクセスして事前チェックをお忘れなく!
プシュパマラ N 氏 展覧会『Dressing Up : Pushpamala N』
会期:2025年6月27(金)〜 8月17日(日)
時間:11:00〜19:00(最終入場 18:30)入場無料・予約不要
7/10(木)・24(木)は17:00閉館(最終入場16:30)
会場:シャネル・ネクサス・ホール(東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F)
問い合わせ先
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- EDIT&WRITING :
- 松野実江子(Precious.jp)