
うれしさ半分、プレッシャー半分。さて、この膨大なセリフをどうやって覚えるか
――三谷幸喜氏が脚本と監督をつとめ、一度もカメラを止めず「完全ワンシーン・ワンカット」で制作する長編ドラマは、挑戦的で難易度の高い試みとして業界内外で知られています。第一弾は2011年放送の『short cut』、第二弾は2013年の『大空港2013』。そして待望の第三弾である『おい、太宰』が6月29日に放送・配信されます(すべてWOWOW)。
12年ぶりのシリーズ復活を、実は誰よりも待ち望んでいたのが、主演の田中 圭さん。特殊な撮影方法、膨大なセリフ、それでいて高い完成度…。その過程はどのようなものだったのでしょうか。
田中(以下敬称略)「三谷監督の作品には、かつて映画と舞台で出演させていただきましたし、もちろんほかの作品も拝見しています。プライベートでも偶然お会いすることもあり、そこでご挨拶をさせていただいたことも。その際、このシリーズが大好きだということを伝えたら、三谷さんから『オファーしてもいいですか?』と。『ぜひ!』と返事してからしばらくたって今回のお話を聞いたときは、うれしさとプレッシャーが半端じゃなかったです。
台本を読んでみれば、とにかく面白い! ただ、この膨大なセリフをどうやって覚えるのか、大きな課題が立ちはだかりました。もし間違えたら全員がイチからやり直しだし、あたふたした様子は映像に残ってしまいますし…」

――その課題をどのように乗り越えたのでしょう?
田中「まず、準備稿(最終的な台本<最終稿>の前段階の台本)を受け取ってすぐ、覚え始めました。特別なやり方はなくて、とにかく何回も読んでひたすら覚えるしかありません。
そこから約1か月後、スタジオでのリハーサルを8日間。出演者の皆さんで本読みをし、三谷さんが演出をして、シーンごとに動きを決めて。どの場所でどう動き、どのセリフを発して、そのときの感情は…それを何度も繰り返す。この練習なしに、このドラマは成り立ちません。
で、本番前の3日間、撮影現場でリハーサル。舞台となったのは伊豆の海岸でしたが、これが室内で想定していたのとは全然違って! 予想していなかった状況がたくさんありました」
汗だくのこちらに対して、津軽弁を繰り出してくる松山ケンイチさん、次は何をやってくるんだろう?

――撮影本番で予想していなかった状況とは…たとえば?
田中「シチュエーションが海辺ですから、舞台はその日の潮位によって変わります。昨日は浜辺があって歩けたけど、今日は潮が満ちて浜辺のトンネルが通れない、なんてこともありました。雨天で中止になったこともあったし、晴れていい天気だと思ったら、暑すぎて僕が滝汗をかくし(笑)」
――汗だくの田中さん、そして髪の毛も服もストーリー展開と同時に乱れていく田中さん。どれも本作の見どころになりました。
田中「演じるほうは、必死でしたけどね。見る方にとって、面白いものになっていればいいなと思います。もうひとつ見どころといえば、台本では標準語で書かれている太宰 治のセリフが、松山さんのアイディアで津軽弁になっているところ。しかも、やりながら本番で太宰が突然動きを変えてきたり。次は何をやってくるんだろうと、ヒヤヒヤしていました。でも、セリフも動きも三谷さんの演出どおり。間違えやハプニングも、なかったと思います」

と、終わってみればプロフェッショナルな面々の見事な演技で、息つく暇もない100分ドラマの出来上がり! それは、新たな三谷幸喜ワールドであり、田中圭さん“らしさ”の集大成。やり遂げた今、大変だったことは忘れかけているようで…。
田中「やー頑張った、楽しかった! もうすべてが楽しかった。感想はそれに尽きます。だから、見る方にも楽しんでもらえると信じています!」
ドラマW 三谷幸喜『おい、太宰』はWOWOWにて2025年6月29日午後10時放送・配信。 インタビュー後編にもご期待ください。
WOWOW・ドラマW 三谷幸喜『おい、太宰』

三谷幸喜:脚本と監督で、構想に約10年の月日をかけ、昨年秋にオールロケで撮影された。舞台となるのは、小室夫婦(健作<田中 圭>・美代子<宮澤エマ>)が迷いながらたどり着いたある海岸。そこは、かつて太宰治が心中未遂を起こした場所らしい。太宰ゆかりの地に興奮した健作は、暗い洞窟を進んでいく…。その先にいたのは、太宰治にそっくりな男(松山ケンイチ)! これはタイムスリップなのか、なんなのか。
100分間出ずっぱりの田中圭、太宰の恋人でおちゃめな矢部トミ子を演じた小池栄子、リアルな夫婦のやり取りが見事な宮澤エマ、1人で3役を演じた梶原善、津軽弁でユーモアたっぷりの松山ケンイチ。個性際立つ俳優陣にも注目!
WOWOWにて2025年6月29日午後10時放送・配信
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 高木亜麗
- STYLIST :
- 荒木大輔
- HAIR MAKE :
- 岩根あやの
- WRITING :
- 南 ゆかり