目黒駅から徒歩圏内にありながら、緑に囲まれた「ホテル雅叙園東京」。東京都指定有形文化財「百段階段」では、「時を旅する福ねこ at 百段階段~平安、江戸、大正、昭和、そして現代へ~」を2025年6月15日(日)まで開催しています。

愛らしい表情や仕草、自由気ままな姿などさまざまな人の心を捉え、魅了し続ける猫。猫を愛し、猫に魅せられた新旧のアーティストの作品が集まり、各部屋ごとに異なるテーマで展示されています。
本展示を鑑賞したライターがその魅力をレポートします。
さまざまな猫の魅力が満載!ホテル雅叙園東京の「時を旅する福ねこ at 百段階段~平安、江戸、大正、昭和、そして現代へ~」観覧レポート
■1:「日本一の愛猫家」と呼ばれた作家の活動を凝縮した「河村目呂二(めろじ)×大正ロマン、昭和モダンねこ」/十畝(じっぽ)の間

まずは、天井に描かれた日本画家・荒木十畝(じっぽ)の花鳥画が目を惹く「十畝の間」へ。展示のテーマは「河村目呂二(めろじ)×大正ロマン、昭和モダンねこ」、大正から昭和にかけて活躍した芸術家・文筆家の河村目呂二の作品やコレクションから、彼の活動を知ることができます。

目呂二の交友関係をまとめた「河村目呂二の相思相愛相関図」には、版画家の棟方志功や、小説家の堀辰雄、俳人の尾崎放哉、童画家の武井武雄といった名前が…! 相関図の大きさから、目呂二が友人たちから愛される人物だったことが伝わります。
目呂二は猫好きとしても知られていて、「日本一の愛猫家」「ねこの先生」と呼ばれたと言います。妻のすの子とともに猫にまつわるものを蒐集し、猫についての文章を発表するほか、絵画や彫刻を制作していました。

張子や土人形、海外土産など、素材やデザインも多様な猫を蒐集していたという目呂二。コレクションの中から100種を選んでミニチュアに仕立て、好事家に頒布したのが「趣味の猫百選」です。
細かい部分までしっかり鑑賞したい方は、猫と同じ目線になるのがおすすめです。

香箱を組んでリラックスした状態の猫がなんともかわいい「猫あんか」。実は本物の暖房器具で、猫の背中から墨を入れて使えるそう。
ほかにも、目呂二が購入したり、人から贈られりした猫の玩具を文字とスケッチで記録した「買い猫帖」や、目呂二の妻・すの子が製作した小さな「変わり雛」など、見どころがたくさん。ぜひゆっくり鑑賞してくださいね。
■2:物語に登場する猫のさまざまな表情をチェック「小澤康麿×平安文学のねこ」/漁樵(ぎょしょう)の間

続いて、文化財「百段階段」の中でも一際華やかな「漁樵(ぎょしょう)の間」へ進みます。
文学作品にはさまざまな猫が登場しますが、ここでスポットを当てたのは「平安文学のねこ」。作品ごとに展示されているのは、造形家の小澤康麿氏が本展示のために制作した本物と見紛うばかりの猫たちです。

『源氏物語』の「若菜上」巻のあるシーンを再現した展示も。東の中将の長男・柏木は光源氏の正妻・女三の宮に思いを寄せます。女三の宮が暮らす六条院で蹴鞠が行われた際、猫が御簾を巻き上げてしまい、柏木は女三の宮の姿を目にします。そして、柏木はさらに恋心を募らせてしまいます……。
猫が物語のカギとなる有名な一幕を、ぜひ展示で体感してください。

黒い壁で仕切られた小部屋に入ると、ほかの展示とは少し異なる表情をした猫たちの姿が目に入ってきました。『今昔物語』にのっている物語「猫怖じの大夫(ねこおじのたいふ)」の展示です。
お金持ちなのに米を納めない地方豪族の大夫をこらしめようとした国司は、大夫の苦手な6匹の猫と一緒に部屋に閉じ込めてしまいます。かわいいだけではない、さまざまな猫の表情をぜひ会場でチェックしてくださいね。
■3:本展示のために22名のアーティストが制作した作品を鑑賞できる「その時 猫は見た!」/草丘(そうきゅう)の間

「草丘(そうきゅう)の間」では、「その時 猫は見た!」をテーマに22名のアーティストが制作したストーリー性のある作品を鑑賞できます。

ぷっくりとした形状とカラフルな色合いが目を引く「エイリアン キャット」。猫型のUFOに乗って小さな公園にやってきた猫エイリアンは、その姿をボス猫「ボブ」に見られてしまいます。
展示にボブの姿はありませんが、見えないからこそボブの驚いた表情を想像してクスッと笑ってしまいそうになります。

「吾輩は猫である」では、夏目漱石が猫の姿になってしまったのを猫(吾輩)が目撃するというなんともおかしい作品。ポーズや口ひげから、猫になってもすぐに漱石先生だとわかりますね。
ほかにも、猫の習性を表した作品やじっとこっちを見ているかわいらしい猫、『源氏物語』の女三の宮が猫の姿になっている作品などもあり、さまざまな角度から猫の魅力を再発見できます。
■4:猫がさまざまな時代を行き来する「ナカムラジン×時を旅する吉祥ねこ」/静水(せいすい)の間

「静水(せいすい)の間」のテーマは「ナカムラジン×時を旅する吉祥ねこ」。日本の伝統的な吉祥アイコンの招き猫が、現代美術家のナカムラジン氏の手でさまざまな時代へ行き来する様子を目にすることができます。

猫が時空を超えているようなシルクスクリーン作品。よく見ると、招き猫の手からビームのようなものが出ていたり、ネズミを捕まえていたり。見れば見るほど発見があって面白いですよ。

落ち着いた色味により惹きつけられる「瀬戸ヌーボー招き猫」も、細部にさまざまなモチーフが施されています。黒とゴールドの組み合わせが美しい「九谷ヌーボー招き猫」もあるので、好みの招き猫を見つけるのも楽しいですよ。
■5:猫を通じて江戸の文化を知れる「粋、洒落、人情×江戸の浮世絵ねこ」/星光(せいこう)の間

「星光(せいこう)の間」は「粋、洒落、人情×江戸の浮世絵ねこ」をテーマに、浮世絵・おもちゃ絵コレクション(則武コレクション)と石渡いくよ氏の創作人形のコラボレーションを展開しています。

火消しや花魁、蛍狩りをする子どもたちの姿もあり、江戸の文化に触れることができます。表情豊かな猫たちを見ていると、今にもにぎやかな声が聞こえてきそう。
浮世絵作品からは、江戸時代の人と猫との関係性を知ることができます。平安時代は貴族にかわいがられていた猫も、江戸時代になると庄屋や長屋で飼われるように。養殖や羽子板職人の家のネズミよけの役割を担うなど、人々の暮らしに欠かせない存在になっていることが伝わります。
浮世絵作品は撮影NGとなっています。会場でじっくりご鑑賞ください。
■6:古きよき昭和を猫が彩る「昭和レトロ世界 × 昭和懐かしねこ」/清方(きよかた)の間

「清方(きよかた)の間」は、「昭和レトロ世界 × 昭和懐かしねこ」をテーマに有田ひろみ氏・ちゃぼ氏と目羅健嗣氏の作品を展示しています。
「昭和ほのぼの商店街」は、有田ひろみ氏の墨絵と、その絵を元にフリーハンドで布を切り、ぬいぐるみを作るちゃぼ氏の共同作品。商店街で店を営む猫と買い物をする猫が柔らかいタッチで描かれており、さらにその絵から飛び出してきた猫たちのなんとも言えない愛くるしさ。思わず「かわいい!」と声が漏れてしまいました。

レトロなガラス作品は、文化財「百段階段」の窓枠とよく合います。個人的には、コーヒー牛乳やいちごミルクのパックを持つ猫の手のかわいさに惹きつけられました。

続いては、猫絵師の目羅健嗣氏による「キネマメラノ座」へ。手前には、映画「猫武者」(監督・猫澤明)の撮影に使われた兜があり、部屋の奥には顔を出して撮影できる「怪傑猫頭巾(顔はめ)」も設置されています。

映画のポスターが貼られている箇所も。タイトルはもちろん、監督や出演者もすべて猫。元ネタがわかるとより楽しめそうですね。
実は、これらのポスターは、すべて色鉛筆で描いているそう。また、猫の絵もデフォルメすることでより猫らしく見せるような工夫もしているとのことです。

こちらは加藤豊氏が海外のマッチラベルや明治20年から昭和35年までに商標登録された猫のマッチラベルなどを集めた「猫のマッチラベル」。猫が人々を魅了し、愛されていることがわかります。
■7:猫の瞳に魅了される「よねやまりゅう × 未来へ旅立つねこ」/頂上の間

99段の階段を上りきり、いよいよ最後の「頂上の間」に着きました。「よねやまりゅう× 未来へ旅立つねこ」を展示テーマに、造形作家・人形師のよねやまりゅう氏が手がけた幻想的な作品が並びます。

未来はどうなっていくのかが見えず、混沌を極める世界でも、猫は変わらずに人間の側にいる。今この瞬間を生きる猫たちを未来の道しるべとして共に旅立とう、というメッセージが込められているそうです。

よねやま氏が生み出す猫たちは、野生の力強さと凛とした美しさを兼ね備えていますが、特に印象的なのが目です。吸い込まれそうな魅力と未来のことをすべて見通しているような頼もしさを感じます。
すべての作品を鑑賞し、階段を下りる途中でまさかの隠し猫を発見! ぜひ会場で探してみてくださいね。
猫に始まり猫に終わる、まさに猫づくしの本展示。猫はどんな姿を切り取っても絵になること、文化財と相性がいいことを実感しました。会期終了まであと少しのため、気になる方は早めに足を運ぶことをおすすめします。
問い合わせ先
- ホテル雅叙園東京
- 「時を旅する福ねこ at 百段階段~平安、江戸、大正、昭和、そして現代へ~」
- 開催期間/〜2025年6月15日(日)
- 開催時間/11:00〜18:00(最終入館17:30)
- 休館日/なし
- 料金/大人 ¥1,600、大学生・高校生 ¥1,000、小学生~中学生 ¥800
- TEL:03-5434-3140(イベント企画 10:00〜18:00)
- 住所/東京都目黒区下目黒1-8-1
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- TEXT :
- 畑菜穂子さん ライター
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- EDIT :
- 小林麻美