【目次】
【「光化学スモッグの日」とは?「由来」】
1970(昭和45)年の7月18日、日本で初めて東京都杉並区で光化学スモッグが発生しました。この日に被害を受けたのは都内で5200人、埼玉県で407人。
眼に刺激を感じ、呼吸困難を訴える人もいました。この症状の原因が光化学スモッグだと断定された根拠はふたつあります。
ひとつはこの日の国設東京測定所のオキシダント濃度が著しく高濃度だったこと。そしてもうひとつが、「二酸化窒素濃度のピークのあとオキシダント濃度が上昇し始め、オキシダント濃度がピークに達すると、二酸化窒素濃度は最小になる」という典型的光化学スモッグ時の反応パターンが認められたことです。そして、7月18日は「光化学スモッグの日」とされています。ただし、誰がいつ制定したものかは不明です。
【「光化学スモッグ」とは?】
■光化学スモッグとは?「概要」
自動車の排出ガスや工場の煤煙などに含まれる窒素酸化物や炭化水素が、太陽の強い紫外線を受けて光化学反応を起こすと、光化学オキシダント(酸化性物質)と呼ばれる物質を発生させます。すると、気象条件によっては、この光化学オキシダントが大気中にたまり、白くもやがかかったような状態になることがあります。この状態を「光化学スモッグ」と呼びます。
■「症状」と「予防」
光化学スモッグが発生すると、目がチカチカしたり、喉に痛みを感じる場合があります。特に、子どもや気管支などに疾患がある人が屋外で活動している場合、影響を受けやすいといわれています。
現在、光化学スモックに対する注意報や警報を発令するのは、都道府県の環境局や保健所です。たとえば東京都の場合なら、東京都環境局環境改善部大気保全課が、発生状況を公開しています。そのほかの地域では、各都道府県の環境部門や保健所が担当しています。被害が発生した場合の体制は、保健所が中心となって、学校、地区医師会等関係機関と連携を図り、被害届の受理、現地調査などを行います。
予防としては、野外での激しい運動を避ける、不要不急の外出を避ける、室内にいる場合には窓を閉めるといったことが推奨されています。
■もしも健康被害を受けたと感じた場合は…
ただちに屋外での活動は中止しましょう。
・眼の症状には
まずは、水道水で眼を洗いましょう。20分から30分で症状が軽快せず、眼痛などが持続する場合は眼科を受診しましょう。また、点眼薬をつけるときは、水道水で眼を洗った後、あらかじめ眼科医の指示を受けた点眼薬を使用しましょう。
・ 咽頭症状には…
水道水でうがいをしましょう。
眼を洗っても、うがいをしても様子が変わらないときや、息苦しさを感じたり、胸が苦しくなったときは、医師の診察を受けましょう。市区町村の保健所や環境保全課などに連絡するのも有効です。
【PM2.5 との違い】
光化学スモッグとPM2.5は、どちらも大気汚染物質ですが、発生原因と影響が異なります。
大気中には、常に綿ぼこり、土ぼこり、花粉、黄砂などいろいろな粒子が浮遊しています。そうした粒子の中で、粒径2.5μm以下の大気中に浮遊する非常に小さな粒子状物質(髪の毛の太さの30分の1程度)をPM2.5と呼んでいます。このような非常に小さな粒子は肺の奥深くまで入り込みやすく、呼吸器系や循環器系への影響が懸念されることから、2009(平成21)年9月9日に環境基準が設定されました。
PM2.5に関しても、都道府県の環境部門や保健所が対応窓口となっています。
【なぜ夏に発生やすい?】
光化学スモッグは、日差しが強くて気温の高い、風の弱い日に発生します。こうした条件が揃いやすいのが、4月から10月。特に、太平洋高気圧に覆われる7月から8月は、気温も高く紫外線も強く安定した天気が続くため、光化学スモッグが発生しやすい気象条件となります。
【近年の発生状況】
1970年代に、深刻な社会問題となった大気汚染への対策としては、1968(昭和43)年に大気汚染防止法が制定され、さらに1969(昭和44)年より大気環境基準の設定が行われ、大気汚染物質の排出規制、全国的な大気汚染モニタリングの実施等を行っています。
現在では、自動車に窒素酸化物NOx(NO、NO2)を除去する自動車触媒が積まれるようになった結果、排気ガス中の窒素NOxが激減し、同様に光化学スモッグ被害も減少したといわれています。実際に、たとえば東京都では、2016(平成28)年以降、光化学スモッグ注意報が出される回数は毎年ひと桁のペースとなっており、被害を届け出た人も、2014年以降確認されていません。
【光化学スモック注意報が出たときの外出対策は?】
最後に、光化学スモッグに対する東京都保健医療局からの注意喚起をご紹介します。
(1) 注意報等が発令されたときは、なるべく屋外へ出ないようにしましょう。また、屋外での運動は中止し、屋内へ入りましょう。屋内においても風向きに注意して、窓を閉める等の措置をとりましょう。
(2) 気管支ぜん息の既往症のある方、乳幼児、高齢者、病弱の方などは、健康な成人よりも影響を受けるおそれがあるので注意しましょう。
(3) 白くもやがかかって、視界が見えにくくなった場合などは、運動を中止し、屋内に入るなど十分注意しましょう。
(4) 光化学スモッグの被害によると思われる眼、のどなどの症状を感じたときには、最寄りの保健所に速やかに連絡しましょう。
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光化学スモッグ被害の減少に大きく貢献したのが、自動車触媒。これは排気ガスに含まれる窒素酸化物を、燃料と酸素を用いて分解する触媒です。人類はテクノロジーの発展により光化学スモッグを発生させ、テクノロジーの発展によって光化学スモッグを減少させていたわけですね。環境に優しいと注目された電気自動車(EV)も、実は製造時や電力供給の面で環境負荷があるという指摘があります。さまざまな問題への結論を導き出すためには時間が必要ですが、私たちはその過程を見つめる関心を、常にもち続けていたいものです。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /独立行政法人 環境再生保全機構(https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/rekishi/03_04.html) /東京都保健医療局(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kankyo/kankyo_eisei/taiki/smog/qa) :