日本料理の名店が鉄板焼きを手掛ける理由
懐石料理・鮨など4タイプのダイニングを擁する「GORA KADAN FUJI」ですが、異彩を放っているのは、やはり「FUJI KANDA」。世界にもその名を轟かせる日本料理人である「かんだ」神田裕行さんが、なぜ鉄板焼きを?その理由は「革新的でありつつ素材の本質を捉えた、今までにない鉄板焼きを」というチャレンジ精神、そして「ハイブリッドビーフ」という、新しい価値観のもとに生まれた牛肉の存在を広めたいという情熱にありました。
「鉄板焼きと名乗ってはいますが、イメージしているのは“鉄板もあるカウンター割烹フレンチ”。そして自分が携わる以上、素材のクオリティは細部に至るまで妥協せずに。また、鉄板があるからこそできるパフォーマンスの楽しさも追求したい」と神田さん。パリの割烹料理店で働いた経験を持ち、フレンチにも通じている神田さんならではのコンセプトです。そして、それを具現化するのが、料理長の加納浩一さん・浅田和秀さんです。加納さんは、老舗ホテル「パレスホテル」やアルザス地方の名店の流れをくむ「オーベルジュ・ド・リル ナゴヤ」などで腕をふるってきた経験を見込まれ、シェフに抜擢されました。そして浅田さんは「ホテルニューオータニ幕張」や新宿「ハイアットリージェンシー東京」、さらに鉄板焼専門店である「ビフテキのカワムラ」で習得した技術を買われてこちらへ。
そして、神田さんが今、注目している素材が鹿児島・浅沼畜産が肥育監修する「ハイブリッドビーフ」。上質な黒毛和牛と乳用牛を掛け合わせることで、赤身の旨味と程よいサシという、大人が牛肉に求める2つの要素を兼ね備えた新たなブランド牛です。また「一般的には“交雑牛”と呼ばれるハイブリッドな牛肉の価値を高め、食肉業界を盛り上げる」というミッションも。“食べる人にも育てる人にも優しい牛肉”なのです。
シャンパーニュやワインが似合う、美しい前菜
ではここから、コースの中でも、ひときわ印象的なお料理をピックアップしてご紹介。1品目となるアミューズは、美しい色合いが印象的なプレミアムなニジマス「紅富士」を主役に。ミネラル豊富な富士の湧き水で育った4kg以上の個体を仕入れています。これに合わせるのが、鉄板で焼き上げる熱々のブリニ、そしてこちらもプレミアムな「三ツ星キャビア」社の別注キャビアです。「和食に合うよう、フレッシュ感のあるキャビアがほしい」という神田さんの依頼のもと塩分を控えめにし、熟成期間を短くしているのだそう。ジュエリーのように華やかなアミューズに心躍ります。
次にご紹介するのは、料理長の技が光る出汁巻き卵。ストレスフリーな環境で育った御殿場「杉山養鶏場」の「さくら玉子」に「かんだ」仕込みのふくよかな味わいの出汁、そしてフランスのM.O.Fチーズ熟成士のロドルフ・ル・ムニエが手掛ける濃厚な風味を持つ発酵バターを合わせています。厳選されたリッチな素材をかけあわせ、さらに柔らかく炊いた冬瓜と削りたての黒トリュフを巻き込み、仕上げには山芋のピクルスとマイクロハーブの「セロパセ」を。出汁とトリュフの出会いに驚かされる一品です。
メインと締めの一品で「ハイブリッドビーフ」の魅力に触れる
メインの肉料理は、鉄板で焼き上げるステーキに加えて、オリジナティが光る「テンダーロインの鉄板カツレツ」も登場します。4cmの厚みにカットしたフィレ肉をあらかじめ炭火である程度焼いてから、微細なパン粉の衣を薄くまとわせて鉄板で揚げ焼きにするという調理法により、柔らくジューシーという「ハイブリッドビーフ」の持ち味を存分に楽しめます。仕上げには、衣の上に藻塩と黒胡椒を軽く振り、塩とマスタードを添えて。みずみずしいクレソンのサラダでお口直しをしつついただけば、するりとお腹に収まります。
コースを締めくくるお食事は、愛らしい肉巻きおにぎり。神田さん曰く「『かんだ』のシグネチャーであるご飯とハイブリッドビーフを融合させるには?」の最適解がこちらなのだそう。まず、艷やかな白いご飯をサーロインの薄切りで巻いて鉄板でこんがりと焼きます。そこに、みりんや醤油、砂糖、酒をベースに昆布やかつお、にんにくなども加えて寝かせた特製ダレを、ジュッ!最後のお料理だというのに食欲を掻き立てられてしまうこと必至です。
ご紹介した4品のような、要所要所に鉄板を使い趣向を凝らした品々が楽しい「FUJI KANDA」のコースは、宿泊+追加料金¥12,100で利用可能。客室同様に富士山側に面したお席は、唯一無二の“シェフズカウンター”です。これまでの鉄板焼きのイメージをアップデートする、至福のディナータイムをぜひ。
※2名利用時の1名料金一泊二食¥67,500〜に、追加料金¥12,100で利用可能。
※表示価格は、税・サービス料込みです。また、曜日・時期により料金は変動します。
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この記事の執筆者
1972年生まれ。レストランを偏愛する健啖家として、グランメゾンから大衆酒場までを日常的に巡る。著書に『自分史上最多ごはん』(マガジンハウス)、『東京最高のレストラン』(共著・ぴあ刊)など。