狩猟や登山など、特定の目的に合わせて作られた服が、ユーザーに注目されるに従って垢抜けていくのはよくあること。軍用車から派生したメルセデス・ベンツ Gクラスもそうだ。最初はエンジンも快適装備も控えめだったのが、年を追うごとに大排気量化して、内装はウッド&レザーで覆われるようになった。Gクラスが面白いのは、男の道具然としたキャラクターに加え、変わらぬスタイリングがクルマに疎い人にも強い印象を与え、特に女性から圧倒的な支持を受けている点だ。同じような見方をされているクルマにポルシェ・911があるが、(クルマの普遍的な速さを体現した)スポーツカーではないGクラスに女性が惹かれるのは、そこに男の強さを重ねているのではないか。クロスカントリーを得意とする同系統のSUVが、未だに野趣を維持しているのに比べ、Gクラスはラグジュアリーを極めていくことで、街を歩く淑女が振り向くほどの洗練を身につけたのだ。そんな現代進行形の名車が、ついにフルモデルチェンジを果たした。無二の魅力は健在なのかを、ライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏がリポートする。

ラリーカーの練習場を激走!

旧型よりも大柄になったボディは、2890ミリのホイールベースに全長4817ミリ、全幅1931ミリ、全高1969ミリ。
従来モデルとかなり共通のイメージだが、よく見るとスペアタイヤの下に、新たに移動されたリアビューカメラのハッチがわかる。

 青年は荒野をめざす。そう書いた作家がいたが、男は中年になっても荒野をめざしたい。バブアーのコートもレッドウィングのブーツも、いくつになっても手放せない。

 クルマでいうと、そんな荒ぶっていたい魂を抱える男が惹かれてやまないのが、メルセデス・ベンツ Gクラスだ。

 NATO用の車両のスピンオフとして販売開始されたのが1979年。湾曲した部分などほとんどない鉄板に窓ガラス。高いところに置かれて割れにくいウィンカーなど、機能に徹したデザインを39年間守り続けてきた。

 そのGクラスが2018年初頭にフルモデルチェンジを受けた。そして試乗会が、南仏を舞台に開催された。メルセデス・ベンツ G500と、メルセデスAMGのG63である。

 新型になっても守り続けられているのは、本格的なオフロード走行のために必要なラダーフレームシャシーに、四輪駆動システムに、前と後ろと中央に設けられたディファレンシャル(差動)ギアのロックスイッチだ。

 ボタン一つでクルマが坂を下ってくれる安逸なシステムはない。悪路では、あくまでドライバーが主体。どのギアを選んで、どのディフ(=ディファレンシャルギア)をロックするか決めて走る。

 今回試乗コースに含まれていたのは、ダカール・ラリーの練習にも使われるというシャトー・ド・ラストールのオフロードコース。ワイナリーのオーナーの趣味が高じて作られた、かなり本格的な道である。

 そこでG500とG63に試乗した。ともに3982ccのV8エンジン搭載。G500は310kW(422ps)の最高出力と610Nmの最大トルク。G63は430kW(585ps)の最高出力と850Nmだ。

 クルマがつんのめってでんぐり返りをしそうな急勾配の上りと下り、横倒しになるのではないかとビビってしまったけわしい横勾配。それに深い水たまり…。

 G63には「スリッパリー」「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」「インディビデュアル」に加えて、3つのオフロードドライビングプログラムが備わっている。

 ボタンで簡単に呼び出せる3つのモードは「トレイル」「サンド」「ロック」。サスペンションやステアリングの重さやアクセルへの反応が変わる。中東の、道路と砂漠が切れ目なく続いている環境が得意なようだ。

縦バーのパナメリカーナグリルが特徴のG63は、独自のサスペンションとギア比とオフロード用のドライビングモードを持つ。
ひっくり返っているのではなく、G63が悪路から抜けだそうとしているところ。

洗練されても内に秘めた男らしさは不変

こちらは横バーグリルを持つG500。

 G500はそれに対してよりオールマイティぶりが際立つ。さきに触れたように、トランスファーのローレンジとマニュアルシフトとディフロックを駆使すると「こんな坂?」と思うような急勾配でもなんなくこなしてしまう。

 外から見ているとタイヤが3輪、地面から離れてしまうような場面でも、1輪でグググッと地面をつかみ、クルマを前へと進めていく。

 なんでも、新型は従来モデルよりもオフロード性能を強化しているそうだ。

 それでいて、一般道では乗り心地がよくなり、車体の動きはどしっと乗用車なみになり、そしてステアリングホイールの切れ角に対する応答性はよくなった。

 高速でも、エンジン音はあくまでも心地よく、風切り音は遮音材と空力的付加物の恩恵で低く抑えられて、これがGクラスなのかと洗練ぶりには驚くほどだ。

 インテリアの作りは質感があがり、全体としてはSクラスのようになった。インフォテイメントシステムと運転支援システムも備え、長距離をこなすグランドツアラーとしての性能を備えているのだ。

 かつてのGクラスのような荒々しさは姿を潜めた。それでいてオフロードでの走行性能は向上している。ドライバーの操作がいろいろと必要なのは依然として変わらない(すぐ慣れるが)。

 高級一眼レフとかオーディオ装置のように、あるていどの習熟を必要とし、しかし、いちど操作を会得すれば、それ以上はないほどの性能ぶりを堪能させてくれる。新型Gクラスはそんなすぐれた道具である。

助手席のグラブバーは先代の特徴を活かしたものだが、大型液晶パネルのモニターなどが新しい。
横開きのリアゲート、スクエアで荷物を積みやすいラゲッジは新型も踏襲。
この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。
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